第二城壁内の繁華街をあちこちぶらぶらしていたら、もうすぐ夕方だ。そろそろ本格的に動くとしようかな。
先ほど狙いを付けておいた店は……あったあった。あれだ『ゼロゼロトトー』
昼間のより少しはマシそうな酒場だ。冒険者だけでなく騎士も来ないかと期待していたりする。
「いらっしゃい!」
ほう、快活そうな女性だ。席は……半分埋まってるな。
「とりあえず肉と酒、おすすめを頼むよ。」
「はーい!」
注文を済ませ空いてる席に座る。客層は見た感じでは中級の冒険者、そしてやや屈強な男が多いようだ。騎士なのか職人なのかよく分からないな。どいつもこいつもガンガン飲んでやがる。
「はーいお待たせー! オークの香草焼きとミントエールねー!」
「ありがとう。取っておいて。」
「きゃー! ありがとー!」
元気がいいからチップあげちゃう。
あ、おいしい。やっぱ場末とは違うな。きっと人気店なのかな? だんだん客も増えてきたな。
「ゲハハハハぁ! だから俺ぁ言ってやったんだ! 次の昨日に来いってな!」
「ギャハッハァ! バカじゃねぇか! そいつ連れてこいよ!」
「もぉーアンタっていつもそうなんだからー!」
「ヒャッハァー! 飲め飲めぇー!」
「俺はチキンじゃねぇぞぉー!」
喧騒が酷くなってきたな。エールのおかわりが頼めないじゃないか。
「なんだとぉ!? だから俺は言ってやったんだよ!」
「前の明日に来いってかぁ?」
「キャハハ! もーアンタらっていつもそうなんだからー!」
「ゲッフーイ! 食え食えー!」
「俺はエールを飲むぜぇー!」
どいつもこいつも酔ってんな。ごきげんでいいことだ。それより誰か手頃な奴はいないものか……
とりあえず、あの二人から行ってみるか……
「ちいっす先輩! いい夜っすね! 乾杯しましょーよかんぱい!」
「あぁ? なんじゃガキぃ?」
「俺らをダブルアクセルのモンだと知ってて言ってんのか、お?」
知るわけないだろ。腕力はありそうだが。
「な! なんですって! お二人があの!? お、お見それしました! いや、見るからに凄腕のお二人なんで挨拶を欠かすわけにはいかんと思ったら! 王都はよく知らないんで色々と教えてくださいよぉ! あ、これ俺の奢りでいきましょ、ね!?」
「分かってんならいいぜぇ。何でも聞けや!」
「ここじゃあ目が効かねぇ奴からぁ早死にするからなぁ、お?」
「いやぁそれにしてもまさかダブルアクセルのお二人にお会いできるなんて! 自分の強運が怖いっすよ! あ、これも食べてやってくだせぇ! あ、俺はフランティアの田舎者カースってもんです。」
「へっへっへ、分かってんじゃないか。まあお前も飲めや」
「お前は長生きするぜぇ!」
こいつら系って同じことばかり言うよな。
「おっ、こいつぁすいません。いただきます兄貴!」
あれこれ聞き出した結果、やはり昼の奴らの言ってたことは間違いなかったようだ。今の王都ってそうなってんのね。宰相って国王の一声で決まるってわけでもないんだろうな。まあ色々あるわな。
「ねえ兄貴ぃ、実は俺さ『お抱え』になりたいんすよ。兄貴達ってめっちゃ顔広いっすよね? どこか紹介してくんないっすかぁ……あ、もちろん謝礼だって用意してんすから!」
「ほぉ? お前お抱え志望かよ。七等星じゃあキツいぜぇ?」
「そうそう。せめて六等星になってからだなぁ。まっ、アテがねぇこともないぜぇ?」
『お抱え』とは『貴族お抱え冒険者』のことだ。金のある上級貴族は大抵お抱え冒険者を十何人と雇っている。腕に応じて色々とやらせる便利な存在だ。色々とな。一方、冒険者側からすると不安定な依頼なんかをこなさなくても安定して金が入ってくるという、一攫千金と引き換えの比較的真っ当な生き方だ。
「マジっすか!さすが兄貴! ハンパねぇや! で、何て貴族なんすか?」
「まあ焦んじゃねぇよ。お抱えは競争率高ぇからよ、人に聞かれるわけにゃあいかねぇ。場所を変えんぜ?」
「ここはお前が払っとけや?」
ニヤニヤしながら言うんじゃないよ。魂胆がバレるぜ? でもこのぐらい払ってやるさ。
「任せてください! 今夜はとことんいきましょうや!」
それにしても情報収集って大変だよな。スパラッシュさんもこうやってコツコツ情報を集めてたのかな。
奴らに連れてこられたのは路地裏の廃屋。王都にもまだまだこんな所があるんだねぇ。
「さあて、ここなら誰も来ねえ。安心して話せるぜ?」
「おおよ。さぁてと、出すモン出しなぁ?」
「これっす! がんばって貯めたんすよ!」
金貨を十枚ほど見せる。
「へへっ、中々持ってんじゃねえか?」
「ほら、さっさと寄越せや?」
「ちょっと待ってくださいよぉ。どこに口利いてくれるのか教えてくださいよぉ。」
「へっ、用心深いガキだぜ! そんなことぁいいからさっさと寄越せ!」
「誰も助けなんか来ねえんだぜ? それとも死にてえのか、お?」
あーあ。やっぱこのパターンか。せっかくの私の演技が台無しじゃないか。でももう少しだけ続行。
「あれ? もしかして兄貴達って顔が利かない感じですか?」
「舐めんじゃねえ! そこらの侯爵家ぐれぇならどうにでもならぁ!」
「ダブルアクセル舐めんじゃねえぞ!」
おおっ! 侯爵家! これは期待が持てる!
それならもう演技の必要はないな。
『消音』
『拘禁束縛』
『水壁』
さあ、いつものやつを始めよう。
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