適当に室内を漁ってみる。何か不正に蓄財した証拠でも出てくれば面白いが、そもそも私が見ても分かるはずがない。ならば手紙か何かないかな?
あった。しかしパーティーへの招待状とか時候の挨拶などばかりだ。大事な物は、あっちの金庫の中か……無理矢理開けてもいいが、あまり大きな魔力を使いたくないからな。やめておこう。魔力庫に収納してもいいのだが、何か警報が付いてるはずだもんな。やめだ。
寝室でも探してみよう。
消音の魔法を使いつつドアを開ける。寝息が聞こえるな。女の子か。私より歳下だな。この部屋ではないと。次行こう。
おっ、荒い息遣いが聞こえる。この部屋か?
正解っぽい。オッさんがベッドでハッスルしてやがる。二人まとめて『拘禁束縛』『消音』
『伝言』や『発信』のような魔法で助けを呼ばれたら面倒だからな。魔法が使えないようにわざわざ『拘禁束縛』を使ってみた。おっと、女の子には『快眠』大人しく寝ててもらおう。
「ようオッさん。」
『水壁』
汚い下半身なんか見たくもないな。キアラとの遊びで覚えた魔法で水壁の色を黒くしてしまおう。そして霞の外套を脱ぐ。
「な、何やつ!? 者ども! 出あえ出あえー!」
「無理無理。消音使ってるから。魔法も使えないだろ? 用件は質問だ。質問に素直に答えてくれよ。」
「うるさい! 黙れ黙れ! このワシを誰だと思っておる! 次期宰相との呼び声も高いディオン侯爵グランノイルなるぞぉ!」
自分で侯爵って言うなよ……水温五十度。ちなみにドアと窓は氷壁で塞いである。壁を壊さない限りこの部屋には誰も侵入できまい。
「あおおお! 熱い! やめんか! 熱いではないか! がぁぁああ!」
「さっき別の部屋にな。かわいい女の子がいたなあ? 十二、三歳ってとこか。あの子をフランツウッド王子に嫁がせたいのか?」
「き、貴様! ノエリアーゼに! 許さん! 許さんぞぉー!」
まだ何もしてないぞ。ノエリアーゼね。どうやら図星だったのかな?
「お前が素直にならないなら、ノエルちゃんに話してもらうことになるなあ? いいのかオッさん? かわいい孫娘がこんな目にあってもさあ?」
今思えばさっきの部屋に寄った時に、ついでに捕まえておけばよかったな。そしてオッさんの前で拷問してやれば手早く済んだかな。
「名を名乗れ下郎! このワシによもやここまでやったのだ! 無事に帰れるとは思うまいな!」
質問に答えてくれよな。水温六十度。
「この服装を見て分からないか? そして狙われる心当たりがないとは言わんだろ?」
「ぐううっ、知るものか! そのような下賤な服装など! うぐぅ……」
さすがに宰相の座を狙うだけはある。かなりしぶといな。じゃあ軽く『落雷』
これって水壁と相性がいいんだよな。
「あばばばっばばだっ、や、やめででででっばばばば」
停止。効きすぎだ。
「質問に答えてくれるだけでいいんだがな。この後仲間全員でノエルちゃんをまわしてもいいんだぜ? 足腰立たなくなるまでな?」
ぐるぐると回して悪酔いさせまくってやるぜ。三半規管もぐるぐるで立てなくなるぜ。
「な、何が聞きたいと言うのだ! あがっ熱っぐぅ!」
「さあな? 正直に答えてくれよ。約束だぜ。約束してくれないとノエルちゃんをまわすからな?」
「くうっ、分かったっどぁぶぁがっ!」
やっとかかった! 全く、体に似合わずしぶといオッさんだった。水壁解除。
「俺の名前はカース・マーティン。魔王って言えば通じるか?」
「なっ!? ま、まさか、そんな!?」
「分かってるようだな。なら用件も分かるな? うちのかわいい妹キアラのことだ。なぜキアラを狙った?」
「ぐっ、ぐぐっ、そ、それはノエリアーゼをフランツウッド王子の婚約者とする、ため、だ……」
大当たり。母上の読み通りか。残念ながら皆殺し決定だな。
「お前は宰相の座を狙ってるらしいな。いや、長男を宰相の座に据えようとしているそうだな。アジャーニ家やアレクサンドル家を敵に回して勝てるつもりだったのか?」
「こ、今回の件は、むしろ、アレクサンドル家と共闘するための、踏み絵、だったんだ……」
「詳しく説明しな。」
なぜアレクサンドル家が出てくるんだ?
「トライA単体では最早アジャーニ家に勝てない……だからとて三家で纏まるような家でもない……しかも、アベカシス家もアリョマリー家も次代が小粒で期待できない……我ら王都の伝統派貴族が担ぐにはアレクサンドル家しか残っておらぬ……」
伝統派貴族ねぇ。今どきそんなこと言ってるから時代に乗り遅れたんだろうね。
「じゃあキアラを狙ったのはアレクサンドル家の指示か?」
「ち、違う……ブランチウッド王子かフランツウッド王子、どちらかに身内を嫁がせること……側室でも構わないと、それを以って筆頭大臣の座を約束された……」
王都の政治形態はよく知らないが、宰相の下に四大臣ってのがいるんだったな。その一つが筆頭大臣、正しくは内大臣だったかな。
「それでフランツウッド王子はキアラにベタ惚れだから排除しようとしたってことだな?」
「そ、そうだ……」
このオッさん、魔力を振り絞って契約魔法を解除しようとしてやがるけど、そもそも魔力が使えなくしてるから無駄な足掻きなんだよな。身動きも取れないし。口から唾か含み針を飛ばすぐらいしか抵抗できまい。
「ならば次期王太子であるブランチウッド王子を狙わなかったのはなぜだ?」
「それこそ無理だ……アジャーニ家の直系が正室候補である上に、側室候補も全てアジャーニ家の息がかかっている……側仕えにすら入り込む隙がない……」
なるほど。やっぱアジャーニ家ってやるもんだな。現役の宰相だけあるわ。
さて、もういいかな。聞き忘れたことはないよな? そもそも事情を聞く必要なんかないんだけどね。私が納得したいからやってるだけのことだ。
「この屋敷にいる人数を言え。家族と家来、それぞれ何人だ?」
「ぐぐっ、家族は、八人、家来は知らぬ……」
ははーん、こいつさては家来を人間と思ってないタイプだな。
「執事とか家宰は? 何人だ?」
「家宰は一人、執事は四人だ……」
後はそいつらに聞けばいいか。
『永眠』
『乾燥』
まずは二人、苦しまずに死ね。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!