異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

327、表彰式

公開日時: 2023年2月28日(火) 10:11
文字数:2,320

代官が壇上に立ち、周囲を見渡す。全員の目が自分に集まったのを見計らって話し始める。代官ともなると間の取り方もバッチリなんだな。


「フランティアの次代を担う若者達よ。諸君の奮闘を私は嬉しく思う。本日の結果に満足することなく、今後も精進を続けて欲しい。

さて、この夏に王都で起こった一大事については風の噂でも聞いているだろう。怪しげな教団、反乱を起こした王国騎士団。王都を四方から襲った数多の魔物。

それらから王都民を守り、陛下のお命をお救い奉った英雄がここにいる!

カース・マーティン! キアラ・マーティン!

壇上に上がってくれ!」


呼ばれたからには行こう。さあキアラ。


「押忍!」

「おす!」


壇上から見てみると意外とたくさん集まってんだな。千人近くいるんじゃないか?


「カース・マーティン。君は聖白絶神教団の本拠地を壊滅しせめ、騎士団本部に立て篭もった賊徒を建物ごと潰した! それどころか! 卑劣な毒に玉体を蝕まれた国王陛下をお救いし、辺境伯家の上屋敷も守り抜いた! そして何より! 王都の西、ヴェスチュア海から押し寄せる数万にも及ぶ魔物から! 一人で王都を守り抜いたのだ! その中にはクラーケンもいたと聞く! 話半分に聞いても前代未聞の功績である! よって国王陛下手ずから『勲一等紫金剛褒章くんいっとうしこんごうほうしょう』を与えられた!

ならば、代官府からは『名誉クタナツ民』の称号を与えるとともにここに表彰する! 見事であった!」


「謹んで拝領すると共に今後も鎮護国家の礎となるべく精進して参ります。」


年金は付くのかな?


「続いて! 王都の南、サウジアス海を埋め尽くした魔物から国家の要衝ポルトホーン港を守り抜いたキアラ・マーティン! 一面に渡り大海を凍りかせて魔物を防いだ手腕! さぞかし宮廷魔導士達が君を欲しがっていることだろう! よってこちらもまた国王陛下手ずから『勲一等緋翠玉褒章くんいっとうひすいぎょくほうしょう』を授けられた!

よって兄カース同様『名誉クタナツ民』の称号を与えるとともに表彰する! 見事であった!」


「つつしんで、はいりょうすると、ともに! こんごもちんごこっかの、いしずえと! しょうじんします!」


えらい! よく言えたぞ。さすがキアラだ。


「また! マーティン家の皆も同様に勲章を授かっている! こんなに誇らしいことはない! 諸君! 盛大な拍手を!」


千人からの人間が手を叩き歓声をあげる。初めてではないがやはり気分がいいものだ。




歓声が止む頃、代官から一言挨拶を求められた。よし、気分がいいからサービスしよう。


「どうもどうも。カース・マーティンです。本日はお日柄も良く、でも肌寒いですね。催しはまだ続くことですし明るく陽気にいきたいところですよね。と言うわけで『風壁』代官府を丸ごと覆ってみました。すぐに暖かくなると思います。」


大抵の貴族や冒険者は魔法効果付きの服を着てるから暑さ寒さがさほど気にならないが、平民は違うからな。


「その催しだが、通常であればクタナツ校の教師に対戦なり指導なりを請うところだが、今回はそれに加え、こちらの魔王カースにも挑戦を許そう。ただし指導ではなく対戦のみで一回で金貨一枚だ。 希望者は後ほど受付を済ませるといいだろう。」


おや代官め。それは初耳だぞ。でも美味しいからやるけどね。さすが代官。




「開始は午後からだ。それでは皆の者! 楽しんでくれ!」


秋の大会って半分はお祭りだもんな。出店はたくさんあるし。とりあえず私達は昼食だな。母上とベレンガリアさんが弁当を作ってくれてるもんな。




「キアラ、よくやったぞ。まさか一人で三部門を制するとはな。」


「うん! 私がんばったよー!」


父上がキアラの頭を撫でている。キアラも嬉しそうだ。

私が気になるのは……


「どんな問題が出た?」


学問部門の問題だったりする。


「おもしろい問題だとねー『あなたは二百本の低級ポーションを持っている。ある店ではポーションの空き瓶五本につき低級ポーション一本と交換してくれる。さて、あなたは最大で何本のポーションを飲むことができるか』というのがあったよー!」


いいのかこの問題……ポーションは一日に二本までしか飲んではいけないのが常識だが……これで正解は二本って言われたら怒るぞ。


「数字は苦手だわ。」


お、母上にしては珍しい。こんな弱点があったのか。


「私もだ。さっぱり分からん。」


父上もか。


「どう考えても二本じゃないですか?」


意外にベレンガリアさんが常識を語っている。ちなみにオディ兄とマリーは二人だけの世界に入っている。コーちゃんは父上の横の酒瓶に頭を突っ込んでるし、カムイは肉に夢中だ。


「カー兄わかるー?」


「ああ、四十九本かな。」


「ちょっとカース君正気!? いくら低級でも一日にそんなに飲むなんて! カース君じゃあるまいし!」


さすがの私もそんなに飲んだことはないぞ。いや、あるな……


「詳しく教えろよ。」


おっ、父上が興味を示したぞ。逆に母上は全く無関心な顔してる。


「いや、普通に五本で一本なら二百本で四十本と交換してもらえるよね。で、その四十本をその場で飲んだら八本と交換してもらえる。最後にその八本のうち五本を一本と交換してもらえるから、合計四十九本だね。問題には一日でとは言われてないみたいだし。」


「なるほどなー。さすがカース。やるじゃないか。」


「カー兄すごーい! 私まちがえたみたいだよー!」


「キアラは何本て答えたんだい?」


「二百四十九本!」


あ……しまった! 最初のポーションを空だと思い込んでた……問題では空き瓶とは言われてない……よな?


「たぶん、キアラが正解。最初のやつを忘れてたよ。キアラはすごいなぁ!」


くっ、これだ……初等学校時代からこのせいで私はサンドラちゃんに算数でも負けていたんだ……今夜はヤケ酒かな。

いや、その前にイベント対戦があるな。よし、ヤケ対戦だ。

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