夜、我が家でコーちゃんのお披露目だ。キアラは怖い怖いと言うくせに、コーちゃんのチロチロ動く舌と尻尾が気になって仕方ないらしい。お前は猫か。
「カース坊ちゃん。古来より精霊とは、家内安全、子孫繁栄の象徴とされております。それだけに諸手を挙げて迎え入れることが肝要です。コーちゃんのご意思をしっかりとご確認なされてください。」
マリーは慎重と言うかピリピリしてると言うか。心配してくれるのはありがたいけどね。
「なるほど、分かったよ。よしコーちゃん。何が食べたい?」
頭をふりふりするコーちゃん。おお、これはすごい! 何となく伝わってくるぞ!
「みんなと同じがいいんだって。でも昼に食べた肉は美味しかったみたい。」
「じゃあ今夜は普段通りの夕食にしましょうか。オディロンの分をコーちゃんに食べてもらいましょうね。」
ではコーちゃんの分に魔力放出。うまくできているのだろうか。
ぱくぱくと食べるではないか。おおー、美味しいのか。料理も私の魔力も美味しいのか。嬉しい!
楽しい夕食を終えたらお風呂だ。
コーちゃんお風呂はどうする?
ふむふむ、お湯は嫌なのか。ならタライに水を汲めばいいかな。一緒に入ろうか。
ああっ、キアラが私とお風呂に入りたいけどコーちゃんが怖くて入れないって顔してる!
ど、どうしようどうしよう!?
かわいいキアラにかわいいコーちゃん!
どちらも選べない!
「キアラ、コーちゃんの顔をよく見てごらん? 特にお目目を。」
キアラは怯えながらも顔をこちらに向ける。
「そうだ。キアラはえらいなぁ。どうだい? キアラと同じでコーちゃんもかわいいと思わないか?」
「わたしとおなじ?」
「そうだよ。キアラは我が家のお姫様だからかわいい。だからコーちゃんもかわいいと思うよ。どうかな?」
我ながら無茶な理論だけどね。
「コーちゃんかわいい。」
「そう思うだろ? キアラもコーちゃんもかわいいんだよ。じゃあキアラがこれに魔力を込めて、コーちゃんにあげてごらん?」
そう言ってキアラにシーオークの肉を一欠片ほど渡す。キアラはおずおずと受け取り拙い手つきで魔力を込める。
そして恐る恐るコーちゃんに差し出した。コーちゃんは一瞬私を見てから、ゆっくりキアラに近寄って行く。
キアラも一瞬ビクッとして後退りしようとするが母上に背中を押されて勇気を出したようだ。手を引っ込めずそのままコーちゃんに食べさせた。ううっ、感動的なシーンだ。
かわいい×かわいい=絶対可憐だ。だから負けない。
「よし、感動したところでお風呂に入ろうか。キアラも来るか?」
「うんいく!」
この後めちゃくちゃ洗ってやった。
コーちゃんが我が家に来た翌日。アレクにも見せてあげたくて、呼びに行った。
いきなり連れて行くと道中や他の人達を驚かせてしまいそうなので、我が家に呼ぶのだ。
「と言うわけで面白い家族ができたから見に来ない? よかったらたまには弟君も。」
「楽しみね。一体何かしら。アルベリックも呼んでみるわ。」
果たして弟君は来てくれるかな? あの生意気具合がかわいいんだよな。あれでも同級生とは仲が良かったりするのかな。するんだろうな。
「お待たせ。アルベリックも行くって。」
「姉上が言うから行くだけだからな!」
ふふふ、かわいいやつめ。
確かキアラはセルジュ君やスティード君の妹さんとはよく遊んでいるが、弟君ほど年上の友達はいなかったはず。
アレクサンドル家の馬車が我が家の門をくぐると、早速コーちゃんが横から窓にへばりついてきた。この馬車はそんじょそこらの馬車と違い窓が透明なガラスなのだ。だからコーちゃんがはっきり見える。
「きゃぅ!」
「うわぁ!」
二人とも驚いている。
