母上手ずからの昼食を食べた私は領都へと向かう。いよいよ今日の放課後はアレクに会える、楽しみだ。
領都に到着すると、まずはベイツメントに向かおう。頼んでいた服が出来ている頃なのだ。
「こんにちはー。」
「いらっしゃいませ。マーティン様、出来ております」
おお……何と言う手触りの良さ。そして羽のように軽い。魔石もしっかり渡してあるので、防汚、汗排出、温度自動調節など各種機能も付けてある。買うなら一着金貨二、三百枚はするだろう。
「いい感じですね。またお願いすると思います。ありがとうございました。」
「マーティン様はお召し物に並々ならぬ拘りがお有りのようで。またのご注文を職人共々楽しみにお待ちしております」
次はもっと贅沢なパンツと靴下を作ってみようかな。
やはり肌に密着する下着は絹より綿か。
これらはいくつあってもいい。
放課後まではもう一時間ぐらいあるだろう。たまには一人でコーヒーでも飲むとしよう。
のんびりコーヒーを飲んでいたら美人のお姉さん二人から声をかけられた。雰囲気はナンパだったが、こんな子供相手にナンパとは思えない。楽しくお喋りするだけにとどめておいたが、何か目的があったのだろうか?
そして放課後、校門前でアレクを待つ。
すると、五分も待たないうちに走って出てきた。息を弾ませて……可愛らしいなぁ。
「お待たせ! 会いたかったわ!」
「待ってないよ。僕も会いたかった。」
「じゃあ行きましょうか。」
そうして腕と腕を絡ませて歩く。今日は取り巻きがいなかったようだが?
「今日は男の子達に囲まれてないね? それはそれで珍しいね。」
「もう! 囲まれる前に走って逃げたのよ! 大急ぎで来たんだから!」
「ふふっ、ありがとう。嬉しいよ。」
貴族らしからぬ行動だが、今更だな。
アレクの要望でギルドに寄ることになった。訓練場でこの前の稽古の続きを頼まれたのだ。練習熱心だな。嬉しくなってくる。夕食までは二時間と少しぐらい、軽くトレーニングするにはちょうど良さそうだ。
「この前ほど遠くを飛ばすわけにはいかないから、五メイル付近を高速で飛ばすね。」
「ええ、お願い!」
標的が近いと威力は増すが、アレク自身の反応が追いつかないことが多い。当たれば貫通するが、外すことが多かった。難しいものだ。一体どんなアドバイスをしたらいいんだ?
ちなみに外した氷弾は危ないので私が処理している。
「じゃあ標的を少し厚くして遅くするね。」
これなら当たるだろう。貫通してくれると尚いいのだが。
おっ、命中率が上がった!
「いいね! いい感じだよ! その調子!」
「何か分かってきた気がするわ。最後にカースに思いっきり撃ち込んでみるから防御してくれる?」
「いいよ! 好きに狙ってみて!」
おおー、アレクがやる気になっている! いい傾向だ。私だって負けないぞ。自動防御を厚めに張っておこう。
『氷弾!』
氷のライフル弾だ。私の腹の前で止まっている。危なかった。自動防御に少しヒビが入っているではないか。目には見えないけど。
「お見事! 今のを連続して三発くらってたら防御が抜かれてたよ!」
「ありがとう。やっぱりまだまだね。あんなのを三発も、それも連続して撃つなんて無理だわ。今はね。」
そろそろ帰ろうとしていたらお約束の……
「アレクサンドリーネちゃん。魔法ならそんな弱っちい奴より俺が教えてあげるよ!」
「俺達の連携はここじゃあ評判なんだぜ?」
「学校で教えてくれないことも実戦だと為になるよ?」
「今から帰るので結構です。お疲れ様でした。」
「待ちなよぉ〜。いつも門限って言って帰るじゃないか。たまにはゆっくり飯でも行こうよ!」
「そうそう。大人の時間ってもんを教えてあげるよ?」
「勉強熱心だと聞いてるからさ、色々教えてあげようね?」
さて、どうしよう?
