まあいい、金が欲しいなら貸してやろう。
「ではお客様、いかほどお要り用ですか? お一人様金貨二十枚なんてどうですか?」
どいつもこいつも上手くいったって顔してやがる。いつも新人相手にこんなことしてんだろうな。
「いいぜ〜それだけで勘弁してやるぜ〜」
「何かあったら言ってきな。面倒見てやるからよ」
「いい金持ってんな。まだあるんだろ?」
「早く出しな」
「始めから素直にしてりゃあいいんだよ」
「では約束ですね。皆さんに金貨二十枚をお貸しします。利息はトイチの複利。いいですね?」
「おう、いいぜっのぉ」
「おお、貸せやゅだ」
「? いや……」
「はいはい、そのうち返すっど」
「いいぜ、返さねぇぅとっ」
くそ、一人掛かってない。用心深い奴がいたか。
「そちらのお客様は必要ありませんか? ではお貸ししないということでいいですね?」
他の奴らも今更気付いてざわざわしてやがる。もう遅いぜ。
「ああ、やめとくわ。俺は帰る。お前らあんまり新人をいじめてやるなよ」
ちっ、大物ぶりやがって。
「さて、お客様。分かったと思うが今のは契約魔法だ。十日ごとに少しずつ返済した方がいいぜ。」
罰則をつけ忘れたな。まあいいだろう。
おや? いつもなら騙したな! 生意気な! とか言われるのに?
「ボウズ……お前の名前は……?」
「金貸しカース。十等星だが新人じゃないぞ。」
「ちっ、クタナツのガキか……ツイてねーぜ」
「何だ? 俺のこと知ってんのか?」
「名前だけな。クタナツ者には手を出すなってのが俺らの常識だ」
今さら何言ってんだ? クタナツの民が強いのは常識だろ。
「それより何で俺が金を持ってると思った?」
「あー、さっき第二倉庫に行ってただろ。あそこは新人専用だ。わざわざあそこに行ったんなら獲物をたんまり狩ってきたってバレバレだぜ」
「なるほど。まあいいや。ほれ金貨二十枚だ。大事に使えよ。」
四人に金貨を二十枚ずつ渡す。貸付残高は着実に増えている。将来安泰だな。
ようやくお昼だ。腹が減ったぞ、何を食べようかな。
昼食を終え、放課後を迎える頃、私はアレクを待つべく魔法学校の校門前で佇んでいる。守衛のおじさんとはすっかり顔見知りだ。すでに何回も来てるからな。
後十五分もすれば出てくるだろう。今日はいささか疲れた、はしたないが地べたに座って待っていよう。『発信』の魔法を使ってアレクには私が着いていることを知らせておく。
「アレクサンドリーネ様、本日のご予定はいかがでしょう?」
「本日こそ我が家のお茶会にご参加を……」
「いやいや伯爵家主催のダンスパーティーが……」
それから十分後……出てきたと思ったら、さすがアレク。群がる野郎きりがない。
普段は直接女子寮に帰るため、校門に出てくる週末は話しかけるチャンスだったりするのだろうか。
「カース、待たせたわね。」
おお、上級貴族モードか。群がる野郎どもなど眼中にないとでも言わんばかりだ。
「さっき来たとこだから待ってないよ。さあ、どこに行きたい?」
「カース、疲れてるんじゃないの? 顔色が悪いわ。自宅に帰ってお風呂でも入るのがいいかしら?」
野郎どもの前でお風呂ときたもんだ。私達の関係の深さをアピールしつつ、お前らはさっさと帰れとでも言いたいのだろう。
「アレクサンドリーネ様、そちらは?」
ようやく取り巻きその一君が質問をする。私はこの二年で何回も校門でアレクを待っているが、毎回いろんな男がアレクにまとわりついている。今回の彼らも初めて見る気がする。
悲しいことに、そんな男達に囲まれてるためかアレクには女友達があまりいないらしい。
「私の最愛の男よ。今からデートだから邪魔しないでね。」
彼らは絶句し、私を睨みつけてくる。よくある光景なので私から言うことなど何もない。アレクのことは諦めてくれたまえ。
私達は腕と腕を絡め、仲睦まじく歩き出した。まずはお茶かな。
「疲れてるんじゃないの? 今日はコーちゃんは?」
「少し疲れてるかな。今週は色々あったからね。コーちゃんはクタナツだよ。付いて来てくれなかったんだよね。」
「珍しいわね。何をしてたの?」
「ふっふっふ。内緒だよ。実は面白いことをしてるんだけど、アレクをびっくりさせたいんだ。だからもうしばらく内緒なんだよね。」
「カースがそう言うなら相当すごいことがあるのね。楽しみにしてるわ。」
特に当てもなく歩いていたらカファクライゼラの前を通りかかったので、コーヒーでも飲んでいくことにした。
コーヒーを飲みながら、キアラに負けそうになり武者修行に出たことや、そこで負けてもいいやと思い直したことなどを話した。
「呆れたわ。カースほど魔力があるのにキアラちゃんに負けそうなことも、魔法なしであの森を歩いたことも。理解を超えてるわよ。」
「やっぱり魔法って使い方次第だよね。キアラはすごく自由なんだと思うんだ。あの姿勢はアレクも参考にしてね。僕のように魔力に任せて解決するのはよくないよね。」
そうやって会話とコーヒーを楽しんでいると、ふいにアレクが……
「ねぇ、今夜ダンスパーティーがあるらしいわ。さっきまで興味なかったんだけど、カースと踊ることを考えたら出席してみたくなっちゃった。どう?」
「ダンスは少ししか分からないけど面白そうだね。いきなり行っていいものなの?」
私はツイストやディスコ・クラブ的なダンスしかできないぞ?
