『一回戦第五試合を開始します! 一人目はァー! エリザベス・ド・マーティン選手! 何と生きておりました! 闇ギルド魔蠍の凶刃、激毒に殺されたとの噂が駆け巡っておりましたが! なぜか生きているぅー!
二人目はァー! シシリア・コルシカーノ選手! ウリエン選手に興味はない! ただエリザベスを殺したいだけ! 姉の仇は私が討つ! 復讐者シシリア選手! 運良く一回戦で対戦が叶いました! 注目の一戦です! 双方構え!』
『始め!』
『勝負あり……残念ですが……即死です……』
『エリザベスめ……そこまでやらずとも……』
『しかしシシリア選手が殺す、と表明していた以上当然の結果ではある。むしろ一瞬で苦しまずに終わってよかったのかも知れん。』
開始二秒で首をザックリだもんな。ただの風斬かと思ったら衝撃貫通バージョンだった。衝撃どころか斬撃まで貫通するのかよ……シシリア選手は姉上が相手ってことで丈夫な盾を用意していたようだが、無意味だったな。
『ところでシシリア選手は防いだように見えましたが、どうして首を切られたのでしょう?』
『解説をしに来ておるが言えぬ。ただ王国一武闘会ではアンタレスには効いてなかったのにのぉ。そこにヒントがあるやも知れぬ。』
『むしろアンタレスはきっちり対策をしていたのに、シシリア選手は復讐心に目が眩み対策を怠っていたようだ。それでは勝てないのも道理だな。』
むしろアンタレスの時より強くなってるよな? 瀕死の状態から蘇ったら強くなるのもファンタジーあるあるかな。
『第六試合を開始します! 一人目はァー! デルフィーヌ・ド・ローランド選手! 若き大公殿下のご長女! 王家に次ぐ尊い血を受け継ぐお方だぁー!
二人目はァー! ミギータ・パスコリ選手! ウリエン様の姿絵を買うために冒険者になった! 稼ぎの大半を姿絵につぎ込み生活は火炎馬車! それでも諦めずにここまで勝ち残ったぁー! 実力差は明白! それをどう覆すのか目が離せません! 双方構え!』
『始め!』
デルフィーヌ選手は金髪縦ロール、所謂ドリルロールか。上級貴族の下位によく見られる髪型なのだが、大公家ほどの家柄であれをやるとは珍しい。よほど拘りがあるのだろう。
勝負の方は特筆することなくデルフィーヌ選手が勝った。レベルが違いすぎる。この人が二回戦で姉上と当たるのか。
『やはり実力差は崩せませんでした。この分だと二回戦からは激戦になりそうですね。」
『そうじゃな。王国一武闘会に参加できなかった面々でもある。思うところもあるじゃろう。』
『ティタニアーナ様とデルフィーヌ選手。同じ血脈を持つ者同士の対戦も楽しみではあるが、果たして実現するかどうか……』
第七試合はシード選手が負けた。何であの人がここにいるんだよ……
そして最後の試合が始まる。
『一回戦最後の試合です! 一人目はァー! アンリエット・ド・ゼマティス選手! 遂に登場しました優勝候補の一角! 品行方正百花繚乱! 魔法学院では男子人気ナンバーワン! 果たして彼女は魔道貴族たり得るのか!?
二人目はァー! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! 王国一武闘会準優勝! あの壮絶な決勝戦は忘れられません! しかしいいのかぁー!? 魔王カースからウリエン様に乗り換えようと言うのか!? はたまた両方とも手にするつもりなのか!? 勝てばそれも許されます! 一回戦最後の戦いです! 双方構え!』
『始め!』
待ってました! やっとアレクの出番か。しかしアンリエットお姉さんは強そうだ。頑張れアレク!
『氷弾』
『氷散弾』
『風球』
『風斬』
いきなりアレクの凄まじい魔法が放たれる。それをお姉さんはきっちり撃ち落としている。
しかしまだまだ続く。
『火球』
『旋風』
『燎原の火』
『おーっとぉ! 開始早々アレクサンドリーネ選手怒涛の攻撃だぁー! それを丁寧に防御するアンリエット選手! 余裕を感じます!』
『アレクサンドリーネ選手には何か狙いがあるのじゃろう。ただの力押しではアンリエット選手には勝てぬからの。』
『さすがはゼマティスの名を持つ者だ。無駄のない丁寧な魔力制御。見習うべきところがあるな。』
さすがお姉さん。必要最小限の魔力でアレクの攻撃を防いでいるようだ。ゴリ押しは無理か。
『燎原の火』
また燎原の火だ。武舞台上は火炎地獄となっている。お姉さんは空中へ逃れているが、アレクはどこへ行った? 火に紛れて見えない。
『凍てつく氷河』
おお! お姉さんの上級魔法か! あれだけの火が消えて武舞台がデコボコの氷に覆われてしまった! アレクは無事か!? いない!? どこだ!?
