「おぉ魔王、災難だったな。」
「いや、まあ儲かったからいいわ。」
六等星のオッさんだ。
「あんなガキどもでも金持ってやがったのか?」
「そこそこだな。手間賃ってとこか。あぁ、俺らは明日ここを発つわ。次にいつ来るかは未定だな。」
本当は数年前から中断している基礎の補強工事をしたいのだが。
「おお、そうか。それにしても本当に助かってるぜ。魔境で安心して寝られるなんてよ。」
「なあに、きれいに使ってくれたらいいさ。そのうち公衆トイレや大衆浴場も作るかもな。」
「そりゃあいいな! かなりありがてぇぜ! もう領主様じゃねーか!」
「期待しないで待っててもらおうか。じゃあな、おやすみ。」
「おお! またな! クタナツで会うこともあるだろうよ!」
夏休みが終わったら……エルフの村に顔を出して、昇格試験を受けて、また道場に通おう。
明日はクタナツに寄り道して、領都に行こう。そこで一泊してから王都だな。
この夏、楽園で過ごすのは今夜が最後か。無職の私としては気にせず過ごしていいはずなのに、かなり真面目に生きてるよな。さすがに引きこもって暮らせるような環境じゃないし、まあいいや。もうすぐメイドや執事も充実するだろうし。かなり楽に暮らせることは間違いない。
翌朝。珍しく私もアレクも早めに目を覚ました。昨夜は比較的早く寝たからだろうか。
「おはよう。何か作るわ、待っててね。」
「うん、ありがとね。」
アレクの料理は本当に美味しい。それを食べたら楽園での夏も終わりか……名残惜しいなぁ。
「ピュイピュイ」
コーちゃんが呼びに来てくれた。いい子だ。
料理は美味しかった。食後のお茶もじんわりと美味しかった。だから朝から……
〜〜削除しました〜〜
「じゃあ行こうか。まずはクタナツに立ち寄るよ。アレクは実家に顔を出したらどうだい?」
「それもそうね。カースはどうするの?」
「クランプランドに寄るよ。マギトレントを渡しておかないとね。」
これでマーリン宅に湯船をプレゼントできるってもんだ。
のんびり飛んで二時間後、クタナツに到着した。
「じゃあお昼ごろ呼びに行くから。また後でね。」
「ええ、待ってるわ。」
ちなみにカムイはアレクに付いて行ってもらってる。コーちゃんは私と一緒だ。
クランプランドで湯船の発注をして、ファトナトゥールで新しいシャツを注文した。偽勇者のせいでシャツの袖が切れてしまったからな。もちろん替えのシャツはあるが、たくさんは無い。オーダーメイドだし、早めに頼んでおかないとな。ウエストコートやトラウザーズは自動修復機能が付いているが、さすがにシャツに付けるのはもったいない。いくらかかるか分かったものではないからな。
道場にも立ち寄って王都で起こったことをアッカーマン先生に報告しておく。ついでに王都土産とヒュドラやマンタの肉を少々渡しておく。
お土産もだが、何より勲一等紫金剛褒章を我が事のように喜んでくれた。その流れで先生の師『剣聖』ヘイライト・モースフラット先生の話もしてくれた。
ヘイライト先生は豪放磊落な人柄で貴族と揉めることも多かったらしい。しかし決して喧嘩で剣を抜くことはなかったそうだ。もちろん魔法も使わず、いつだって素手で相手をしたらしい。そのせいで喧嘩に負けることもあったが、全く気にしてなかったそうだ。そんなヘイライト先生を門下生たちは歯痒くも、誇りに思っていたと。
ちなみに勲章に付いてる年金で生活が裕福だったかと言うと、貧乏な門下生が多くロクに月謝も貰わず教えていたらしい。それどころか食事の用意までする始末。さすがに飢えて倒れるほどではなかったそうだが、決して裕福ではなかったと……
うーん、剣聖と言われるだけあるのかな。私には真似できないな。
その後は昼まで少し時間があったので、稽古に混ざってみた。なんだかとても久しぶりに稽古をしたような気がする。
ショックだったのは『型が崩れている』と言われたことだ。一人でもコツコツやっていたつもりだったが、やはりきっちり道場に通うことは重要だよな。
アッカーマン先生は型なんぞ崩れていても勝てばそれでよい、とはおっしゃるが……
それは達人の理屈だな。私のような凡人が基本を疎かにするとロクなことがない。しっかりやろう。教えてくださーい!
うう、いい汗かいたが……体が痛い……
どうやら私の型は相当に崩れていたようだ……体が成長したことも関係するらしいが。体のあちこちを叩かれながら型を見てもらった。もちろん叩かれても痛くはない、正しい動きをしようとするのが痛いのだ。剣の道は果てしないな……
さて、アレク邸に行こうかな。お昼をご馳走になってから領都に向かおう。
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