ゼマティス家での夕食を終えたら再び貴族学校へと舞い戻る。アレクとサンドラちゃんにはもう寝るように言ったし正門はがっちりと氷で閉ざした。
「ただいま。アレクもゼマティス家も無事だったよ。」
「おかえりなさい。戻ってきてくれたのね。ありがとう。」
おやおやソルダーヌちゃんたら。そんなに心配だったのか。
「いいよいいよ。じゃあ僕はあっちで寝るから。何かあったら起こしてくれていいからね。」
「うん、ありがとう。アレックスが無事で何よりよ。」
こうして私はパスカル君達とはまた別の隅に来た。今気付いたが、彼女たちに風呂を提供すればよかったな。かなり疲れているだろうからな。まあいいや。寝よう。
う……
何やらゴソゴソする音で目が覚めた。まあ自動防御だけでなく、範囲警戒の魔法も使っていたから当然なのだが。あー眠い……
「誰?」
簡易ハウスの入口から奥に入れず困っているような動きだ。やや広めに張った自動防御に弾かれて入れないのだろう。
「エイミーです……入れていただけませんか……」
これはまた珍しい。ソルダーヌちゃんが夜這いに来るぐらいはあるかと思ったら。まさかのエイミーちゃんか。さすがに夜這いではなさそうだ。
「いいよ。何事?」
『光源』
「失礼します。」
身をかがめて入ってきた。寝るだけのカプセルホテルのような簡易ハウスだもんな。座ることぐらいはできる。
エイミーちゃんは私の目の前に座ると、いきなり服を一枚脱いだ。
「で、何事?」
「私の体を見てもどうも思わないのですか? 男性はこのような体がお好きらしいですが?」
この歳にしては大きい方だろう。アレクほどではないが。
「嫌いじゃないよ? もしかして僕を誘惑しに来たの? それなら悪いけどダメだよ。」
「くっ……女に恥をかかせるのですか!?」
「この際だからはっきりさせよう。僕はアレク以外に興味がない。だから君はもちろんソルダーヌちゃんを側室にする話もできれば無くなって欲しい。君はどう思ってる?」
「私は……あなたのような天才が嫌いです……絶大な魔力、恵まれた血筋、頼りになる先達……何でも持っているあなたが……」
ほう、そのアプローチで来たか。本当の天才はキアラなんだけどな。
「天才と言ってくれてありがとう。嬉しいよ。ところで王族がなぜあんなにも魔力が高いか知ってる?勇者の子孫だから?」
「そんなこと知ってます! 幼少期からの過酷な訓練の賜物です! もちろん勇者様の血筋であることは当然ですが!」
「だよね。僕はその王族と同じ訓練をしたらこうなった。信じる? 頭の中に蛇が這い回るような感覚って分かる? 結構地獄だよ?」
「なっ!? それだってどうせ魔女様のお力で……」
「正解。母上は凄いよ。先日だって手も足も出ずに負けたんだから。母上の魔力は僕の一割もないのにね。」
「……どうしてあなたを……ソルダーヌ様はなぜ……」
「どうしてだろうね? もちろん僕には分からないよ。 いつもトップで気を張ってるから、たまには誰かの所でのんびりしたいのかもね。」
「ソルダーヌ様は、辺境出身者が、肩身の狭い思いを、しないように……」
「そうだね。偉いと思うよ。本当にダミアンの妹とは思えないよ。卒業までに婚約者ができなかったら僕が検討する約束だけど、本当に検討するだけだからね? 前も言ったけど。僕が嫌なら君がいいと思う男性を紹介してあげるべきだね。」
「私に心当たりなんか……」
昔辺境伯の屋敷で同じような話をしたなぁ。あの時は誰も思いつかなかったけど、今なら一人候補がいるぞ。
フェルナンド先生だ。
たぶん王国最強。そして独身。隠し子とかいそうな気もするが、どうでもいいだろう。でも先生って好きで独身なんだろうな……
剣以外に興味がないって聞いてるし。
「まあ、難しい話はやめよう。僕のことが嫌いだということは分かった。それならソルダーヌちゃんを違う方向に誘導してあげるといい。そろそろ服を着たらどうだい?」
「はっ、そ、そろそろ着ようと思っていた! 私の肌に触れる機会を永久に失ったんだ! せいぜい後悔するがいい!」
エイミーちゃんはそう言って簡易ハウスから飛び出した。うーん、服は半脱ぎ、這々の体。誰かに見られたら私が悪役だな。真っ暗だから大丈夫とは思うが……まあいいか。寝よう。
そして朝、簡易ハウスをガンガンと叩かれて目を覚ました。日の出と共に起こされたのか……眠いのに。
「魔王! 出てこい!」
「何の役にも立ってないくせにエイミーに手を出したのか!」
「それでも男か! 恥を知れ!」
マジかよ……
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