「あれが新しい家族だよ。フォーチュンスネイクのコーネリアス。コーちゃんと呼んであげてね。」
「訳が分からないわ……何でフォーチュンスネイクがいるのよ……」
「フォーチュンスネイク?」
二人を馬車から降ろし間近で見せる。
「うわぁかわいいのね。きれいな目をしてるわ。ウキャウキャ言ってる。」
意外と鳴き声のバリエーションが豊富らしい。
あ、母上とキアラも出てきた。
「朝からカースがごめんなさいね。この子ったら昨日から張り切っちゃって。」
「おはようございます。お招きにあずかり恐縮です。本日は弟も連れて参りました。」
「お初にお目にかかります。アルベリック・ド・アレクサンドルでございます。噂に名高い聖なる魔女様にお会いできて光栄です。」
さすがの上級貴族。七歳で素晴らしい挨拶だ。
「ようこそ我が家へ。アルベリック君の魔法の腕前は聞いているわよ。ぜひうちのキアラにも教えてあげて欲しいわ。」
「キアラです。四歳です。好きなものはゆうしゃとカー兄です。」
おっ、キアラも立派な自己紹介だ。えらいぞ。弟君が勇者って言葉に反応したな? 男の子なら当然だ。
私達は自然と二手に分かれた。
私とアレクはコーちゃんと遊び、キアラと弟君は母上と遊んでいる。水の魔法が飛び交っているぞ?
「で、どこで捕まえたのよ?」
「いやー捕まえたってより懐いたってとこかな。ヘルデザ砂漠でね。あんまり可愛かったものだから餌をあげたら付いてくるんだよ。それでついつい連れて帰ってしまったと。」
「カースらしいわね。でもこんなにも可愛いんだし無理もないわ。『精霊あるところ没落なし』って言うらしいわよ。」
「へー、それはいいね。うちのマリーもそんなことを言ってたよ。やっぱりアレクも知ってるんだね。魔物じゃなくて精霊なんだってね。」
「当たり前じゃない。王都の貴族が聞いたら喜んで奪いに来るわよ?」
「奪おうと思って奪えるものなの?」
「普通は無理ね。私には思い付かないわ。でもあいつらって予想もつかないエゲツないことも平気でやるらしいわよ。油断しないでね。」
これもファンタジーあるあるだな。主人公がひょんなことから強力な召喚獣とかを手に入れて、それを狙って一大スペクタクルが巻き起こるアレだ。
これはこれで大儲けできそうな匂いがする。しかし可愛いコーちゃんをそんな金儲けの道具にしたくない。困ったな。
ちなみにコーちゃんの塒は銀湯船に決まった。あれこれ質問した結果、屋内より外、屋根のない所がいいらしい。結果として銀湯船をそのまま塒にしたいようだ。私の魔力がたっぷり込められている銀湯船を殊の外気に入ったらしい。そして屋根は邪魔らしい。風と太陽を感じたいそうなのだ。ただしお湯は嫌いらしい。私用に別に湯船を作るかどうしようか悩むところだ。もう汚銀はないのだから。
ちなみに我が家の馬、シルビィはコーちゃんを相当に恐れている。馬と蛇だから仕方ないのかも知れないが。
だから銀湯船は我が家の南西に配置してある。馬屋は北東なのだ。
昼食後、いつの間にか全員集合していた。
サンドラちゃん。
スティード君と妹二人。
セルジュ君と妹一人。
そんな大人数で狼ごっこをやったりゴブ抜きをしたりした。我が家の庭では狭すぎる。しかし楽しすぎる。サンドラちゃんも弟達を連れて来ればよかったのに。
そこにコーちゃんも紛れて大活躍をした。まるでルールが分かっているかのように動くのだ。
こんな頭が良いコーちゃんも可愛いなぁ。
七月最後の休日はこうして終わった。
来週末から八月に突入、いよいよ夏休みが目前だ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!