不合格のやつらは七人。さて、どう動くかと思えば……私を囲んできた。
「お前ら擦りつけを行なった設定なのによ? 逃げなくていいのか?」
「ぎゃははは! 逃げなくていいのかだとよ!」
「テメーこそ合格なんかほっぽり出して逃げた方がいーくせによー!」
「げへへへ! ちっとエロイーズさんに気に入られてるからって調子コイてんじゃねーぞぁ?」
囲んだなら攻撃してこいよ……七人もいるくせに……
『水壁』
『氷壁』
『風壁』
『麻痺』
『永眠』
『風球』
『風弾」
ほとんど同時に七つの魔法を使ってみた。これはキツい……頭が割れそうだ……
ふぅ……少し落ち着いた……
よし、拷問タイムだ。いや、その前に……
「エロイーズさん? このまま尋問に移るんですか? 吐かせたい情報なんかないですよ?」
「そいつらにカースの合格を認めさせてみなぁ?」
なるほどね。
では水壁に閉じ込めてる奴から。頭だけ外に出してやる。
「おい、どうする? 俺の合格を認めるか?」
「だ、誰が! テメーなんっ」
ならまた水壁の中で溺れてろ。
こんな調子で順番に聞いていく。寝てる奴や気絶してる奴は叩き起こして。そうして一巡。
また最初の奴だ。水壁から頭を出してやる。
「ゲホッ、はっ、はぁ……はぁ……」
「認めるか?」
「だ、誰がテメーな」
水温アップ。水圧十倍。
「ぎあぅあっ!」
「認めるか?」
水温さらにアップ。
「あじ、あっ、わ、分あったぁ! み、認めるっ!」
手間とらせやがって。
こんな調子で全員終了。いつも通りだな。
「さぁて、これにて八等星昇格試験は終了ねぇ。こいつを持って受付に行きな。それから不合格のボンクラどもぉ? これが試験でよかったねぇ?」
皆一様に首を縦に何度も振っている。命拾いしたことには気付いているようだ。さて、ギルドに戻ろうか。
「やっぱりカース君だね!」
ベレンガリアさんめ。馴れ馴れしく腕を組んでくるではないか。まあそれを拒むほど狭量ではないぞ。気にせず歩こう。
「まあいつも通りだよね。他人の合否に口出ししても意味ないのにね。」
「そもそも自分の不合格に文句つけるのも意味分かんないわよね。ところでカース君はこのまま七等星受けるの?」
「受けるよ。組合長との約束だからね。」
次の七等星試験は十一月末か。まだ先だな。クソ針こと先々代毒針の組織をぶっ潰してもらうことを組合長に頼みはしたが、はたして意味はあったのやら。闇ギルド連合の会長だぁ? もはやこのローランド王国に闇ギルドの居場所などない、はずだ。
北西のサヌミチアニや南東のタンドリアなんかは怪しいけどね。とりあえず今月末にはタンドリアに行くことだし、目立たない服装で裏街でも歩いてみるかねぇ。
ギルドに到着。受付にて、また新しいギルドカードを受け取る。ちょっとしか九等星でいなかったな。八等星も来月末までか。
「ねぇねぇカース君! デートしてから帰ろうよ!」
「いいよ。でも父上にバレても知らないよー?」
「旦那様がそんな小さいこと言うわけないでしょ?」
当然だ。もちろんアレクもそうだ。夕食までそこまでたくさん時間があるわけではないので、軽くどこかに行く程度かな。
「じゃあどこ行く?」
「ならタエ・アンティがいいわ。何か飲みましょうよ。」
「あー、そこって久しぶりだね。なんだか懐かしいよ。」
アレクともよく行ったよな。母上もお気に入りの店なんだよな。紅茶が旨いがコーヒーも出してたっけな。
ギルドから少し離れているが到着。おや? あそこに停まっている馬車は見覚えがあるな。確かセルジュ君ちのだ。
店内に入ってみると。
「あ、母上。」
「あらカース。それにベレンも。」
「奥様。」
「まあカースちゃん?」
「まあまあ! 大きくなって!」
おお! セルジュ君ママのシメーヌおば様と、スティード君ママのサリーナおば様だ。このお二人に会うのも久々だ。来てよかった。
妙な組み合わせだがお喋りは楽しい。今や私のことをカースちゃんと呼ぶのはクタナツではこの二人だけではないだろうか。全然悪い気分ではないな。他愛もない話が続く。
「あ、そう言えばおば様がた。セルジュ君とスティード君の卒業式ですけど、もしご出席されるのなら領都までお連れしますよ?」
「まあカースちゃんたら! ありがたいわ。王都に行ってしまったらセルジュとは当分会えなくなるものね。でも領都も遠いし主人は休めないしで悩んでたのよ。」
「本当にありがたいわ。さすがカースちゃんね。うちのスティードも騎士学校を卒業したら帰ってくるかと思えば王都に行くって言うんですもの。」
「魔法学校の卒業式の前々日に出発する予定です。詳しい時間はまたですかね。」
「アレクサンドリーネさんも卒業だものね。聞いてるわよ? 旅に出るんですって?」
「若いっていいわねぇ? 無事に帰ってくるのよ?」
「そうなんです。あちこち行ってみるつもりなんです。」
こんな感じで夕暮れまでお喋りは続いた。
セルジュ君ちの馬車は四人乗りなので私と母上とベレンガリアさんは歩いて帰ることにした。なんと言うか、母上が道を歩くのってすごく似合わない。違和感がとんでもないな。
「母上は時々おば様達とお茶してるんだよね?」
「そうよ。それがどうかした?」
「いや、他にいい店知ってるのかなーと思ってさ。」
「うーん、お茶ならタエ・アンティしかないわね。お酒なら二区の方に静かないいお店があるわ。品揃えも抜群ね。」
「へえー! 何て店?」
「ブラックバーブだったかしら。私はあんまり行ってないのよね。アランはよく行ってるわよ。」
私が飲むと言えばいつも野外かギルドだったもんな。静かないい店か。気になるな。よし、いつかアレクと行こう。クタナツにもまだまだ知らないことがあるものだな。
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