『武舞台の修復も終わりましたので、第二試合を開始します! 一人目はァー! ウリエン・ド「キャアアアァァァー!! ウリエン様ー! 素敵ー! カッコいいー!」始め!』
またもや歓声にかき消され実況が聞こえない。まあ対戦相手はナーサリーさんだと分かってるからいいけど。
ちなみに本日の兄上の武器はただの木刀だ。エビルヒュージトレント製ですらなく、ただの稽古用の木刀だ。しかし飛斬や飛突がスパスパ飛んでいく。
対するナーサリーさんの身のこなしはよくない。たどたどしい足取りで避けつつ防いでいる。
『ウリエン、強くなったじゃないかぁ。強者と戦い、魔物と戦い、盗賊と戦い。色んな経験をしてきたんだろうねぇ?』
『それが何か?』
『足りない経験があるんじゃないかぃ?』
『いくらでもありますよ?』
『ふふ、私をよぉく見てご覧?』
何だ? 幻術でも使ってるのか?
「アレク分かる?」
「分からないわ。お兄さんにだけ使ってるんじゃないかしら?」
あっ! 兄上が木刀を捨てた! マジで幻術とか催眠術とか?
『いい子ね。可愛がってあげるわ。こっちにいらっしゃい。』
これには観客も大騒ぎ。つーかうるさすぎ。
『消音』ありがとアレク。
しかしそんな大音量でも兄上は夢遊病のようにナーサリーさんに向かって歩いて行く。ナーサリーさんは後ろ歩きで武舞台端まで移動している。そのまま兄上を落とそうとしてるのか。
『私はここよ。早くおいで。たっぷり可愛がってあげるからねぇ。』
姉上は今頃ブチ切れてるんじゃないか? 大丈夫か?
場外まで後三歩。こんな負けってアリかよ。アリだよなぁ。
場外負け寸前、兄上は反転してナーサリーさんに飛びかかった。そして素早く組み敷いて唇を奪った。マジ何やってんの?
きっと場内は阿鼻叫喚だろうな。ここは消音のおかげで静かだ。その後ナーサリーさんが降参したようで決着となった。どうせ目がハートになってるんだろ。
『何という鮮やかな決着! 幻術にかかったと見せかけて! 近寄ったところを一気に手篭め! 私もナーサリー選手もメロメロです!』
『ワシのかわいいウリエン選手に腐れ外道アランの血が流れていると思うと複雑じゃがの。あやつのようにならなければよいがの……』
『私はあのような強引な男は嫌いではない。ぜひ私を実力で組み伏せるような男と出会いたいものだ。』
姉上はブチ切れかな……兄上も普通に勝ってくれよ。何でわざわざ会場を煽るような勝ち方をするかなぁ。
「そう言えばカースも少し前に領都の魔法学校で同じことをしてくれたわね。」
「そう言えばそうだね。あの時はアレクがいきなり撃ってきたんだよね。悪い子だったね。」
「でもみんなの前であんなことされて……私すごく……」
恥ずかしがるアレクはかわいいな。でも言われてみれば私も兄上と同じことをしてるのか。兄弟だなぁ。
『二回戦第三試合を開始します! 一人目はァー! エリザベス・ド・マーティン選手! 死の淵から蘇ったド腐れアンデッド女! 会場中からもブーイングが飛び交っております!
二人目はァー! デルフィーヌ・ド・ローランド選手! 姫様に匹敵する高い魔力で悪い女をやっつけろ……てください! 双方構え!』
『始め!』
『風斬』
『水壁』
いきなりか。姉上は発動速度が早すぎる。それをデルフィーヌ選手、よく防御が間に合ったな。
いや、それでも首元が切れている。重傷ではないが浅い傷でもない。
そこからが酷かった。完全に嬲り殺しだ。デルフィーヌ選手もなまじ魔力が高いだけに致命傷をくらうことはないし、反撃もする。しかしその反撃が全く当たらないのだ。姉上はいつの間に魔力感誘をそこまで使えるようになったんだ?
