九月一日、サラスヴァの日。
昨夜、一人で領都の家で過ごした私だが、今日は朝からクタナツに戻ってきた。
「ただいまー。」
「あー、カース君おかえり。本当に全然帰って来ないんだから。王都はどうだった?」
「面白かったよ。はいこれ、お土産と返事。」
「え? 嘘!? 届けてくれたんだ……ありがとう……」
珍しくベレンガリアさんが泣きそうになっている。意外な一面もあるもんだ。
「カースおかえり。無事みたいね。」
「母上ただいま。これ、手紙とお土産ね。」
「ありがとう。母上とお義姉さんからね。あら、エリからのお土産もあるのね。後で楽しみに読ませてもらうわね。」
それから私だけ遅めの朝食をいただく。領都の自宅で少し食べたけど、まだ余裕で入るぞ。
「それで母上どう? 父上は長い休みを取れそうかな。」
「ええ、大丈夫よ。このケルニャの日から十日ほど休めるわ。」
「バッチリだね! じゃあケルニャの日の朝に出発しようか。その間キアラは僕が面倒を見ておこうか?」
面倒と言っても炊事洗濯などはベレンガリアさんがいるし、ただそこにいるだけになるかな。
「お願いしていいかしら? そうそう、例の卵だけどそろそろよ。孵ったら名前ぐらい付けなさいな。」
忘れてた。何が出てくるかな?
「楽しみだね。ところで母上、この前日時が分かる魔道具があるって言ってたよね。高いやつ。それってどこに行けば買えるかな?」
日付を間違えてしまったからな。再発防止のため楽園に設置しておかねばなるまい。
「あら、買うの? 領都の行政府に相談してごらんなさい。クタナツでもいいけど、カースなら領都に行った方が早いと思うわよ。」
おお、やはり暦関係は民間ではないのか。
「分かった。ありがとね。じゃあ道場に行ってくるね! 夕方には戻るから。」
鍛え直さないといけないもんな。王国一武闘会もあることだし。
カースが出かけた後、イザベルとベレンガリアが紅茶を飲みながらそれぞれの手紙についてお喋りをしていた。
「カースったらやっぱり王都で暴れたみたいよ。アレクサンドル家の上屋敷を更地にしちゃったんですって。」
「こっちにも書いてありましたけど、それってカース君だったんですか……こっちには護衛同士の揉め事の結果だとか……」
「あそこの当主がアレックスちゃんに余計なちょっかいだしてカースの逆鱗に触れたみたいよ。」
「もう……何なんですかね? 無敵すぎません? 誰もカース君を止められませんよね。」
「うふふ、それに闇ギルドから賞金を掛けられたそうよ。例のムリス逐電事件の時の金貸しを捕まえたんですって。」
「大活躍じゃないですか! それって結構厄介な相手じゃなかったんですか?」
シンバリーがなぜ今まで捕まってなかったのか? ああも容易く人前に姿を現わすような男がなぜ?
「王都の騎士団も困ったみたいよ。鼻薬を嗅がされてる者が多かったんでしょうね。せっかく見逃して甘い汁を吸い続けようと思ってたのに。詰所に突き出されてしまったら知らん顔もできないものね。」
「カース君らしいですね。さぞ騎士達も困ったでしょうね。シンバリーを上手く切り捨てないと収賄がバレてしまいますもんね。」
シンバリーが捕まったのは、やはり油断が原因のようだ。魔力が枯渇することはなく、体が再生する個人魔法持ち。騎士団にはしっかり付け届けもしてある。カースと出会うまではさぞかし我が世の春を謳歌していたことだろう。家出貴族の子供と聞いて、怪しいと思いながらも大金をせしめる機会とでも判断したのが運の尽きだったようだ。
カースは夕方には帰ってきた。道場の仲間に配ったお土産、師アッカーマンに渡した酒と手紙、その妻ハルバートに用意した王都のスカーフなどが好評だったようでヘトヘトではあるがニコニコしていた。
「ただいまー。」
「カー兄おかえりー!」
久々のキアラだ。少しは重くなったかな? 抱き上げてみよう。分からない。一ヶ月じゃあそこまで変わらないよな。
「キアラにもお土産だぞー。今度着てみるといい。」
「わーいカー兄大好き!」
ふふぅキアラはかわいいなぁ。やっぱりお姫様だ。ちなみにお土産はミニスカートだ。キアラのようなアグレッシブな女の子にはミニスカートがきっとよく似合う。
夕食時、父上にもお土産を渡す。アッカーマン先生に渡した物とは違うタイプの酒だ。ちなみに小さい樽で買った。
「ありがとな。大事に飲ませてもらうぞ。」
「飲み過ぎはだめだよ。週末も楽しみにしててね。」
「おお、ついに別荘にご招待か。ありがとな。楽しみにしてるからな。」
「私も行きたーい!」
おっと残念。キアラは連れて行けないんだよ。
「ケルニャの日だからだめかな。でも週末は僕と一緒に遊ぼうな。ベレンガリアさんもね!」
「わーい! 三人で遊ぶー!」
どこに行こうかな。三人で狼ごっこをしてもいいが。
それからはいつも通り、風呂でキアラに本を読んで自室で寝た。
そして恒例、子供たちが寝た後は大人達の夜が始まる。
「カースに賞金が掛けられたって?」
「ええ。白金貨三枚ですって。」
「さすがカース君ですよね。」
「俺にも昔賞金が掛かってたんだよな。スパラッシュが自分とこの暗殺ギルドと仕事をよく受けてた闇ギルドを全滅させてからは誰も来なくなったんだっけ。」
「結局どうなったのかしらね? 気にすることもないでしょうけど。」
「さすが旦那様! 素敵です!」
いつの間にかベレンガリアはアランのことをこう呼ぶようになった。
「ふふ、ベレンガリア。私とアランはケルニャの日から十日ほど留守にするわ。だからそれまでは貴女に譲ってあげるわ。じゃあお先に。」
「奥様……ありがとうございます!」
現在ベレンガリアは前のメイド、マリーが使っていた部屋を使用している。マリーがいた頃はアランもその部屋を使うこともあった。つまりアランは部屋の主が変わっても同じ部屋で同じことをしているのだ。悪い男である。しかしベレンガリアは幸せそうだ。
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