明日、兄上と姉上がクタナツを出発するらしい。姉上は領都までだが、兄上は領都経由で王都だ。どれだけかかるのだろう。
そこで思いついた。
「王都までは難しそうだけど、領都まで乗せていこうか?」
「それはありがたいな。いいのかカース?」
「私は兄上と一緒に歩いて行きたいわ。」
しまった。姉上はそうだよな。兄上と居られる貴重な時間だもんな。
「そうだな。カースのあれは狭いからな。三人でキツい思いをすることもないか。」
そこで姉上の目の色が変わった。
「何に乗るのか見たいわ。」
私は鉄ボードを出してみせる。
一畳の広さに三人で座る。
「いいわカース! ぜひお願いするわ! 領都まで連れてってちょうだい!」
やはり姉上だな。これでいいのか兄上?
「ねぇ兄上? これなら早く着くじゃない? なら領都で少しゆっくりできるわよね?」
「そうだね。せっかくだからカースと三人で領都を歩くのもいいね。」
兄上! それはだめだ!
「僕としては知らない街を一人で歩いてみたいんだよね。一人で静かに悠々とね。」
姉上がでかした!って顔で私を見る。
「まあカースったら冒険心旺盛なのね。男の子よねぇ。それなら後でお小遣いあげるわ。やっぱり男の子は冒険しないといけないわよね。」
「それもそうかな。まあカースがいいならそうしようか。」
明日用に大きめの鉄ボードを作ろうかと思ったが、やめておいた方がいいな。
ちなみに以前思いついたアイデアにハニカム構造がある。
これなら強度を損なわず肉抜きができるとか。今から新しく作ってみようかな。面積は変えないとしても、三人乗るわけだから少しでも軽くしておかねば。
そして翌朝。家族との別れを済ませ、私達三人は馬車に乗り込む。父上も母上もえらくあっさりしたものだったが、大事なことは既に伝えてあると見た。
そして馬車は南の城門から外に出て少しして止まる。
「お二人がご壮健であられることをお祈りしております。」
いつものようにマリーが簡単に挨拶をする。
「オディロンのことを頼むわね。あいつはバカな奴だけど……」
姉上にしては珍しい。いつもオディロンうるさい! としか言ってない気がするのに。マリーはそれに対して一礼するのみだった。
そして私たちはクタナツから領都に向け西に飛び立った。
「姉上、風壁を使ってもらえる? 隠形もね。」
「いいわよ。風壁がないと落ちそうだしね。何て速さなの。景色が次々と流れていくわ。」
「あの時は夜だったから気付かなかったが、こんなに速いのか……」
このまま進むと、右にオウエスト山、左にホユミチカが見えるはずだが……
「あ、兄上……私怖いわ。もっと近くに……」
「エリは怖がりだなぁ。おいで。」
何てことだ。イチャイチャ空間が出来てやがる。まるで父上と母上を見るようだ。くそぅ、アレクを連れてくればよかった。
きっちり隠形を使ってくれてるんだろうな?
風壁は使っているようだが。
ん? 前方に空飛ぶ魔物が見える。
結構高い所を飛んでいるつもりだったが……
気付かれる前にさらに高度を上げてスルーしよう。
「姉上ー、イチャイチャしてるとこ悪いけどさー、あの魔物知ってる?」
「あぁん? 魔物!? やっぱ空にも出るのね!? げっ! トビクラー!」
「トビクラー? どんな魔物?」
「火と血を好む空飛ぶ魔物よ! 気付かれてないようだし、このまま逃げるわよ!」
「分かった! 」
見た目はムササビとコウモリを足して二で割った感じだ。翼を広げたサイズは十メイルはありそうだ。いつかのコカトリスより大きい!
速さ比べをしてみたい気はあるが、兄上達を乗せているので無理はすまい。あっちは悠々と飛んでいるだけのようで、見る見る小さくなってしまった。ふぅ危なかった。
「姉上ー、ここらで空飛ぶ魔物ってどんなのがいるか知ってる?」
「もちろん知ってるわよ!
ドラゴン、ワイバーン、そしてコカトリスはアンタも知ってるでしょ。それ以外だとグリフォン、ピポグリフ、スフィンクス、ガルーダぐらいかしら。雑魚も含めたらいくらでもいると思うわ。」
恐ろしい。やっぱり空も安全ではないのか。帰りもきっちり隠形を使っておこう。
おっ、はるか下に大きい川が見える。
いつだったかオディ兄が言ってた川かな?
「え? もうノード川を越えたの!?」
体感で二時間半ほどかかっただろうか。この河を越えたらもうすぐ領都らしい。
ではそろそろ高度を落として歩きに切り替えよう。
私達は領都と北の山の間ぐらいに着陸した。
「カースはすごいな。まさかこんなに早く着くなんて。歩くのがバカらしくなってしまうよ。」
「この分だと兄上は十日ほど領都に滞在できることになりますわね? 」
「そうだな。ゆっくりしようかな。カースは何泊できそうだい? 宿代はエリが払ってくれるぞ。」
来ることは考えていたけど、何をするとか何泊するとか何も考えてなかった。
「いや、このまま帰るよ。近いうちにアレクとデートする時まで入るのはやめておこうと思ってさ。」
「騎士長の娘さんといい仲なんてカースのくせに生意気ね。私は魔法学校の寮にいるんだから立ち寄りなさいよ。」
「うん! 二人とも元気でね!」
「ああ、カースもありがとな!」
こうして私は領都に入ることなく帰ることにした。本当は入ってゆっくりしたかったけど、何となく初めてはアレクと来たいと思ってしまったのだ。
せっかくだし帰りにオウエスト山でゴーレムでも狙ってみようかな。
「エリ、僕らはすごい弟を持ってしまったものだな。」
「そうね兄上。でも私は負けないわ。カースの魔力量がとんでもないってことも分かってしまったけど。今日使ったのは『浮身』と『風操』だけ。なら私にできないはずはないの。」
「エリ……まずはお昼にしようか。」
「そうね。兄上は何が食べたい?」
こうしてエリザベスはウリエンの腕に腕を絡め領都の城門へと歩いていった。
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