アレクを取り巻く三人の冒険者。大人の時間を教えてあげると言う割には三人とも十代後半ぐらいだろう。アレクに魔法を教えられるほどの腕なのか?
「お兄さん達って凄腕なんですね! すごいなぁ! 僕に見本を見せてもらえませんか?」
まずは私が様子見。
「あぁ、何だこいつ? 帰っていいよー」
「そうそう、俺達は凄腕だからさ。早く帰らないと危ないよー?」
「俺達の魔法は危険だからな。見本なんて見せられないね?」
「それは残念、じゃあアレク。帰ろうか、いやー残念だね。」
「ええ、帰りましょう。」
そうやっていつも通り私の腕に腕を絡ませる。
「待てや! 何アレクサンドリーネちゃんを連れて帰ろうとしてんだ!」
「一人で帰れよ! アレクサンドリーネちゃんは俺らと飯に行くんだよ!」
「夜道は危ないよ? 無事に『麻痺』帰れ……」
帰れと言ったり待てと言ったり、どうしろってんだ。そのままピクピク止まってろ。ついでに『微毒』
微毒だけなら吐いたり気分が悪くなる程度で済むが、麻痺とセットだとどうなるのだろう? 吐きたくても吐けない苦しみを味わうことになるのでは?
やはりと言うか、この程度の魔法が容易く効いたってことは魔力の低い雑魚だったということだ。ばかめ。
「ところで、あいつらのこと知ってる?」
「うーん、顔は見覚えがあるわ。断っても断ってもしつこい男が多くて。名前までは分からないわね。」
うーん、これは本格的な対策が必要なのでは? 非常に気は進まないが、名を上げる必要があるのか?うーん、どうしよう。
その後はいつも通り。自宅に帰って入浴、今日は一緒に入ってくれた! しかもいつもより甘えるかのように全身で私にしがみついてきた。当たってるよ? 当ててんのよ! と言わんばかりだ。うーむ、湯浴み着を厚くするべきか。
「この前注文してた服が出来たよ。これ、貰ってくれる?」
「ありがとう。この間の……うわぁー手触りがいいのね! これは変わったデザインね……まるで大昔の奴隷の貫頭衣みたい……」
「これはね、ワンピースって言うんだよ。シャツとスカートが一繋ぎになっていることから古来よりそう呼ばれているんだよ。ドレスもそうだけどね。」
「ワンピース……いい響きね。あれ? カースのは短くない?」
「ああ、僕のはTシャツって言うんだよ。統一王朝時代よりさらに昔、西側諸国で使われていたという文字を元にしたシャツなんだよ。」
「へえー、ティーシャツね。奴隷の貫頭衣とさほど変わらないのにオシャレに見えるわ。」
「寝間着として使うのがおススメだよ。一着はうちに置いて、もう一着を寮に持って帰るといいかな。」
「いつもありがとう。貰ってばかりで何を返していいのか見当もつかないわ。大好き……」
私はアレクが喜んでくれたらそれでいいんだ。ケイダスコットンの着心地は最高だしな。きっとよく眠れるに違いない。
「そういえば今日はコーちゃんは?」
「ノワールフォレストの森にいるよ。あ、そうだ。あそこなんだけど、『楽園』って呼ぶことにしたよ。いちいちノワールフォレストの森の南端部のちょい東なんて言うのも面倒だからね、名前を付けてみた。」
「へぇー、『エデン』ね。何とも神話的な響きね。カースにしてはセンスいいわ。」
ははは、褒められた。
「でね、この前の召喚魔法で呼んだ狼とコーちゃんが友達になってさ。一緒に遊ぶみたいであっちに残ってるんだよ。」
「倒れたのは召喚魔法が理由だったわよね。珍しいこともあるものね。本当に心配したんだから。」
「あはは、ごめんよ。じゃあ今日はアレクがいっぱい甘えていいからね!」
この後アレクサンドリーネ女王様にめちゃくちゃご奉仕した。
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