ラフォート攻略から三日後の夕方、スパラッシュさんが訪ねてきた。
「奥様、この度は坊ちゃんのお陰で男になることができやした。伝えきれないほど感謝しておりやす。つきやしてはこれを坊ちゃんに受け取って欲しいんでさぁ。」
「カース、ありがたくいただいておきなさい。」
「ありがとう。でも今回上手くいったのはスパラッシュさんの情報が大きいと思うよ? つまり僕達はいいコンビだよね。ところでこれは何?」
見たところ長さは十五センチ、直径一センチに満たないほどの透明な針のようだが妙な形状だ。ストローのような穴が空いてると言えばいいのか? しかし断面は円ではなく、視力検査の環のようだ。
「こいつぁあっしの切り札の一つでさぁ。剣鬼にゃあ全く通用しやせんでしたが。坊ちゃんに必要たぁ思えやせんが、ほんの気持ちです。貰ってやってくだせぇ。」
「うん、ありがたくいただくね。使い道も想像がつくけど、これの強度はどう?」
「あまり強くありやせん。水晶ですんで注意してくだせぇ。」
なるほど。こんな透明な物を投げられたら全く見えない……躱しようがないな。でも先生には効かなかったのか。
刺さったら血が止まらなくなる設計だな……
さらに刺さった後、体内で砕けたら……さすが切り札、エゲツないぜ。
残念ながら金操で操りにくいので、ナイフ投げの練習が必要だろう。難しそうだよな……
「ところでこの名前は何て言うの?」
「こいつぁ『血吸針』と言いやす。そのまんまですがね。」
おぉー、物騒な名前だね。いつか使うことはあるのかな。
この後父上も帰ってきたのでスパラッシュさんも一緒に夕食となった。
「聞いたぞスパラッシュ、大手柄だったな。騎士長が引退して欲しくないって言ってたぞ。」
「旦那、からかっちゃあいけませんや。あっしはもう限界なんでさぁ。最後に一花咲かせやしたし、もう思い残すことはありやせんぜ。」
「騎士長は本気でお前を隠密として雇いたいようだったぜ? それでも引退するのか?」
「当然でさぁ。無茶言うもんじゃありゃせんぜ。あっしの大事な情報元だってもう使えやしねぇんで。」
「ふふっ、そうか。そいつは残念だ、寂しくなるな。」
この日の夕食はどこかしめやか。
でも父上もスパラッシュさんも酒が進んでいるようだった。
「思い出すなぁスパラッシュよぅ。」
「何をですかい?」
「お前と初めて会った時だよ。」
「あっしは忘れやしたぜ。」
「くっくっく。毒針スパラッシュ初の失敗だもんなぁ。」
「知りやせんぜ。」
「そうだろうそうだろう。おいカース、こいつはなぁ俺を狙ったんだぜ。太ぇ野郎だぜ。」
「ええ!? 父上を!?」
「何のことやら?」
「どうだカース。自分の命を狙った殺し屋とでさえ友になる俺ってすごいだろう?」
「すごい! さすが父上! 心の器がノヅチだよ!」
「へっへっへー。どうだイザベル、惚れ直したか?」
「うふふ、はいあなた。」
「ふっふっふー、どうだスパラッシュ! 羨ましいだろ! 羨ましかったら年に一回は顔を出せよ! 分かったか! 絶対だぞ!」
「旦那……ありがとうごぜぇやす。必ず来やす。あっしが育てた野菜を持って……また来やす……」
この夜、父上とスパラッシュさんは並んで机に突っ伏して寝ていた。
そして翌朝、スパラッシュさんだけが……
目覚めることはなかった。
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