昼からはアレクの特訓だ。せっかく首席をとったので負けないよう実力アップを図りたいと。
場所は領都の北西、だだっ広い平原にやって来た。
「さあどんな特訓をしようか?」
「カースの魔法で何か硬い物を飛ばしてくれる? 私がそれを撃ち落とすわ。」
「なるほど、面白そうだね。じゃあ段々速くするね。」
イメージはクレー射撃だ。アレクの前方三十メイルぐらいを山なりに円形の鉄板を通過させる。
『氷弾』
さすが! 一発で命中だ!
「お見事! じゃあ次は貫けるように威力も上げてみて。」
氷弾で鉄板を貫くには、魔力を込めまくって硬さと速度を上げるしかない。それから回転かな?
「弾をこんな形にして、この向きに回転させると直進性が増して弾道が安定するらしいよ。」
そう言ってジャイロ回転を見せる。
「そうなの? カースが言うんなら間違いないわね。もっと早く知りたかったわ。」
アレクが可愛い顔で私を睨む。勉強を教えるのは得意なんだが魔法は……うーん。
「でもその方向に回転させるのって難しいわね。形も鋭くない方が威力が増すなんて不思議ね。」
そう不思議だ。現代科学がすごいのだろう。ストッピングパワーがどうとか聞いたことがある。たぶん進入角とかにも寄るんだろうな。
「じゃあ次々行ってみよう。」
速度は変えず、山なりに円形の鉄板を飛ばす。やや命中精度は落ちたが威力は増したようだ。貫通とはいかないが、多少へこむようになった。さすがアレク、理解が早い!
「少し速くするよ。」
ここからは命中精度にも注意を払ってもらおう。頑張れアレク!
「ここからは色んな方向に飛ばすよ。」
先ほどまでは右から左へ飛ばしていたが、ここからはあらゆる方向へ飛ばしていく。目が追いつくかな?
アレクが外したやつは私が撃とう。普段あまり使わない氷弾なら自分の練習にもちょうどいい。
そして時刻は三時ぐらい。おやつの時間だ。アレクはお茶を用意し、私はお菓子を用意する。平和なひと時だ。
「ねえ、カースはどうやって弾の速度を上げてるの?」
「やっぱり金操かな。昔は風操も併用してたんだけど、金操だけの方が速くなっちゃった。」
正確には鉄塊で作った弾丸を発射する一連の魔法を狙撃と呼んでいるのだ。さすがにミスリルの弾丸はその場で作れないので予め数発ほど作って収納してある。
「金操ね……相当魔力を消費するのよね……」
「そこでプレゼントがあるよ。用意しておいたのを忘れてたよ。これこれ、循環阻害の首輪。」
キアラにはお古をあげたが、これは新品だ。
「キアラちゃんもしてたわね。着けてみるわ。」
女の子に首輪を着けさせる。背徳的な喜びを感じてしまう。
「くっ、はぁはぁ……」
あら、もう外してしまったぞ?
「私には無理だわ……氷弾を一発撃とうとしただけで魔力が空っぽ。キアラちゃんはこれを着けて……あれだけたくさんの魔法を……」
「空っぽ? じゃあこれ飲んで。魔力ポーションだよ。」
「ありがとう。落ち着いたわ。それにしても苦いわよね。」
白い液体を飲んで苦いと言う少女……いかんいかん!
それにしてもレバーは不味くて食べられない。しかしそれよりも苦い魔力ポーションは飲める不思議。これは魔力ポーションあるあるなのか?
「寝る前に少しだけ首輪を着けて魔力を空にしてみるといいよ。」
「ええ、やってみるわ。ところでカースの首輪、それは? 循環阻止の首輪じゃないのよね?」
「あー、これはね。拘束隷属の首輪だよ。中々きついよ。着けてみる?」
「凶悪犯用の首輪じゃない! 絶対嫌よ! 何て物を着けてるのよ!」
「循環阻止の首輪が効かなくなっちゃってさ。憲兵隊の隊長さんが用意してくれたんだよ。さすがにそのまま着けてたら犯罪者っぽいからサウザンドミヅチの革でカバーしてオシャレに仕上げたんだよ。」
「それじゃあカースが悪いことをしたらどうやって拘束するのよ! もう、悪い子ね!」
「母上も隊長に同じこと言ってたよ。新製品に期待するって。でも強くなるには魔力を上げる以外にも方法があるんじゃないかって言われたよ。」
「そうよね。私達もあと五年もすれば魔力は上がらなくなるし、工夫が大事なのよね。さすがイザベル様ね。」
それからもう一時間ほど特訓をして自宅へと帰った。夕食も楽しみだ。肉はまだまだあるからな。
そして夕食、入浴、就寝。
風呂以外はいつもの流れだった……
ちなみにアレクファミリーからの手紙は夕食前に渡した。危うく忘れるところだった。
次に会えるのはまた二週間後、もう六月になる頃か。
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