夜中、暗い中を辺境伯家まで戻り治療済みの十三人を寝かせる。ゼマティス家に残してきたのはソルダーヌちゃんとエイミーちゃんだ。
「ただいま。大丈夫だった?」
「おかえりなさい。ソルを助けてくれてありがとう。こっちは問題なかったわ。でも……」
目算で十人、即死だった。くそ……ろくに目的のないテロか……厄介すぎる……
とりあえず……
「マリー、こっちの二人を拷問しておいて。何も聞き出さなくてもいいから。死なないようにね。」
「かしこまりました。」
マリーは生け捕りにした幹部を二人、屋敷の裏手に連れて行った。私は残った一人から情報を探ってみよう。
「ちょっと上空へ行ってくるね。こいつを吐かせやすくしないとね。」
「ええ、気を付けてね。」
生け捕りにした三人のうちマリーが連行したのは五十代と二十代の男だ。私の方には三十歳前後の女が残っている。こいつを連れて雲の上へ。
ミスリルボードの上にこいつを残して、私はボードの下へと身を隠す。そして『落雷』さあ、目を覚ましやがれ。
『目覚めよ、我が子よ……』
ボニ何とかがやっていた声色を意識して『伝言』の魔法を使ってみる。
『目覚めるのだ……』
「はっ、ここは……」
『よく来たな……』
「こ、このお声は!?」
『ほう……我の声を知っておるか……褒めてつかわす……』
「ははあぁー!」
『よくぞここまで来た……我はお前の名を忘れないであろう……名乗るがよい……』
「ははぁ! 私は敬虔なる神の信徒! キャプシーヌ・ネルホールズにございます!」
『キャプシーヌ・ネルホールズよ……そなたの信仰に褒美を当たえよう……』
「あ、ありがたき幸せにございます!」
『では約束だ。我に忠誠と服従を誓え。さすれば我の力をあたえよう……』
「も、もちろっんにっごっざぉぅいます、こ、これが神の魔力……」
「はい終わり。俺がお前の神だ。お前の忠誠と服従、確かに受け取ったぜ。では約束通り俺の力を当たえるぜ。」『落雷』
「そん、ぎゃっぽ……」
まあ、軽い落雷だから死にはしないだろう。我ながら今のは完全に詐欺だな。でも上手くいってよかった。むしろ『力を与える』だとどうやっていいか分からないもんな。
「ただいま。バッチリ契約魔法をかけてきたよ。残りの二人も同じようにやってくるよ。」
「さすがの早業ね。心配する時間もないじゃない。」
早く終わらせてアレクと同じ布団に入りたいのだ。まだ夜中なんだから。
「マリー、調子はどうだい?」
「おかえりなさいませ。お言いつけ通り拷問の最中です。今はこ奴を責めております。」
現場は凄惨だった……
責められてない方、二十代の男の方だが……目の周りに何かを刺されており、目が閉じられないようになっている。その上、両手は肩口から切断されているのに出血していない。下半身は土中に埋められているようだが、果たしてそれだけなのか……
そして、現在責めている方、五十代の男だが、全身あちこちから液体が漏れている……外傷は見当たらないが、何をやったんだ?
「今は何をやってるの?」
「幻覚を見せております。傷は付きませんが、痛みは感じております。発狂する前にやめるつもりではありますが。」
今のトーンは……夕食までには帰るつもりです、と変わりない。さすがマリー、恐ろしいぜ。
「じゃあ幻覚を解いてくれる? 続きは上空でやるから。」
「かしこまりました。ご存分に。」
なーんかマリーがよそよそしいな……私が小さい頃ってこんな感じだったような?
さて、五十代の男を連れて再び空の上。今のこいつに虚構と現実の区別はついているかな?
『目覚めよ……』
「ふ、ふあっ、ま、魔王サタナリアス! き、きき、貴様の罠になど負けんぞ!」
マリーはどんな幻覚を見せたんだ……?
『我の声が分からぬか……』
「なっ、そ、そのお声は!?」
『よくぞ神の試練に打ち勝った……褒めてつかわす……』
「あ、あれは神の……やはり私の信仰は……ありがたき幸せにございます!」
『これからも我が信徒として忠誠を尽くすがよい……』
「もったいないお言葉でございます! もちろんでございます!」
『では約束だ……我に忠誠と服従を誓うがよい……さすればお前を総代教主にしてやろう……』
「わ、私がですか! ありがったきゅっう幸せにごぅざいまっす! おお、これが神の魔力……」
それにしてもこいつらのチョロさは何なんだ……ボニ何とかが大笑いしてたって話も納得だ。こんなに簡単に騙されるとは……私も笑いを堪えるのが大変なんだぞ。『落雷』
とりあえずこいつの名前は今日から『ソーダイ・キョーシュ』だな。
そして最後の一人も同じような方法で契約魔法をかけた。もう寝るぞ。この三人には永眠の魔法をかけておいたから自力で目覚めることはないだろう。こっちはアレクと昼まで寝るんだからな。情報集めはそれからだ。これで少しはまともな情報が手に入ればいいんだがな。あー眠い。
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