「問題ないわ。参加は自由だしね。じゃあカースのお家に行って準備を整えないといけないわね。馬車も呼ぶ必要があるし。」
我が家にはアレク用の一室もあり、そこには魔法学校では使うことがないであろう豪華な服やアクセサリー類も多数置いてあるのだ。寮には学校関係の物しか置いてないらしい。
自宅に戻った私達は入浴と軽い食事を済ませてからドレスアップ。私は基本的にはいつもの服装だがシャツだけが違う、シルキーブラックモス製だ。サイズ自動調整に温度調節はもちろん、防汚、防刃、汗排出までしっかり付けてある純白の超高級シャツなのだ。ちなみにパンツと靴下も同じだったりする。残念ながら自動修復は付いていない。
シャツ、パンツ、靴下の三点セットで金貨二百枚ぐらいかかった。素材を調達する段階から依頼をしたら軽く千枚はするらしい。
「坊ちゃん、馬車が来ましたよ。」
よし、アレクは準備できたかな? 普通はメイドが着付けなどをするのだろうが我が家には一人しかいないからな。マーリンだけでそこまで手は回らないだろう。アレクなら自前でもうまくやる、名門貴族なのに時々庶民派なんだよなぁ。
準備を終えたアレクが部屋から出てきた。うーむ、ため息が出るような美しさだ。十二歳とは思えない色気と若葉のような鮮烈さを併せ持っている。
真っ赤なドレスに結い上げた豪奢な金髪。肩と背中を大きく露出し胸元には真紅の宝石、レッドベリルだったか、が輝いている。アレクの引き立て役に丁度いい宝石だ。
こんな格好で踊ったら会場の視線は独り占めに違いない、さすがアレク。
「すごく綺麗だよ。似合い過ぎてて何も言えないよ。」
「ありがとう。カースもカッコいいわよ。」
そして私達は馬車に乗り会場へと向かった。大抵このようなパーティーは貴族が主催で招待状が必要なはずだが……今回は自由参加ってことだし、そうでなくてもアレクなら顔パスだろう。
馬車に乗ってから十五分。到着したのはどこかの貴族家。辺境伯邸に比べたら小さいが、それでも百人規模のダンスパーティーができそうな広さはある。すでに始まっているようで表には何台も馬車が停まっている。
このような貴族のパーティーは一家で参加して家同士の繋がりを深める目的や顔つなぎがメインといったイメージだが、今回は違うらしい。建前的には純粋なダンスパーティーなのだろう。大人の姿が見えない。正面玄関で出迎えをしている数人ぐらいだ。主催者は中かな?
馬車はやがて玄関前で停まりドアを開けられる。私は先に降りてアレクに手を貸す。アレクは私の手を取り優雅に降りてくる。このような何気ない所作からもアレクの魅力が溢れてくる。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどうぞ楽しんで行かれますよう」
執事っぽい人だ。
「ありがとう。楽しませてもらうわね。」
私はアレクをエスコートし、会場へと向かう。楽しげな音楽が漏れ聴こえてくる。中々盛り上がっているようだ。メイドさんによってドアが開かれ会場に足を踏み入れる。見たところ六十人程度がそこにおり、そのうち踊っているのが四十人ぐらいだろうか。踊ってない者は食事や歓談を楽しんでいるようだ。ディスコと違い音楽が会話の妨げにはならず、普通の声で会話に問題はない音量だ。
踊ってない者の視線がアレクに集まる。好色、嫉妬、興味と様々な感情を感じるな。
「さあカース。踊りましょう。」
「喜んで。」
周囲を見るに踊り方は自由なようだ。社交ダンス風に踊るペアもいればチークを踊るペアもいる。向かい合って思うがままに体を動かすペアもいる。私はアレクに合わせて楽しく動いてみよう。夜はこれからだ。
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