「問題なさそうね。処置が早くて幸いだったわ。」
「よかったよ。母上ありがとね。」
母上がそう言うなら間違いない。助かった……
「ところで、アレックスちゃんが抵抗もできないほどの速さで襲われたのよね? カースが駆け付けるまで一分も経ってないのよね?」
「うん、そうなんだよ。」
それがどうかしたのか?
「普通のスライムにしては動きも溶かすのも速すぎるのよ。アレックスちゃんの装備ってそこそこいい物じゃない? それを一分もかからずここまで溶かすなんて魔境の中でもかなり危ない部類よ?」
「じゃあ浄化槽のスライムじゃなくて野生のスライムが入り込んだってことかな?」
「その可能性はあるけど、浄化槽の構造的に難しいのよね。マイコレイジ商会だったわね? しっかり相談してみるべきね。死にかけたんだから。」
「そうだよね。いつもありがとね!」
やはり母上は頼りになるぜ!
「ところでカース、魔力感誘のことは知ってるわよね? エルフの飲み薬を飲んだ後、何か変化はある?」
「いや、ないよ。姉上が言ってた魔力の流れが見える感覚だっけ? そんなのなかったよ。」
「そう。やっぱり特殊な薬だからかしら。お昼までまだ時間があることだし、魔力感誘と対戦してみる?」
「やりたい! 母上の領域ってのを見てみたい!」
アレクを寝かせたままなので後ろめたいがコーちゃんとベレンガリアさんに任せておこう。私は母上と城壁外へ移動した。
クタナツ北部もだいぶ開拓が進んでおり、対戦向きの荒地は少々離れないといけない。
「さ、この辺かしら。じゃあカース、まずは一発ずつ撃ってらっしゃい。」
「押忍!」
母上に向かって攻撃するなんて……ドキドキするな……
まずは大腿部を狙って『狙撃』
うおっ!
マジかよ!
母上は何事もなかったかのように涼しい顔をしている。私のライフル弾が……こっちが正しいルートだと言わんばかりに避けていった。
『狙撃』
今度は一度に三発。頭に一発、胴体に二発。しかし当たらない。すごい……
「いい感じね。もっと大きな魔法でもいいわよ。」
「押忍!」
『火球』
直径二メイル、岩が溶けるほどの高温だ。
しかし、意味がない。何事もなかったかのように明後日の方向へ行ってしまった。ならば!
『火球』『狙撃』
火球を目眩しにしてライフル弾を撃ち込む!
しかし……
「いい考えね。でも魔力の流れが見えていれば難なく対処されてしまうわよ。」
なるほど……ならば……
『榴弾』
数百発のベアリング弾だ! どうだ!?
全くだめだ……
まるで工場のラインのようにベアリング弾がきれいに他所に飛んで行ってしまった。しかもホーミング弾のはずなのに、なぜかホーミングが解除されている……何をやったんだ?
『魔弾』
『徹甲魔弾』
だめか……
私の切り札さえ母上には通用しない……
どう撃っても母上に接近すると、きれいなカーブを描いてあらぬ方向に飛んで行ってしまう。
かくなる上は。
『水壁』
母上の周囲十メイルを水で覆い尽くした。そして水圧百倍!
あっ! 母上は氷壁で防御している。ついに防御させたぞ! いけるか!? 水圧五百倍!
なっ、なんだこれ!?
私の手が勝手に私の首を絞めている!
水壁も解除されてしまった……
何事なんだ!?
ぐっ苦し……息が……
「ここまでね。」
手から力が抜けて首が解放された。
何だったんだ?
「ゲホ、参ったよ。やっぱり母上は凄いんだね! 王都でも大人気だったし!」
「うふふ、実は危なかったのよ。死ぬかと思ったじゃない。」
「え? そうなの? 結構善戦できたのかな?」
「かなりね。もう魔力が無いわ。連れて帰ってちょうだいね。」
マジかよ。ギリギリだったのか。魔力的には私はほとんど減ってないのに。
「ところで最後のアレは何? もしかして昔言ってた禁術?」
「あら、よく覚えてたわね。人の体を操る術よ。結構難しいんだから。」
「あれ? あの時って母上は使えないって言ってなかった?」
そう聞いた気がするが……
「うふふ、そんなの嘘に決まってるじゃない。いい? 切り札と言うものはね、ギリギリまで誰にも見せないものなのよ?」
「押忍!」
さすが母上。我が子にすら油断してないのか。
「ところでどう? 魔力感誘は使えそうかしら?」
「挑戦してみるよ。アレクも頑張ってるみたいだし、心眼の稽古と合わせてやると効果的な気もするしね。」
「頑張りなさい。魔力が戻って本当によかったわ。よく今まで無事で……いてくれたわね……カース……」
そう言って母上はミスリルボードに倒れ込んだ。
嘘だろ……まさか……
ほっ、魔力が枯渇しただけか。
焦った。呼吸も鼓動も問題ない。
でも心配だから治療院に連れて行こう。アレクも母上も心配すぎるぞ……
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