しかも途中からは切れる魔法以外にいつもの乱れ撃ちまで加わって、結局最後まで姉上が押し切った。前回アンタレスに効かなかったからか、一発一発に魔力がしっかり込められているようだ。防御されても押し通すとばかりに撃ちまくっていた。デルフィーヌ選手はたぶん生きてる、よな?
『勝負あり! エリザベス選手の勝利です! ちっ!』
『まるで若い頃のイザベルを見ているようじゃ。あの魔力の使い方といい、敵に対する容赦のなさといい。末恐ろしいわい。』
『魔女殿とは是非一度お手合わせ願いたいものだな。未だに王都の語り草となっている方だからな。』
おじいちゃんが恐ろしいと言うぐらいだから母上は相当なんだろうな。妙に鼻が高いぞ。
「カース、お姉さんね。だいぶあの時の凄さに近付いてるわ。私が魔法を撃ち込んだ時は微動だにしてなかったわ。今回は少しだけ避けてたわよね。」
「そうなんだ。見たかったなー。」
そして対戦してみたかったな。私の狙撃や榴弾、魔弾などが通用するのかしないのか。確かめてみたかったよ。
『二回戦最後の試合を開始します! 一人目はァー! ゴモリエール・バーグマン選手! 王国一武闘会に参加すべくクタナツを発った! しかーし! 寄り道をしすぎて王都に着いたのは先週のこと! 遅れ過ぎぃー! でもせっかく来たからこっちに参加した! 強者が好きな恐怖の五等星冒険者だぁー!
二人目はァー! アンリエット・ド・ゼマティス選手! いきなりピンチだぁ! 相手は強い! どうする魔道貴族!? 双方構え!』
『始め!』
『ゴモリエール様。少しお話しにお付き合いいただけませんか?』
『よかろう。手短にの。』
『ありがとうございます。あなた様は何を求めてこの戦いに参加されたのですか?』
『知れたこと。戦うためよ。強き魔物との戦いも悪くないが、たまには人間の強者とも戦いたくての。』
『それならばご提案です。この試合負けてください。そうすれば私より数段強い相手と戦うことができますよ?』
『ふむ。悪くないの。具体的に言うがよい。どなたか?』
『まずは私の祖父、当代魔道貴族アントニウス・ド・ゼマティス。次に父、次期魔道貴族グレゴリウス・ド・ゼマティス。そして最後に破極流道場主オミット・ダーティーロード。王都でも上から数えた方が早い強者達ですわ。さすがに全員は無理ですが一人か二人なら何とかなります。』
『ふむ。ますます悪くないの。ではそれが確実に履行される証を見せてみよ。』
『おじいちゃーん! 聴こえてましたか? 助けてくださーい!』
まさか公衆の面前で堂々と買収とは。何でもアリだもんな。まさかこんな手で来るとは。お姉さん結構ダメージがあるもんな。姉上に勝つためにはなり振り構わないんだな。
『アンリエットや、分かったぞ。後日立ち会ってやるからの。グレゴリウスの奴は冬休みの終わり頃には戻ってくる。それからでもよかろう?』
『承った! ゼマティス卿ほどの方の口約束。値千金よの。この勝負、妾の負けでよい!』
マジかよ……
『決ちゃーく! まさかの買収で決着が付いてしまいました! 鮮やかな条件提示でした!』
『まあお遊びの大会じゃからの。血が流れなかったのじゃ。これでよいよい。』
『ゴモリエール選手! 後日と言わず後ほど私と立ち会え! 双拳ゴモリエールの実力をこの私、ベルベッタ・ド・アイシャブレが見極めてくれよう!』
『承った! 決勝戦の後、この武舞台にて!』
『何と言うことでしょう! この大会よりよっぽど注目のカードです! もはや決勝戦もただの前座となってしまったぁー!』
これはすごい。ゴモリエールさんの戦いも見れるし、ベルベッタさんの槍さばきも見れる。楽しみだ。準決勝、残り四人か。
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