私達が少しだけしめやかに酒盛りを続けていると『範囲警戒』に反応があった。いくら奥ではないと言ってもここはムリーマ山脈の中なんだから、これぐらいの用心はしておくのは当然だ。来たのは執事かな? いや二人だ。
「来たぜ。二人か。」
何となく、俺は気付いてるんだぜ感を出したくなった。
「え? あの執事っすか?」
「逃げずに戻って来たんすね……」
「いやーそれが賢明だろ……」
「お待たせいたしました……こちらは我が主人、ダン・ド・スペチアーレ男爵です。」
「遠路はるばるようこそ。私がダン・ド・スペチアーレです。早速ですがこのお酒、一つはセンクウ親方の作品がベースですね? だが、なぜこうなったのかが分からない。あなたが手を加えたのですか!? しかも残り二つに関してはさっぱり全く分からない! こんなお酒があるなんて! 教えてください! さあ! 何でもします! 靴を舐めましょうか! それとも肩を揉みましょうか!」
見た目と口調が全然合ってない。折れそうなほど細いナイスミドルなのに。
「初めまして。カース・ド・マーティンです。高名なスペチアーレ男爵にお目通りが叶い恐悦至極でございます。」
「いやいや、そんなにかしこまらないでください。聞けばうちのセリグロウが大層失礼をしてしまったそうで、この通りです。申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げる男爵。
「申し訳ございませんでした。」
執事も同様に頭を下げる。
「分かっていただけたならそれでいいんですよ。ね? コーちゃん?」
「ピュイピュイ」
「うちのフォーチュンスネイクも許すと言ってますので、お気になさらずに。」
「ありがとうございます。そこで大変言いにくいのですが、例の樽……お返しいただけないでしょうか……もちろん代わりのお酒は提供いたしますので……」
「ピュピュピュイー!」
まさかコーちゃん? 真の狙いはそれだったの? そこまで展開を読みきってあの樽に拘ったの!? 恐ろしい子!
「喜んでお返しするそうです。その代わり、樽を選ばせて欲しいと。」
「大地の精霊様に飲んでいただけるとは光栄です。ではご案内いたします。申し訳ありませんが冒険者の方々はこれにて。ご苦労様でした。」
「あ、ど、どうも!」
「また、のご指名を!」
「ご、ごくろっす!」
「じゃあ魔王さん、またどこかで!」
「あざっした!」
「いい経験をさせてもらいました!」
「おう、またな。白金貨は返せよ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
色々あったがやっとスペチアーレ男爵に会えた。後は居場所さえ分かれば今後いつでも来れるしな。
「お客様に対して非常に申し訳ありませんが、目隠しをさせていただきます。」
「目隠しですか? なるほど。いいですよ。」
誰にも会わないってのは居場所を隠すためか。それぐらいならまあいいか。
『闇雲』
執事の魔法で顔を丸ごと覆われてしまった。このまま歩くのは大変だから飛ぼうかとも思ったが、せっかくだから心眼の修行といこう。山道を目隠しで歩く。これはハードだぜ!
「え? そのまま歩かれるのですか?」
何だ? 手を引いてくれるつもりだったのか? そりゃそうか。
「はは、まあ、せっかくなんで。ちょいと遅くなるとは思いますがご勘弁を。」
「すごいですね……この山道を目隠しで歩くだなんて……」
いや、よちよち歩きだ。先生なら走ってるよな。カムイも楽勝そうだ。そこまで遠くなさそうだし、このまま歩かせてもらうとしよう。
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