異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

242、真打ち登場

公開日時: 2022年11月16日(水) 11:22
文字数:1,376

私達が少しだけしめやかに酒盛りを続けていると『範囲警戒』に反応があった。いくら奥ではないと言ってもここはムリーマ山脈の中なんだから、これぐらいの用心はしておくのは当然だ。来たのは執事かな? いや二人だ。


「来たぜ。二人か。」


何となく、俺は気付いてるんだぜ感を出したくなった。


「え? あの執事っすか?」

「逃げずに戻って来たんすね……」

「いやーそれが賢明だろ……」




「お待たせいたしました……こちらは我が主人、ダン・ド・スペチアーレ男爵です。」


「遠路はるばるようこそ。私がダン・ド・スペチアーレです。早速ですがこのお酒、一つはセンクウ親方の作品がベースですね? だが、なぜこうなったのかが分からない。あなたが手を加えたのですか!? しかも残り二つに関してはさっぱり全く分からない! こんなお酒があるなんて! 教えてください! さあ! 何でもします! 靴を舐めましょうか! それとも肩を揉みましょうか!」


見た目と口調が全然合ってない。折れそうなほど細いナイスミドルなのに。


「初めまして。カース・ド・マーティンです。高名なスペチアーレ男爵にお目通りが叶い恐悦至極でございます。」


「いやいや、そんなにかしこまらないでください。聞けばうちのセリグロウが大層失礼をしてしまったそうで、この通りです。申し訳ありませんでした。」


そう言って頭を下げる男爵。


「申し訳ございませんでした。」


執事も同様に頭を下げる。


「分かっていただけたならそれでいいんですよ。ね? コーちゃん?」


「ピュイピュイ」


「うちのフォーチュンスネイクも許すと言ってますので、お気になさらずに。」


「ありがとうございます。そこで大変言いにくいのですが、例の樽……お返しいただけないでしょうか……もちろん代わりのお酒は提供いたしますので……」


「ピュピュピュイー!」


まさかコーちゃん? 真の狙いはそれだったの? そこまで展開を読みきってあの樽に拘ったの!? 恐ろしい子!


「喜んでお返しするそうです。その代わり、樽を選ばせて欲しいと。」


「大地の精霊様に飲んでいただけるとは光栄です。ではご案内いたします。申し訳ありませんが冒険者の方々はこれにて。ご苦労様でした。」


「あ、ど、どうも!」

「また、のご指名を!」

「ご、ごくろっす!」


「じゃあ魔王さん、またどこかで!」

「あざっした!」

「いい経験をさせてもらいました!」


「おう、またな。白金貨は返せよ。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


色々あったがやっとスペチアーレ男爵に会えた。後は居場所さえ分かれば今後いつでも来れるしな。


「お客様に対して非常に申し訳ありませんが、目隠しをさせていただきます。」


「目隠しですか? なるほど。いいですよ。」


誰にも会わないってのは居場所を隠すためか。それぐらいならまあいいか。


『闇雲』


執事の魔法で顔を丸ごと覆われてしまった。このまま歩くのは大変だから飛ぼうかとも思ったが、せっかくだから心眼の修行といこう。山道を目隠しで歩く。これはハードだぜ!


「え? そのまま歩かれるのですか?」


何だ? 手を引いてくれるつもりだったのか? そりゃそうか。


「はは、まあ、せっかくなんで。ちょいと遅くなるとは思いますがご勘弁を。」


「すごいですね……この山道を目隠しで歩くだなんて……」


いや、よちよち歩きだ。先生なら走ってるよな。カムイも楽勝そうだ。そこまで遠くなさそうだし、このまま歩かせてもらうとしよう。

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