そして翌朝。オディ兄とマリー、アレクそしてコーちゃんでウリエン兄上の豪邸に行くことにした。キアラはまだ寝ている。私も眠いのに。
「オディ兄、今回はいきなりごめんね。来てくれて助かったよ。」
「マリーが来てるんだし当然だよ。それにカースにしては珍しいこともあるよね。」
「え? 何が?」
「僕らに助けを求めることがだよ。いつも自力でどうにかしてるじゃないか。かわいい弟が助けを求めてるんだ。どこにだって行くさ。」
うおぉぉー、オディ兄ぃぃー! いつもだけどオディ兄の弟愛には泣かされてしまう。ありがたいことだ。
結構助けを求めてるつもりだけどな。
さて、朝からウリエン兄上の邸宅を訪れた。やはり塀の周りには白い奴らの死体が積み重なっており、正門は破られていた。
いきなり中庭に着陸。番をしていたのは王太子の元二女だった。
「ティタ姉上、おはようございます。ご無事で何よりです。」
「カース、そしてみんなもよく来てくれた。中に入るといい。ウリエンもいる。」
「はい。お邪魔します。」
よかった。兄上は無事のようだ。全員が二女に挨拶をして中に入る。勝手知ったる兄上の家だ。
「兄上! 無事!?」
ここは居間かな。全員集合してミーティング中のようだ。
「カース、それにオディロンもか。よく来てくれた。この間は留守にしてて悪かったな。アレックスちゃんにマリーもようこそ。コーちゃんもか。」
「せっかく王都に来たのにツイてなかったわね。まあここの守りは心配いらないわよ。それよりオディロンはいつ来たのよ?」
兄上の隣には当然とばかりにエリザベス姉上がいる。
「昨日だよ。おとといカースがクタナツまで呼びに来てさ。昨日の朝クタナツを出たのさ。キアラに連れてきてもらったよ。」
「そのキアラはどうしてるのよ?」
「さあ? カースは知ってる?」
「寝てたけど、起きたら海に行くんじゃない? たぶんサウジアス海かな。王都のみんなに美味しいものをたくさん食べて欲しいんだって。」
「さすが私の妹ね。偉いわ。ちゃんと先のことを考えているのね。」
たぶん海で遊ぶ方がメインだろうな。
「とりあえず昨日キアラが捕まえたシーサーペントがあるから、みんなで食べてよ。大きいからどこに出すかは後で相談しよう。」
「全く……優秀な弟妹だ。ありがとうな。」
それからは私達もミーティングに加わり情報を提供した。
・両親とアステロイドさん達が王都に来ていること。
・黒幕はエルフであり、すでに捕まえていること。
・しかし幹部や鎧の奴らはまだであること。
・王城の様子がおかしいこと。
逆に兄上達からは特に情報はなかった。正門と玄関の扉を破られはしたものの、ひたすら防衛に専念しており、死者は無しだそうだ。兄上なら接近戦でも無敵だよな。
「カース、使って悪いが無尽流の道場を見てきてもらえないか? あそこはこういった邸宅と違って塀がない。非常に守りにくいんだ。先生達の腕ならそこまで心配することはないかも知れないんだがな。」
「いいよ。問題ない。後で行くよ。」
「ああ、すまないな。それからダイナスト道場もなんだが、場所は分かるか?」
「いや、知らない。そっちも気になるよね。」
結局、私と兄上とアレクで向かうことになった。もちろんコーちゃんもね。マリーとオディ兄は先に辺境伯家に連れ帰っておこうかな。
「じゃあみんな。留守を頼んだぞ。」
兄上宅に残るメンバーは、マリーにオディ兄、エリザベス姉上に元二女ティタニアーナ。アンリエットお姉さんにアジャーニ家のオウタニッサさん、元大公家のデルフィーヌ。そして何と、シャルロットお姉ちゃんとギュスターヴ君もここにいた。一緒に奮闘していたらしい。実家のピンチ、伯母さんの命が危なかったってのに。
魔法なら無敵だが接近戦に弱そうなメンバーだ。早く帰ってきた方がいいな。
無尽流の道場までは歩いて一時間。飛んで行けば……五分もかからない。
着いてみれば……道場は、無くなっていた……
いや、正確には燃えカスは残っていた……
道場だけでなく、この辺り一帯全てが灰になるか炭になっていた……
ここのように開けた場所でも数の暴力は圧倒的か……魔法で一掃するには向いてるのだが、それができなかったってことか……
「兄上、レイモンド先生の自宅とか知ってる?」
「ああ、知ってはいるが……あの辺りだ。」
兄上が上空から指差した先は、灰と炭が半々ぐらいのエリアだった……
「先生達のことだから死んでるとは思えないよね。ダイナスト道場に行ってみようよ。」
「ああ、そうだな……あっちだ。」
兄上に指示されるがままに空を移動する。その先にアッカーマン先生の長男、ダイナスト先生の道場はあった。無事っぽい! 廃材を利用しバリケードで囲っている。どこから入るんだ?
着陸する前に白い奴らの死体を片付けよう。見た感じ全員死んでるようだ。
『浮身』道場から離れた所に積み上げて『火球』
しっかり燃やしておこう。
「ダイナスト先生! ご無事ですか! ウリエンです!」
地上に降りて兄上が声をかける。
そして、二分後。道場の屋根が開き、レイモンド先生が顔を見せてくれた。
「レイモンド先生! よくぞご無事で!」
「ウリエン、カース君。よく来てくれたね。さあ、ここから入ってくれ。他は全て閉まっているからね。」
屋根から入るのか。アレクはミニスカートなんだよな。よし、私の後に入ってもらおう。
中に入ってみてビックリしたことがある。
「父上!? 何やってんの?」
「おおカースにウリエン。いやな、昨夜ゼマティス家に行く前に少し道場に寄ってみたらあの様でな。見たんだろ? それでこっちに来てみたら囲まれてるじゃないか。だから夜中近くまで退治してたってわけさ。」
「父上久しぶり。騒ぎが落ち着いたらうちにも遊びに来てよ。」
「おおウリエン。浮いた噂の一つもないかと思えばお前はやっぱり俺の子だったな。やるじゃないか。」
「父上ほどじゃないよ。それより皆さんがご無事でよかったです。」
それから三十分ほどは情報交換。兄上宅と似たような話をした。ちなみにレイモンド先生達は負けてここに逃げ込んだのではない。初めから守りに向かない本部道場を捨て、協力してダイナスト道場を守る道を選んだそうだ。いくらそれが合理的だからって容易く選べる方法ではない。やはりレイモンド先生はアッカーマン先生が後継者に指名するだけある。ちなみにフェルナンド先生なら千だろうが万だろうが斬ってしまいそうだ。ドラゴンとも丸一日戦い続ける男だもんな。
それから話し合いの結果、ダイナスト道場から高弟が二人、兄上のとこからはアンリエットお姉さんを一人、交換することになった。これでさらに効率よく守れることだろう。父上はこのままダイナスト道場を守ることになった。
それにしても、クタナツを遠く離れた王都にマーティン家が全員集合している。何年振りだろう。負ける気がしない。教団でも盗賊でもどんと来いって気分だ。
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