現れたのはクタナツ学校の頃の同級生、パスカル君だった。ベレンガリアさんの弟でもある。
「やあパスカル君。久しぶりだね。僕がここにいるってよく分かったね。」
「久しぶり。あんなに大声で呼びかけたんだから分かるに決まってるよ。ここに来たのは助けて欲しいからなんだ。」
そりゃそうか。拡声の魔法でソルダーヌちゃーんって叫んだもんな。
「助け? パスカル君に助けなんているの? まあそういった話はソルダーヌちゃんとするといいよ。おーい、ソルダーヌちゃーん。来てくれる?」
疲れた顔をしたソルダーヌちゃんと、険しい顔をしたエイミーちゃんが来てくれた。
「パスカル君が助けて欲しいんだって。詳しく話を聞いてあげて。」
秘技丸投げ。パスカル君一人を助けるのは簡単だし、やってもいい。数少ない友人でもあるのだから。どうなることやら。
「突然恐れ入りますソルダーヌ様。助けを求めてやって参りました。正確にはカース君との友誼に縋りたく罷り越しました。」
「具体的にはどうして欲しいの? いくらカース君でも無理なものは無理よ?」
「ここに避難させてください。さらに避難するまでの間、警護をカース君にお願いしたいのです。人数は十人ほどです。」
「貴方がた日和見の法服貴族派が随分と都合の良いことを言うものですね。辺境派に鞍替えでもするのですか?」
エイミーちゃんはキツいな。ソルダーヌちゃんを守ろうとしてるんだろうな。私は構わないんだがね。
「カース君もソルダーヌ様もお金なんかで動くことはない。だから条件があるなら丸呑みするし、嘘偽りなく助けを求めた。僕にできるのはそれだけだ。」
「いいわよ。ただし私が許可を出せるのは、ここに避難すること、その一点のみ。毛布、食料などは渡せないし、立入エリアも限定する。いいわね?」
「ありがとうございます。ではカース君、警護の件はどうだろうか?」
まあ十人なら何とかなるかな?
「いいよ。やろうか。」
「ありがとう。都合のいい頼みをしておきながら、何も返せるものがない。この恩は忘れないよ。」
「いいよそんなの。こんな時なんだから助け合わないとね。じゃあソルダーヌちゃん、行ってもいいよね?」
「ええ、早く帰って来てね。」
こうして私とパスカル君は屋上を出て彼らが身を隠している場所へと移動する。
「ソルダーヌ様とはどうなってるんだい? アレクサンドリーネ様はいいのかい?」
「実はアレクの頼みなんだよ。ソルダーヌちゃんを助けてあげてくれってことで、夕方前に来たんだよ。」
「そうなんだね。じゃあアレクサンドリーネ様は?」
「ゼマティス家にいるよ。あっちも大変だからあまり来たくなかったんだけどね。」
「そうか。そんな時なのに申し訳ないね。本当にありがとう。」
「いいんだよ。同じクタナツで育った仲なんだから。そういえば他の派閥もここに避難してたりするの?」
「おそらくね。夏休みだから半数以上が領地や実家に帰ったと思うけど、居残り組はツイてなかったね。」
全くだ。イカれた狂信者どもめ……後先考えずに暴れやがって……クーデターするならもっと計画的にやれってんだ。
「着いたよ。この教室に立て籠もってたんだ。みんなもう限界で夜間の警戒すらできない状態なんだ。そこでカース君に賭けたってわけ。」
「まあソルダーヌちゃん達と合流したら安心だよね。あの派閥はよくまとまってるもんね。」
「そのようだね。羨ましいよ……じゃあ少し待っててくれる? みんな! 帰ったぞ! あの、魔王カースが助けてくれるぞ!」
そう言ってパスカル君はバリケード上方の隙間から中に入っていった。パスカル君達を送ったら一旦ゼマティス家に戻ろうかな。アレクの様子を確認してからまた来よう。
遅いな? 話し声はボソボソ聞こえるのに全然出てこない。支度が必要なほど荷物なんかないだろうに。少し遠いけど伝言の魔法を使ってみるか。
『パスカル君、大丈夫? もし助けがいるならさっき入ったところに何かを投げてみて』
あ、早速板切れが飛んできた。ならば入ってみるかな。狭いな……
あれ? 十人どころか二十人を超えているぞ?
「あなたがカースですの? ワタクシはメギザンデ・ド・アリョマリー。ここはもう結構ですの。お帰りになっていいですの。」
「どうも。カース・ド・マーティンです。」
「ぬっ! メギザンデ様に向かって何たる口のきき方を!」
「所詮は野蛮な田舎者か!」
「さっさと帰れ!」
何だこいつら?
「パスカル君、どうなの?」
「カ、カース君の助けが必要だ!」
「パスカル君? 王国貴族としての誇りはないんですの? 辺境派などに助けを求めるなんて恥を知りますの!」
「貴様パスカル! メギザンデ様の姉君がお二人も虐殺エリザベスの手にかかっておられるのだぞ!」
「それでも辺境派に尻尾を振ると言うのか!」
「よく考えて物を言え! 上級貴族とは名ばかりの法服貴族の分際で!」
あらら、うちの姉上に姉を殺されてるのか。それは可哀想に。でもパスカル君だけは助けてあげたいな。どうしよう。
「じゃあ一つ提案。僕が姉に変わって謝罪をするのじゃあダメかな? お姉さんのお墓に跪いて魂の安らぎを祈るのでは?」
「許せるはずがないだろう!」
「許して欲しいなら貴様の姉の首を持ってこい!」
「それとも貴様が首を置いてくか!?」
だめか。どうせ決闘で負けたんだろ? それなのに謝罪を要求するとは貴族の風上にも置けない奴らだな。そもそもパスカル君達は違う派閥なんだろ? 関係ないじゃん。放っておけってんだ。
「じゃあしない。それと最終確認。僕と一緒にソルダーヌちゃんの所に行きたい人は手を挙げて。」
パスカル君と他二名か。
「あらあら、どうやらあなた方は王国貴族の誇りを捨ててしまったようですの。もはや日和見の法服貴族派として生きていくことも大変ですの。せいぜい命を大事にするがいいですの。」
「恥を知れ!」
「メギザンデ様の温情にも限りがあるぞ!」
「せいぜい辺境派に尻尾を振って生き延びるがいい!」
派閥って大変なんだな。
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