待つこと三十分。コーちゃんはすでに十三杯飲んでいる。かなりご機嫌なようだ。
ドアが開き、誰かが入ってきた。シンバリーは派手な服装だったが、こいつは普通だ。そこら辺を歩いている平民と変わりない。
「やあ、ニコニコ商会の出張所へようこそ。私は一応幹部のセグノです。詫びを入れに来たんだって?」
『水壁』
前回は少し探りを入れてから動いたが、今回はいきなりだ。別にこいつが幹部でなくても構わない。闇ギルドの人間を片っ端から襲うつもりなのだから。
さっそく両手足をブチ折っておく。
「さて、話をしようか。詫びを入れたいからボスの居場所を教えてくれよ。」
「くくく、やはりか。私が来て正解だった。」
反撃なんかさせないがね。水圧三十倍。
「くっくっく、甘い甘い。それがどうした? 効かんなぁ。」
やせ我慢か? 手足はぺちゃんこに潰れてるってのに。胴体もそろそろ危ないぞ。ついでだから魔封じの首輪を巻いてやろう。
『水操』
右手と右足は潰れてるし、もう要らないだろ? ちぎっておいた。
「無駄無駄無駄ぁ! それより自分の心配をした方がいいんじゃないかい?」
「カース、こいつ人間じゃないわよ。ゴーレムね。」
何ぃ!?
「はっはっは。そちらのお嬢さんは鋭いね。それに引き換え魔王ともあろう者が、鈍いねぇ?」
へぇー。ゴーレムを依り代にして遠隔操作してるイメージかな? ならば本体は?
「これ系の魔法って離れれば離れるほど魔力がたくさん必要なんだよね。こいつの本体はどこにいると思う?」
『判別』
「あっちよ!」
ふふふ、さすがアレク。『水球』
アレクの指差す方向に水球を撃ち、壁でも何でもブチ破り一直線に本体を目指す。
「乗って!」
アレクとコーちゃんをボードに乗せて一路本体へ!
「あの建物よ!」
「オッケー!」『水球』『水壁』
壁に大穴を開けて飛び込む! 家の周囲は水壁で囲っておく。誰も逃さんぞ。
「カース! あいつよ!」
「分かった!」
あいつか。キンキラの派手な格好をしてやがる。闇ギルドの幹部ってのは派手好きなのか?
『水壁』
部屋にいた奴を全員水壁に閉じ込めた。幹部だけ両手足をブチ折っておく。「ぎゃがっ!」
「こんばんは。テメーがセグノか。ゴーレム越しの対面とは冷たいじゃないか。だから会いに来てやったぜ?」
「くっ、くそ、この私にこんなことをして……」
『落雷』
とりあえず雑魚どもは気絶させておく。さすがに幹部ともなると落雷一発では気絶などしないのか。
「な、何が目的だ……」
「詫びを入れに来たって言っただろ? ボスはどこよ?」
「ふふふ、ボスに会いたいのか……会わせてやるさ……そして死ね!」
周りから数発の魔法が撃ち込まれる。しかし『氷壁』アレクがきっちり防いでくれる。
そして私の『散弾』
隠し部屋だろうか、そこから魔法を使った奴らを一掃しておく。気付いてないわけないだろ。
「さて、次は? ないなら案内してもらおうか。」
「ちっ、せいぜい余裕かましてればいいさ。ボスは……四つ斬りラグナは怖いお人だからね」
ふーん。そいつがボスか。
「アレクは聞いたことある?」
「もちろんないわよ。でも四つ斬りって二つ名は聞いたような気もするわね。」
斬り裂きキンキーと言い、闇ギルドは斬るのが好きなんだな。
「で、待ってればボスはここに来るのか?」
「ああ、せいぜい震えて待ってろ」
ボスが来るのならこいつは用無しだな。『麻痺』『永眠』
誰かが、工作員って奴は閉じ込めておいても起きてる限り油断ならんって言ってたもんな。寝かせておくのが一番だ。工作員じゃないけど。
他の奴らもひとまとめにして、部屋の隅に積み上げておこう。
「ピュイピュイ」
え? あっちの部屋に酒がある? まだ飲むの? 仕方ないなぁ、コーちゃんはおねだり上手なんだからぁ。
「ここを頼むね。少しこの家を探検してくるから。」
「手短にね。ボスが来るのよね。」
「そうそう。すぐ戻ってくるよ。」
酒のついでに金目のものはないかなー。まずは酒をゲット。大きい樽で三つか。こいつは飲みでがあるな。私は飲まないけど。父上のお土産にいいな。
金目のものが何もない……金庫らしきものもない。まさか貧乏なのか?
