演奏が止まり、ステージにダミアンが立っている。
『お前ら! 今日はカースの成人祝いによく来てくれたな! じゃあ最後にカース! こっちに来て挨拶しろや!』
いきなりそんな無茶な…さすがに二秒スピーチとはいくまい……困ったぞ。
ゆっくり歩きながらステージに向かう。何を話そう……
ステージに着いてしまった……どうしよう……
「えー、皆さん、今日は僕のために来てくださってありがとうございました。この場にいるのはほとんどが同級生だと思います。クタナツ出身、領都出身、色んな所から集まった結果、今夜こうして出会うに至りました。そのような出会いを企画してくださったダミアンと場を提供してくださった辺境伯閣下にも感謝申し上げます。
なお、余談ですが僕とアレクサンドリーネは彼女の卒業を待って旅に出ます。最初の目的地は山岳地帯です。海の彼方にも行くでしょう。そうしてあちこちを旅したら再びフランティアに帰ってきます。そしたら結婚する予定です! その時、縁があったらまた集まりましょう!」
おっ、まばらな拍手がいつの間にか歓声に変わってる。よかったよかった。
『そんじゃあパーティーはここまでだ! このまま飲み食いし続けるも帰るのも好きにしな!』
あー、楽団は帰るんだな。酒も料理もまだあるし、私達はもう少し居ようかな。
「おいダミアン、挨拶があるなら言っておいてくれよ。焦ったじゃないか。」
「俺だって忘れてたんだよ。何か足りねーなーと思ったら主役が挨拶してねーんだからよ。」
「ボスぅ、相変わらずぶっ飛んでんねぇ。山岳地帯だってぇ? アタシぁ一生行きたくないねぇ。」
「おや? 四つ斬りラグナがえらく日和ってないか?」
「ふふっ、アタシぁもう昔のアタシじゃないのさぁ。ネズミを見てキャーキャー言うような可愛い女になるのさぁ。」
そんな女は私の前で裸のまま生首を並べたりしないと思うぞ……
「カース……」
「アレク。」
顔を真っ赤にして私の元へとやって来た。そしてそのまま抱き着いてきた。
「カース……私、嬉しいわ……どこまでも付いて行くからね!」
「アレク、どこまでも一緒に行こうね!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんにカムイも一緒だと言っている。今週は色々と嫌なこともあったけど、最終的に最高の一日を過ごすことができた。嬉し過ぎる。
「さあさあ、みんな。もっと飲もうよ。夜は長いんだよ。」
酒はそこら辺にまだまだたくさんある。私が魔力庫から出すまでもない。
そんな時、ボチボチと帰り始める人並みに逆らうかのようにドレスを着た女性がこちらに走り寄ってきた。あれは……
「カース様! 私を呼ばないなんて酷いじゃないですか!」
「やあ会長。一ヶ月ぶりかな。」
「あぁんカース様ったらたった一ヶ月会わなかっただけでもうリゼットと呼んでくださらないのですかぁ!?」
「いや冗談。リゼットも来てくれてありがとう。聞いてなかったの?」
「ついさっき小耳に挟んだのですわ! こうなったらもう! 飲ませていただきます!」
リゼットは私がテーブルの下に隠しておいた樽を目ざとく見つけた。
「なっ! この樽は! ドルベン・スペチアーレですね!? いただきますよ!」
そう言って手際よく樽の栓を抜く。どこから取り出したのか細い柄杓で酒を高そうなグラスへと注いだ。こいつ、グラスは自前かよ。面白いから見てみよう。
「あれ? ドルベンにしては香りが全然……味は……うぇろぼぼぼとおぉおぉ……」
だめか。やはり私達以外に飲ませるべきではないな。リゼットの尊い犠牲は無駄にしないよ。
素早く洗濯魔法を使い、リゼットの周囲からドレスから全てきれいにしておこう。
「ちょっとカース! 何なのこれ!? わざわざ隠してるぐらいだから後で何かするのかと思ってたけど。」
「いやー、スペチアーレ男爵のお酒なんだけどね。僕の全魔力を込めたらこうなってしまったんだよ。飲めば魔力は全回復するみたいだけど、かなり強烈な吐き気を催すみたいなんだよ。」
おまけに魔力庫に収納できないんだもんな。領都に入る時からずっと『隠形』をかけてたんだけど。いつの間にか切れていたようだ。
「ふふ、カースらしいわね。ねぇ、せめてリゼットを客室に運んであげてくれない? カースが。」
「もちろんいいよ。行ってくるね。」
アレクの頼みなら何でも聞くに決まっている。リゼットを浮かせて、勝手知ったる辺境伯邸内部へゴー。
それにしてもアレクはリゼットに優しいよな。リゼットも初対面の時は仕事のできるオーラがバリバリだったのに。どうしてこうなった?
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