子供が五人に精霊が一人。コーちゃんは私と同じものを食べるので都合六人。一等地にある高級な飲食店『ハスコーリ・ダ・レイサ』に入った。
「いらっしゃいませ。五名様ですか?」
「そうよ。ただ注文は六人前お願いするつもりよ。」
店員との会話はアレクに任せておくのが一番無難だ。生まれながらにして上級貴族オーラが溢れているからな。
当然ながら眺めの良い席に案内される。
「本日はサウジアス海の鬼ヒラメと魔境産トビクラーが入っております」
おっ、トビクラーか。王都に来てまで食べるものでもないが、どう料理するのか気になるな。それ以上に鬼ヒラメって何だ?
「分かったわ。じゃあせっかくだからどちらも使ってもらおうかしら。六人前ね。」
注文はアレクに任せておくと楽でいい。さすがだ。
「それから軟骨だけど同じトビクラーの脂で揚げたものが食べたいわ。」
それはいい! さすがアレクは分かってるな。
それからコースで料理が運ばれてきた。
前菜は鬼ヒラメ、エンガワのフリッター
前世では生で食べていたものを揚げ物として食べるのは不思議な気分だったが旨い! 酒が飲みたくなってしまう!
そしてトビクラーの軟骨揚げ。同じトビクラーから取った脂肪で揚げるという贅沢をしてもらった結果、前世でも食べたことがない味わいだった。香ばしさや食感はもちろん、トビクラーの旨味をギュッと閉じ込めたような深い味わいだった。強いて言うなら名古屋コーチンの軟骨唐揚げに近いかな?
やはり酒が欲しい……プレミアムなビールが飲みたい……
鬼ヒラメのスープ。
砕いた骨を煮込んで濾したようだ。エンガワの揚げ物とは打って変わって優しい味わいだ。徹夜三日目の夜でも胃を優しく癒してくれそうな滋味だ。
ヒラメの骨は唐揚げにしても旨いんだよなぁ。
トビクラーのヒレ肉。
鬼ヒラメのスープを利用して蒸し焼きにしたものだ。柔らかく味わい深く仕上がっている。これでもメインディッシュではないのか。
オランゲの実のシャーベット。
柑橘系の香りで口の中をリセットする。甘みは強くなく、爽やかな冷たさが口を満たす。
鬼ヒラメのムニエル。
バターの焼き色が香ばしく、クリスピーな食感が食欲を満たす。それゆえにサウジアス海の荒波に揉まれた鬼ヒラメの生き様を思い起こすのだろうか。
ベイクドチーズケーキ。
領都やクタナツでは珍しい砂糖の甘味と新鮮なチーズの味わいが絶妙。食後のコーヒーとの相性も素晴らしいものだった。
「さすがね。美味しいわ。無駄のない丁寧な仕事をしてるのね。」
さすがにアレクのコメントは一味違うぜ。
「美味しかったわ。近くにこんなにすごいお店があるなんてね。そうそうは来れないでしょうけど。」
サンドラちゃんのような普通の学生にはきついかな。かなり高そうなお店だもんな。
「カース君ご馳走様。美味しかったね!」
「美味しかったよ。ありがとう!」
「ピュイピュイ!」
セルジュ君もスティード君も満足してくれたようだ。嬉しい。コーちゃんは円らな瞳をキラキラさせながらクルクル踊っている。かわいい……
さあ、勘定はいくらだ!?
店員から伝えられた数字は私を驚愕させた。
「ご来店ありがとうございました。本日のお勘定は金貨九十枚と銀貨六枚となっております」
「じゃあカードで。」
ランチで金貨百枚近いとか……物価がおかしいだろう。確かに美味しかった。特に鬼ヒラメのムニエルは初めて食べたレベルで美味しかった。でも、二度と来ないかな。いくら何でも高すぎる。
みんなは口々に美味しかった、ありがとうと言ってくれている。
「美味しかったわよ。ありがとう。やっぱりカースね。」
アレクは持ち上げてくれるが、意味が分からない。でもみんなが喜んでくれているならそれでいいか。
それからは場所を第二城壁内のカフェに移しお喋りに興じていた。城門と城門が結構遠いのが難点だ。
話題はスティード君の順位から始まり、セルジュ君の首席へと移っていった。
「知らないうちに首席になってただけだよ。」
セルジュ君は事も無げに言う。
そこからアレクの首席へと話が変わる。
「それまで首席だったアイリーンがまた燃えてるみたいなの。だから夏休みの間も怠けてられないのよね。」
よし、ならば楽園で修行だな。
さらに話は転がり領都一子供武闘会へ。
「へぇー? カース君たらアレックスちゃんのためにそんなことしたんだ? 相変わらずぶっ飛んでるわね?」
「そうなんだよ。これで少しでもアレクに近づく男が減ればいいんだけどさ。」
「むしろカースに近づく女が増えて私の心配も増えてしまったわよ? 上手くいかないものよね。」
これにはみんなも大笑い。
「ガキどもがピーチクパーチクうるせぇんだよ!」
「酒が不味くなるだろぅが!」
「何が優勝だ! どうせ小せぇガキの大会だろうがよ!」
そんなところまでしっかり聞いていたのか。しかもここはオシャレなカフェだぞ? 酒なら酒場で飲めよな。
「じゃあみんな出ようか。コーヒーが不味くなるからね。」
「待てや! 何黙って帰ろうとしてやがる!」
「騒がせたお詫びを置いてくのが常識ってもんだろぉ?」
「貴族だからって何でも許されると思ってんじゃねぇぞ?」
そういうこいつらも貴族のようだがな。どうせうだつの上がらない下級貴族だろう。『麻痺』
最近雑魚には専らこの魔法を使っている。恐喝されたんだからいいよね? 怪我はさせないし効果は高いしとても使い勝手がいい。しかしこの程度の魔法も防げないとは……貴族じゃないのか?
「最近の王都ってあんな派手な格好をして無法を働く若者が増えているのよ。何でも『傾奇者』と呼ばれているとか。第三城壁内にはあんまりいないけど、外の方には多いらしいわ。」
長年平和だとそんなことまで起こるのか。傾奇者と言えば一人しか思いつかないが、実際にはこんな無法な奴らばかりなのか。貴族風の着物を着崩したり穴を開けたり。髪型もモヒカンだったり逆モヒだったり鬼剃りだったり。無茶すればいいってもんじゃないぞ。鞣してない魔物の毛皮を無理矢理着ている奴もいる。傾奇者ってより蛮族じゃないか。
結局全員で『王の海鮮亭』で夕食を食べてそのまま私達の部屋で語り明かすことになった。一旦解散し、それぞれの宿、寮に都合を伝えてから再集合となる。楽しい夜になりそうだ。
それからの私達はスティード君のお兄さんの家や、セルジュ君のお姉さんの家に招かれて泊まることもあった。すると瞬く間に三日が過ぎていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!