司教ザガートに連れられて私達が立ち入ったのはまるで講堂。講堂との違いは机や椅子がないことだろう。
たくさんの信者が地べたに座りウンウン唸っている。いや、祈ってるのか?
「ここの教団員はまだ神の声を聴くことができない者達です。どうです? 参加してみますか?」
「いえ、結構です。」
ここでもアレクとサンドラちゃんは無言を貫いている。たまには私が話す役ってのもいいかな。がんばろう。
「ではこちらへ。こちらでは神の声を聴いた者だけが、さらなる高みを目指して修行しております。」
今度は暗い部屋だった。プラネタリウムのように天井にポツポツと光が見えるぐらいで、室内は冬の夕暮れより暗い。
「どんな神の声を聴いた人達なんですか?」
「神に名前はありません。神に種類はありません。神は唯一絶対ただそれだけ。よって神の名を問うことは当教団では不敬にあたります。お気をつけください。」
「そうですか。」
そういや、以前聞いたような気がするな。あーキモッ。
「ところでカースさん? あなたは現在の生活に不安はないですか? 突然強力な魔物に囲まれるとか、愛する女性が消えてしまうとか。人間なら誰しも不安に思うものです。」
「今のところないですね。」
「お連れのお二人はどうですか?」
「二人ともありませんよ。僕が保証します。」
二人はうんうんと頷いている。やはり喋らない作戦で間違いないようだ。
「しかし人の心は脆いもの。信じられるものがなければ容易く壊れてしまいます。そこでどうでしょう? お互いの愛を確かめてみませんか?」
「いえ、必要ありません。疑ったことなどありませんので。」
どうせ私達を分断したら薬やら何かで操るってパターンだろ。そしてそれを見た片方を絶望させて入信させるパターンだろ。始めっからやる気なんかないっての。
「おや? もしかして怖いのですか? 魔王ともあろう御方が?」
「ええ、怖いですね、手元が狂ってこの建物が更地になってしまわないか。うっかり寝ぼけて、起きたら家が灰になってるってよくありますよね。僕もそれでよく親に怒られたものです。怖いですよね。」
「ほほう、それは初耳ですね。幸いこの建物は石造りですから魔女様の炎でも燃えることはありません。」
ほぉう……
「その言葉、母上に対する挑戦ですね? 代わって僕が受けましょう。では試しにあの石壁を……」
『火球』
当然だが、壁は溶岩のように溶け落ちた。
「という訳です。寝ぼけて丸焼きにしたら大変だから帰りますね。あ、これ修理代です。ごめんなさい。」
そう言って私は大金貨を一枚渡す。震える手で受け取るザガート。話は聞けなかったけど、やはりマインドコントロールを仕掛けてくるような怪しい組織だと分かっただけで充分だろう。かーえろ。
するとどこからともなく白い鎧を身につけた集団が現れた。お? やるのか? こっちは客だぞ? いかんな、言い草がモンスターっぽいぞ。
「カースさん、いくらあなたでも教団騎士には敵いません。大人しく教えを聞いてみませんか?」
「敵わない理由を聞きましょうか。」
「簡単です。先ほどの火球を手前の者に撃ってごらんなさい。」
『火球』
「あちゃちゃたゃーあ!」
「えらく熱がってますけど?」
私の火球をくらって熱がるだけ……まるで偽勇者かよ。
「……どうです? 岩をも溶かすあなたの火球があの様です。すごい鎧でしょう?」
「攻撃していいってことなら容易くねじ伏せてみせますが?」
「強がりはおよしなさい。あれはローランド王国にない技術で作り上げた特殊な鎧。絶対魔法防御が組み込まれております。」
熱がってたじゃん。絶対じゃないじゃん。私の自動防御は余熱すら防ぐぞ?
「やっていいのならやりますが? 知りませんよ?」
「ふふ、どうぞお好きに。」
『金操』
教団騎士全員の両肩をぶち折ってやった。フルプレート系の鎧は金操との相性が最高なんだよな。今ので少し分かったことがある。
「ザガートさんよぉ? アンタ、偽勇者を知ってるなぁ?」
「な、何のことですか? 偽勇者? 分かりませんな。」
『落雷』『麻痺』『永眠』
疑わしきはギルティ。こいつは連行することにした。ゼマティス家に連れて行けば吐かせることもできるだろう。
どうしてこうなった……私はいつも何やってんだ?
ちっ、また新手が現れたか。こうなったらとことんやってしまうか。暴れるつもりなんかなかったのに。これじゃあ無法者じゃないか。まあいいや。教団と偽勇者の関係が分かりそうなことだし。できればもっと上の奴を連れて行きたいところだが……サンドラちゃんもいることだし、ここまでにしておこう。証拠品として鎧をワンセット貰っておくかな。男の鎧を脱がせるなんて面倒だな。さすがにそれだけのために手足をぶっちぎる気はないからな……よし、回収。
後はザガートを吐かせるだけか。そこら辺の奴に伝言だ。
「おい、総代教主に伝えておきな。今から連行する場所は王国騎士団本部だ。騎士長直々の取り調べだからよ。こいつは何もかも吐くことになるとな。」
嘘だけどね。そいつ以外は全員麻痺で済ませておいた。誰も殺してない。
さて、帰ろう。
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