サンドラちゃんの旅立ちの日。
私達とムリス姉弟は南の城門で馬車を待っていた。
「シルバ、シドニー。強く生きるのよ。そして、やられたら必ずやり返しなさい。クタナツに負け犬の居場所なんてないの。分かったわね?」
「「はい、姉上!」」
二人の弟を残して自分は遠く離れた王都へ行く。心配だろうな。
「サンドラちゃん。うちの弟、アルベリックが面倒を見るって張り切ってたわ。兄貴分になって嬉しいみたいなの。」
「ありがとう。どうにもならない時は頼らせてもらうわね。私も世話になりっぱなしで……」
アレクはサンドラちゃんに紹介状を持たせたらしい。宛先はアレクサンドル一門の本家。アレクの名前で効き目があるかどうかは分からないそうだが、手ぶらで頼るよりマシだろう。
「僕からはこれ。王都に着いたら開けてみてね。面白い物が入ってるよ。」
「カース君……もう何回言ったか分からないけど、言い足りないわ。本当にありがとう。」
「王都の魔法学院には姉上もいるし、困ったら行ってみるといいかもね。意外と優しいところもあるし。」
「うん、エリザベスさんね。カース君のことをしっかり話しておくわ。
セルジュ君、スティード君、こっちに来てくれる?」
おおお、ついに秘密の三角関係が明らかになるのか!?
サンドラちゃんは右手をセルジュ君、左手をスティード君の顔に回して二人を引き寄せた。そして順番に二人の頬に口付けた。
「二人とも私がもらってあげる! 嫌なら逃げていいわよ。分かった?」
「サンドラちゃんはひどいなあ。僕は長男なのに。」
「僕は三男だからね。全然問題ないよ。」
まさかの一妻多夫宣言。セルジュ君もひどいなあと言いつつ嫌がってない。
「じゃあしっかり稼いでおいてね。そしてみんなで大きな家に暮らすのよ。クタナツでね?」
「敵わないなあ。まったくサンドラちゃんは。」
「任せてよ。カース君に負けない強い男になるよ。」
面白い関係になったものだ。どちらか選べないなら両方! 潔くて好きだ。
それからサンドラちゃんはさっさと馬車に乗り込み、一度も振り返ることはなかった。その小さな肩が震えているように見えたのは、気のせいに違いない。
私達は馬車が見えなくなるまでその場に佇んでいた。
それから数日後、セルジュ君とスティード君の旅立ちの日が来た。見送る場所はやはり南の城門。男同士多くを語ることもあるまい。
「じゃあまたね。これ餞別。一個ずつね。」
そう言って私はミスリルの腕輪を渡す。
「これ、ミスリルだよね。子供が子供にあげる物じゃないよ。カース君には今更だけど。ありがたくいただくね。」
「きっと僕らを守ってくれるよね。ありがとう。早速着けてみるね。」
「二人とも元気でね。私もすぐに行くから、また領都で会いましょうね。」
割とあっさり二人は馬車に乗り込み出発して行った。領都だし、またすぐ会えるしな。
そしてまた数日後、ついにアレクが出発する日が来た。アレクパパとママ、そして弟のアル君に見送られ私とアレクは飛び立った。領都までは私が送り届けるのだ。
新しい日々が始まる。私達は春の風に吹かれながらミスリルボードを飛ばし領都に向かった。
私達を待つのはどんな日々だろうか。
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