『おおーっとぉー! アレクサンドリーネ選手が消えてしまったぁー! 一体どこに行ってしまったのでしょうかぁー!?』
『隠形に磨きがかかっておる。土遁や木遁など様々な遁法と合わせてよく習得しておるようじゃわい。』
『うむ。逃げ隠れするのは貴族らしくない、弱者の戦法だと敬遠する者もいる中でよくやっている。』
お姉さんの様子からすると、本当にアレクがどこにいるのか分かってないようだ。全方位をきっちり警戒している。
『火球』
『火球』
『火球』
おお、無差別攻撃と見せかけて武舞台の氷を端から丁寧に溶かしている。あのどこかにアレクがいると判断したわけか。
やがて半分ほど氷は溶けた。しかしまだアレクは姿を現さない。
『燎原の火』
お姉さんは面倒になったのか残り半分を火で覆ってしまった。姿を現さないのなら焼き殺すってことだな。
しかし、それでもアレクは出てこない。我慢比べか?
お姉さんは火に覆われてない方に着地し、杖を構えて武舞台上を歩き回っている。かなり警戒しているようだ。
『さあぁーすっかり姿を消してしまったアレクサンドリーネ選手! 実はどこかで気を失っていたりするのでしょうか!?』
『それはないな。確かに魔力は感じぬが、アンリエット選手が警戒を緩めておらぬからの。』
『うむ。武舞台にいる選手にだけ感じるものがあるのだろう。虎視眈々と機会を狙う殺気がな。』
それにしてもアレクは一体どこに?
『きゃっ!』
突如お姉さんの声が会場に響いた。今回もおじいちゃんの魔法で武舞台上の声が聞こえるようになっているのだ。
『なんと! アンリエット選手の足の甲から刃物が生えています! まさかアレクサンドリーネ選手! 武舞台の下に身を潜めていたのかぁー!?』
『火球』
お姉さんは足元を攻撃するが、そこにはただ石の床があるのみ。アレクはいない。
傷ついた足で再び上空に飛び上がるお姉さん。
『水球』
『水球』
『水球』
今度は水攻めか。やはり武舞台のどこかにいるってことか。
『ゲホッ、はぁはぁ……』
いた! そうか! 落とし穴の魔法で武舞台に穴を空けて隠れてたのか。穴自体は炎で隠してたってわけか。熱かっただろうに……
それによく石に穴なんか空けられたものだ。かなり魔力が上がっている。
『氷弾』
『氷球』
『水球』
アンリエットお姉さんの怒涛の攻撃だ。アレクも防御をしようとするが呼吸が整っていない。ほとんど魔法を使えてないようだ……
『火球』
『旋風』
『風斬』
なんてエゲツない……
もはやお馴染みとなった火炎旋風の魔法、それに風斬を加えて焼きながら切り刻むってのか……
手加減しないって本当だったな。アレクの残り魔力からするとまだ防げる範囲だろう。ならばお姉さんの攻撃がまだ続くか?
『渦巻く炎に巻き込まれたアレクサンドリーネ選手! 果たして無事なのかぁ!? 生きているのかぁ!?』
『危険じゃな。見たところアレクサンドリーネ選手はロクに防御の魔法を使っておらん。危ないやも知れん。』
『よほど高位の装備でもない限り生存が危うい……本日の服装は魔法学校の制服だったが……』
『炎が収まってきました! アレクサンドリーネ選手は無事でしょうか!?』
『ほほう、やるではないか。』
『あの白いコートは?』
さすがアレク。あれだけの炎の中で無傷か。私のコートを愛用してくれて嬉しいぞ。
『なんとアレクサンドリーネ選手! 無傷だぁー! コートに焦げ目すら付いていなーい!』
『装備のレギューションを調整するのを忘れておったな。まあお遊びの大会じゃしな。』
『ふふふ、あのコートは反則過ぎるな。ドラゴン並みではないのか?』
すかさずアレクの反撃が始まる。空中にいるお姉さんを下から狙い撃ちだ。
しかし当たらない。あれってもしかして?
『生きていたアレクサンドリーネ選手の猛攻が再びアンリエット選手を襲いますが! 全く当たらなーい! こちらからは当たっているように見えますが!?』
『当たっておらん。我が孫ながら見事じゃ。まだまだ甘いが、それなりにできておる。』
『あれは一体? 避けているようには見えないが?』
魔力感誘か……母上ができるのだからゼマティス家の人々もできるってことか。
『まさかこれを使わされるとは思わなかったわ。さすがね、アレックスちゃん。』
『お姉様こそ……魔力感誘ですか……お見それしました……』
『あら、知ってたの? さてはエリザベスね? あの子も使えるようになってるってことね。』
そしてアレクの攻撃が止むと同時にお姉さんの攻撃が降りかかる。アレクはサウザンドミヅチのコートを駆使して防ぐ。これは……千日手になるのか? どちらにも攻撃が当たらないのだから。
『アレックスちゃん。少し装備に頼り過ぎじゃないかしら? そんなことじゃあだめよ?』
『吹き荒れる暴風』
武舞台上を暴風が吹き荒れる。コートが捲れるかと思えば、コートごと吹き飛ばされる。そのまま濁流に流される木の葉のように錐揉み状態で場外に一直線。アレクは必死に短剣を武舞台に突き立てて耐えるが、握力が足りない。そのまま場外負けとなってしまった。
しかしお姉さんとしても予想以上に苦戦したのではないだろうか。これが二回戦以降にどう影響するのか。結局ほぼシード選手が勝ってしまった。予選の意味ないじゃん!
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