朝、正しい時間に起きてゼマティス家の皆さんと朝食だ。シャルロットお姉ちゃんは帰ってきていた。眠そうだな。私もだけど。
「カース君、早速王宮からお召しがあったわよ。明日の昼前に来るようにとのことよ。」
「はい伯母様。行きます。」
早すぎる。もう私が王都に来たことを知っているのか? いや、兄上にドラゴンゾンビの献上の話をしたからか。それならまあいいか。
なら今日は何をしようかな。あ、サンドラちゃんのとこに行こう。
来た。寮ではなく、いきなり教授の部屋だ。いるかな?
「失礼しまーす。」
「失礼します。」
「ピュイピュイ」
「帰りたまえ! 何度来られても私の研究は渡さん!」
「ほう? 我が教団の力がまだ分かってないようですな? 失うのが職だけだといいですな? ではまた。」
おやおや。朝から脅迫シーンを見てしまった。この教授の研究って原子、いや元粒体だっけな? 宗教組織がそんな研究をなぜ欲しがる?
「おや? 君はあの時、講義に出席していた子ですね? どうです? 神の声を聞いてみたくなりましたか?」
「間に合ってます。」
「ほほう、これはすごい! 間に合ってるということはすでに祝福をお持ちですか! 差し支えなければ後学のためにお教えいただけないですかな?」
適当に答えたら面倒なことになった。うーん、まあいいか。
「天空の精霊の祝福をいただきました。ですからこれ以上は身に余るだけです。」
あいつにもまた会いに行かないとな。魔力を欲しがってたし。キアラは一体どんな祝福を貰ったんだ?
「ほほう、これは珍しい。神ではなく精霊の祝福ですか。ますます素晴らしい。ぜひ一度足をお運びください。我ら迷える教団員に導きの手をお願いします」
迷える? 血迷えるの間違いだろ?
まあ、お願いすると言われたことだし聞いてあげようかな。気に入らなかったら更地にすればいいし。
「いいでしょう。少しだけですよ? 外で待っててください。」
「お待ちしております。改めまして私の名は司教ザガートです。どうぞよしなに」
そう言って白い奴らはゾロゾロと部屋を出ていった。
「カース君、アレックスちゃん、久しぶりね。元気そうじゃない。」
「やあサンドラちゃん。夏休みなのに朝から頑張ってるね。」
「お久しぶりね。サンドラちゃんこそ元気そうでよかったわ。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんも首をぴょこぴょこさせて挨拶をする。
「それであいつらは何を欲しがってるの?」
「私から話そう。まあ私にも分からんのだが『極小粒元体理論』を欲しがっているのだ。素直にベクトリーキナー卿に弟子入りすればいいものを私に研究成果をよこせと言う始末なのさ。」
「意味が分かりませんね。狂信者って嫌ですねー。」
「それでカース君、あいつらの所に行ってみるの?」
「まあ興味はないんだけどね。何か今後の参考になることでもあればいいかなーって。」
「じゃあ私も行くわよ。『極小粒元体理論』は私だって思い入れがあるんだから。」
「いいと思うよ。じゃあ行こうか。お邪魔しました。」
「気をつけてくれたまえ。君が言ったように奴らは狂信者だ。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
あいつら一体何考えてるんだろうなぁ? 気持ち悪いわー。
正門前に出てみると奴らは待っていた。生意気に高そうな馬車を持ってやがる。
「待ってましたよ。さあ、お乗りください」
「どーも。」
私の後に続いてアレクとサンドラちゃんも乗り込んだ。
「ところで、僕に何の用ですか?」
「まあまあ、そう慌てないで。その辺は到着してからでいいでしょう。ところで、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「言ってなかったですかね。カース・ド・マーティンです。」
アレクとサンドラちゃんはダンマリだ。それでいいと思う。
「なるほど……只者ではないと思っておりましたが……魔王その人でしたか」
「誰が言い出したんでしょうね? 僕は平凡な少年ですよ。未だに十等星ですし。」
ずっと地道な冒険者稼業をしていたが、昇格試験は受けてない。面倒だったからだ。だからずっと十等星ってわけだ。
「ふふっ、ご謙遜も甚だしいですな。あなたが平凡だったら我々は愚者だ」
そりゃお前ら教団は愚者だろ。トップはどんな奴なんだ?
「そちらの教団ですが、教主様はどんな方なんですか?」
「総代教主様ですね。私ごときでは窺い知ることなどできない大きな方です」
あれ? このパターン、セリフってどこかで聞いた気がするぞ?
「さあ、到着しました。いやあカースさんは運がいい。突然なのに立ち入りが許されるなんて。幸運ですね」
「はあ……」
そんなわけないだろ。何お得感出そうとしてんだよ。
さて、いよいよ伏魔殿へ討ち入りか。鬼が出るか魔が出るか……
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