結局手本引きをすることなくラグナは動き出した。私はひとまず辺境伯家に行ってみよう。まずはダミアンと話す必要があるだろう。
着いた。門番さんは快く通してくれる。セバスティアーノさんはいないようだ。勝手知ったる辺境伯家。ダミアンの部屋はギリギリ覚えていた。お、ここだ。
ノックもせずにドアを開ける私。部屋の中ではメイドさんが……寝そべるダミアンの上に乗っていた。こいつ……
「きゃあ!」
「おおカースか、まあ待てよ。もう少しだからよ。」
「邪魔したな……」
何が『もう少し』だこの野郎……おぞましい光景を見そうなので一旦外に出る。帰ろうかな……
五分後、身嗜みを整えたメイドさんが出てきた。私に会釈して何食わぬ顔で去って行ったな。
「呑気にお楽しみかよ。ダミネイト一家の奴らはあたふたしてるぜ?」
「おう、オメーにも心配させたか。すまねーな。ちぃとばかり恨みを買っちまったみてーでよ。親父殿の力も借りて対策してるところよお。」
「辺境伯閣下が動いてんのか。俺も好きに動くからよ。その辺りを伝えに来たってわけだ。」
ついでにラグナのことや毒針のことも伝えておく。
「そうかよ。オメーも動いてくれるんなら俺も心強いわ。頼りにしてんぜ?」
「まあ、いくらお前でも死んだら寝覚めが悪いからよ。情報があったらしっかり出せよ? 相手が何人かも分からねーんだからよ。」
「おお、そのラグナだっけ? そいつもここに入れるようにしておくからよ。気軽に来るよう伝えておいてくれや。」
「おう、お前も気を付けてな。ここにいれば安全とは思うがよ。じゃあな。」
さて、私はどうしよう。こんな時どう動けばいいかなんて分からないんだよな。たいていは『隠形』を使って怪しい奴の後をつけるだけだったもんな。その怪しい奴が見つからないと、やることがない。
あっ、狙われてる理由を聞くのを忘れてた。恨みを買いすぎたとか言ってたな。他の闇ギルドを領都から叩き出した件かな? もはやダミアンが狙われていることなど瑣末なことだが。
貴族ネットワークは辺境伯が動いている以上万全だろう。
闇ギルド関係のネットワークもダミネイト一家がばっちり押さえているはず。そこにラグナが加わればより確実と言える。
同様に、冒険者関係も押さえているだろうから私の出番などないか?
いや、私にしかないネットワーク……それは子供ネットワークだな。これ系の情報に詳しい子供と言えば……セルジュ君かな? さっき別れたばかりで行きにくいが、寄ってみよう。
到着。思えば一人でセルジュ君の部屋に来るのは初めてかな。ノックしてもしもし。
「はい?」
帰ってきたばかりで来客かよ、面倒だなって声だ。
「やあセルジュ君。さっきぶり。」
「カース君!? どうしたの? まあ入ってよ。」
おお、セルジュ君は机に本を広げて勉強をしていた様子だ。まさか夏休みの宿題じゃあないよな?
「実はセルジュ君に情報を探って欲しいと思ってね。ダミアンなんだけど……」
簡単に事情を説明する。
「なるほど……ダミアン様も大変なんだね。分かったよ。あれこれ聞くだけ聞いてみるね。何か分かったらカース君ちに知らせに行くよ。」
「ありがとね。なんせ敵の数も素性も分からなくてさ。しかもなぜか『毒針』にムカついてしまってね。絶対仕留めたいんだよね。」
「カース君がそんなに敵意を剥き出しにするなんて珍しいね。僕も気を付けながら探ってみるよ。」
「安全第一で頼むね。ラグナが毒針は超一流って言ってたからさ。あ、これ費用ね。こんな場合はお金を惜しむと上手くいかないらしいからさ。」
金貨で百枚。これだけあれば足りるだろう。
「こんなに!? 多過ぎるんじゃない!?」
「いいのいいの。どうせ後でダミアンに払わせるから。気にせずガンガン使ってね。」
「そう? なら遠慮なく……カース君って友達想いだよね。」
そうかな。そうかも。セルジュ君を危険なことに巻き込んだ気もするけど、まあ問題ないな。セルジュ君だってクタナツの男。見た目は丸々してても心はクタナツなんだから。
さて、これで私に出来ることはもうないか?
うーん……
古い話、昔話の情報を集めるには……クタナツだ!
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