「ただいま。酒しかなかったよ。」
「おかえりなさい。」
「ピュイピュイ」
分かってるよ。さあお飲み。魔力もたっぷり込めてあげるよ。
大きい樽をコーちゃんの前に出してあげる。浴びるように飲むという言葉があるが、コーちゃんは泳ぐように飲んでいる。飲みすぎて酔っ払って斬られないでね。「ピュイピュイ」
「コーちゃんはお酒が大好きなのね。かわいいわぁ。」
「よくそんな不味い酒を飲めるねぇ。」
不気味な登場だな。こいつか。水壁を解除しとくのを忘れたけど普通に入って来やがったな。
「こんばんはボス。よく来てくれたな。俺はカース。賞金を掛けるぐらいだから知ってるよな?」
「発端はウチだが、もう関係ないねぇ。ウチは壊滅寸前だからねぇ。」
え? 金目のものがないことと関係するのか?
「王都でも指折りの闇ギルドじゃないのか?」
「先日まではねぇ。なぜか剣鬼に目の敵にされちまってねぇ。秘蔵の魔剣は持っていかれるし、幹部達は強い順に殺されるし、このあたしが逃げるだけで精一杯だったのさぁ。」
あー、魔剣ね。そういやニコニコ商会が持ってたって先生に伝えたもんな。あーあ、可哀想に。むしろよく先生から逃げ切れたな? 他の幹部が身を呈して逃したとか?
「ふーん。で、なぜそれを俺に話す? 口利きでもして欲しいのか?」
「はっ、バカ言うんじゃないよ。これだけ舐めた真似されたんだ。王都を売る前にアンタだけは殺しとかないとねぇ。死人に愚痴るってのも乙なもんだろぅ?」
『狙撃』『狙撃』
へぇー、やるなぁ。両肩と両膝を狙ったのに半分防いで半分避けられた。二刀流か。女だてらにやるもんだ。
唐突に始まった戦闘だが、二分もかからず終わった。私の榴弾で下半身をズタズタにしたからだ。
「まだやるか? あの程度の攻撃フェルナンド先生ならあっさり避けてるぞ?」
「剣鬼の身内か……くっ、殺せ……」
そもそも戦いに来たわけではない。情報を求めてやって来たのに。
「オメーさっき王都から逃げるって言ってたよな? 騎士も刺客も追ってこない楽園があるんだが行きたくないか?」
「何を言っている? そんな所がどこに……魔境か?」
「正かーい。正確には魔境の中にある豪邸で働くかって話。ただ働きだし自給自足だけど追っ手は来ない。ついでにフェルナンド先生にも取り成してやる。」
「あたしだけがのうのうと逃げられるわけないだろ……」
「付いて来る部下がいるなら構わんぞ? ただまあオメーみたいな腕利きでないと難しいかも知れんがな。」
「見返りは何だい? 体で払おうにもこの様だがね。」
ふむ。見た感じ歳は三十前後、スタイルは細め、顔は派手系で色気多めか。しかし、歳の割に妖艶さではエロイーズさんに負けてるな。
「そんなもんいくらでも治るだろ。話をしに来たのにこのまま死なれても困るからな。」
「話だって? それなのにこんなに暴れたってのかい?」
「当然だろ? オメーら闇ギルドは相手の力を見ないことには話も通じないだろ? さて、そこで約束だ。この高級ポーションをやるから素直に話してくれるか? サービスで楽園へご招待してもいいぞ。」
「ふん、どうやら観念っすっうぐ、するしかないようだねぇ。」
よし、バッチリかかった。
「ほれ、飲みな。飲んだら治療院へ行くぞ。話はそれからだ。」
「ちっ、どうやら役者が違うようだねぇ。どこへでも行くさ。」
よし、これで闇ギルド系の情報を取り放題だ。
「待たせたね。確か治療院はギルドの近くだったよね。いつでも開いてるよね?」
「ええ、大丈夫だと思うわ。」
ちなみに私達は城壁を無視して行動している。おじいちゃんは気付いててスルーしてくれたんだろうな。
ちなみにコーちゃんは大樽の酒を三割も飲んでしまっている。一体何斗飲んだんだ?
「ピュイピュイ」
私の魔力があったからまあまあ飲める味だった? そんな味じゃあ父上へのお土産にできないじゃないか。
ラグナ・キャノンボール©︎秋の桜子氏
Picrewの「レトロ風メイドメーカー」にて制作。
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