その夜、夕食時に全て話してみた。
隠すことが辛くなったわけではないが、進路的にそろそろ伝えておいた方が無難だと思ったからだ。
具体的には……
・将来金貸しをやること
・個人魔法を持っており、騎士長にも効いたこと
・冒険者登録をしたこと
両親は絶句していた。
一日でたくさんのイベントがあったせいだろう。
「お前、あの騎士長と一緒に風呂入ったのか……しかもその場で契約魔法とか……いや個人魔法か……」
「金貸しって大変なのよ? クタナツ内でやるなら安全だとは思うけど……」
「うん、まずはクタナツで細々とやるよ。そのうち領都に進出したりするかも。そこで母上には守りの魔法を教えて欲しいんだよね。解毒とか解呪とかも。」
「それはいいけど……いつから考えていたの?」
「うーん、小さい頃からかな。なるべく働かずに暮らしていきたいんだよね。」
すると父上が笑い出した。
「はっはっは、こいつは面白い。私そっくりじゃないか。これじゃあ文句も言えんな。死なないようにやれよ。」
「うん、ありがとう!ぼくも親孝行するから!」
これで家族への根回しはバッチリだ。
困った時は助けてもらおう。
そして夜、いつものようにアランとイザベル、マリーは酒とともにテーブルを囲む。
「ふう、カースには驚かされてばかりだな。」
「そうね。個人魔法にも驚いたけど、金貸しをやろうとするなんて。」
「思い起こせばカース坊ちゃんは個人魔法の話を興味深そうに聞いておりました。私の話を参考にどの程度ご自分の魔法を公開するか判断されたのでは?」
「そうなんだろうな。個人魔法は評判がよくないからな。」
「本当に大丈夫かしら? もし王都でそんなことしようものならすぐ殺されてしまうわ。」
「うむ、そのために守りを固めようとしているのだろう。もっとも解毒や解呪の魔法はカースには無意味だろうがな。」
「それもそうね。そうなると直接危害を加えられることだけ気をつけておけばいいわね。本当に変な子ばっかり。」
「私もいくつか便利な魔法に心当たりがありますので、お教えしたいと思います。」
カースが家族に相談をしたことは正解だったらしい。
魔力はまだまだ上がる、これから使える魔法の数が増えれば鬼に金棒だろう。
『闇金カース』、『呪いのカース』として恐れられる男はこうして誕生するのだった。
冒険者登録をした翌日、ヴァルの日。
いつも通り学校へ向かう。我ながら薄情だと思うが心身ともに元気だ。
「おはよ。聞いたわよ。冒険者やるんですって?」
「おはようサンドラちゃん。ついつい勢いで登録しちゃったよ。なぜかアレックスちゃんまで。」
「なぜかじゃないでしょう? 責任取ってあげなさいよ。」
「あはは、どうなるんだろうね。まあ僕は一人でやるけどね。」
さあ授業が始まる。
「皆さんおはようございます。今日は先日の『黄鶴楼にて』の続きをしますよ。
まずはみんなで声を出して読んでみましょう。」
『故人西の方、黄鶴楼を辞し
煙花三月古都に下る
弧帆の遠影、碧空につき
惟だ見る大河に流るるを』
「はい、よくできました。」
「ではバルテレモンさん、この歌の作者は誰ですか?」
「はい、リーハク・タイハクです。」
「お見事、正解ですね。
ではクールセルさん、故人って誰のことでしょう?」
「はい、モウコ・ネーンです。」
「バッチリですね! 以前勉強しました『春暁』のモウコ・ネーンですね。
ではテシッタール君、大河ってどこの何ですか?」
「え、ええと大きい河だと思います。」
「確かにそうなんだけどそれだけだと正解とは言いにくいですねー。
ではイヘンナさん、どうですか?」
「ムリーマ山脈から南東に向かって流れるアブハイン川のことだと思います。」
「よく覚えてますね。正解です!
ではミシャロン君、この詩はどんな内容ですか?」
「はい。友達が帰っていくのを見送る詩です。たしか田舎から都に帰るのを。春は旅立ちの季節だし。でもすごく広いアブハイン川に船がポツーンと一隻だけってところが別れの悲しさを表現してます。
最後の行ではもう船は見えないのにぼーっとずっと川と空を見てて、友達の無事が心配なんだと思います。」
「素晴らしいですね! ミシャロン君に拍手ー! お見事でした!」
ウネフォレト先生の話は続く。
「現在でもそうですが、この広いローランド王国で旅は命懸けです。船だろうと馬車だろうとです。この作者リーハクの二度と会えないかも知れない友との別れ、悲しみを読み取ってください。
そして皆さんもあと一年と少しで卒業です。
このように見送ってくれる友達はいますか?
見送ってあげたい友達はいますか?
クタナツで生きる者にとって生死をかけて戦うことは珍しくありません。その中で深い友情が生まれることもあります。
皆さん、命の使い道をよく考えてくださいね。」
珍しくウネフォレト先生が深い話をしてくれた。やがて来るそれぞれの分岐点ってやつだな。
二時間目、算数。
割り算もほぼ終わり、二桁のかけ算・割り算に入った。
三時間目、魔法
久々の魔力測定だ。今回は千まで測れる。
私達五人組はみんな千だった。
エルネスト君も千、イボンヌちゃんは六百ぐらい。
他の貴族達は五百程度、平民達は三百程度だった。
やはり埋めることのできないぐらい差が開いている。
昼休み。
いつもの分担で弁当をつつき合う。日常って素晴らしい。
ギルドの話題で盛り上がった。
スティード君がやたら食いついてきたな。
四時間目、社会。
結構遅れたけどサンドラちゃんに教えてもらったので追いつけた。
季節にもよるが天測はばっちりだ。
これで夜の魔境で困ることもないだろう。曇ってなければ。
五時間目、体育。
槍で水壁に向かって突いたり薙いだりしている。これはきつい。
当たった瞬間は剣より威力があるが、そこから槍を戻したり振り上げたりするのに意外と手間取る。槍を使う冒険者が少ないのはこの辺りにも理由がありそうだ。
今日も平和な一日だった。
週末は落とした鉄板を回収しに行かないとな。
鉄の量的には痛くないが、磨くのに時間をかけたから失うには惜しいのだ。
見つかればいいが……
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