いやー昨日は飲んだ飲んだ。私は適当に切り上げて帰ったけど、他の奴らはいつまで飲んでたのやら。
現在朝の九時ぐらいか。昨日の勘定を払う必要があるのでギルドへ向かっているところだ。果たしていくらになっているのやら。
「毎度ー。金貨九十三枚ね」
あら、意外に安いな。
「今朝までのだけどね。まだ飲んでる人がいるからまた請求するよ?」
何?
「では昼前で切ってください。それ以降は自腹で。」
いつまで飲んでんだよ。ダメ人間どもめ。どれどれ何人いるかな……え!?
「父上! 何やってんの!?」
「おおカース。お前の奢りらしいな。親孝行な息子を持って幸せだぞ。」
父上と一緒にいるのは冒険者ではない。無尽流の弟子達だ。まあほとんどが酔い潰れており、起きている人だって意識はほぼ飛んでいる。よし、せっかくだ。私も父上と飲むとしよう。
「父上は今日休みなの?」
「おお、夕方まで暇だぞ。」
それは休みとは言わん。
「じゃあ昼まで飲もうよ。昼になったら帰って休んでね。」
「おおーお前も飲むか! よし飲め飲め!」
「じゃあ父上の健康を祈って、乾杯!」
「おお! イザベルの美貌に乾杯だ!」
さすが父上。いつでも母上ファーストか。
「そういえば気になってたんだけどさ。父上の実家とか両親ってどうなってるの?」
「あー? お前酒がまずくなる話するなよー。俺の生まれは王都からだいぶ北東だな。王都とアリョマリー公爵領の間ぐらいか。」
ぬっ、まさか触れられたくない過去なのか?
「あそこは鉱山都市でよー。街の中心部以外は治安が超悪くてよー。俺ぁいつも腹を空かしていたっけな。」
「それは意外だね。それがどうしてここまで成り上がったの?」
「あー、きっかけは兄貴との出会いだな。当時の俺はよー。街の悪ガキ達を集めてガキ大将気取ってたんだわ。まだ十歳ぐらいだったか。そしたらいかにも金持ってそうな身なりのいいガキがいたわけよ。俺らは十五人はいたからな。囲んで身包み剥いじまおうとしたわけよ? それがよ? あっさり全員やられちまいやんの!」
さすがはフェルナンド先生。若い頃からやり手だったんだな。
「そしてそのガキは言うわけよ。ここは王都か? ってな。バカ言うなって話だよな。」
さすがはフェルナンド先生。若い頃から天然だったのか。
「当然俺は違うって言うさ。そしたらよ? 兄貴の奴、案内しろときたもんだ。ふざけんなって話だよなー? 王都まで何キロルあると思ってんだよ! だから言ってやったのさ!」
「うんうん、何て?」
「王都なんて俺に案内させりゃあ近いもんだ! ただし案内料として金貨一枚もらうぜ? ってな!」
「おおー! ふっかけたね!」
「そしたらよ! 兄貴の奴、前金でいいな? なんて言いやがってよ! ポイッと俺に金貨一枚渡しやがったのよ! あいつバカだぜ!」
「た、確かに……」
フェルナンド先生らしい……のか?
「それを見た他の奴らも群がってきてな。みんなして兄貴兄貴、俺も俺もってなるわけよ。結局金貨を貰ったのは俺だけだったけど、そいつらも王都までくっついて来やがってな。」
「先生は王都に何しに行ったの?」
「あー、冒険者ギルドへ登録だ。ただそれはついででな。本命は無尽流への入門だったわ。」
「つまり、先生と父上、そしてアッカーマン先生が出会ったわけなんだね?」
「あー。ギルドで登録を終えた兄貴と俺達はその足で無尽流の本部道場を探してよ。王都は広いから大変だったぜ。」
「おお! そしてついに?」
「おうよ。兄貴の奴、ジジイの顔を見た瞬間剣を抜いて斬りかかってよ? ついでに俺らまでジジイにのされちまったってわけよ。」
途中を端折りすぎだ。全く父上ったら。
「それからみんな仲良く無尽流に弟子入りしたってわけよ。そんなジジイがまさかなぁ……」
うっ、しまった。地雷だったか……
「あんな若い女を妻に迎えるとはなぁ……」
あ、そっちね。
「アッカーマン先生とハルさんの出会いってどんな感じだったの?」
「そんなの知るかよー。俺ぁその頃にはクタナツに居たんだからよー。つーか最近じゃねーか。レイモンドあたりが知ってそうだな。ダイナストとかも。」
そりゃそうか。無尽流の後継者レイモンド先生。一人息子のダイナスト先生。いずれアッカーマン先生の死を伝えに行かねばなるまいな……
「じゃあさじゃあさ、母上との出会いはどうだったの? 聞かせてよ!」
「へっへっへー。それを聞きたいかよカースぅー。イザベルは当時でもよー、王都の華って呼ばれてたんだぜー? あのゼマティス家だぜ? しかも二女なのによ? わずか十歳ぐらいで王都で敵なしになったんだぜ?」
「うんうん! どうしてそうなったの!?」
「へっへー。王国一武闘会があるだろ? カースも優勝したよな? イザベルもあれで優勝したんだよ。十歳の時に!」
「おおおーー! さすが母上! やるねー!」
「そう思うだろ? しかしまだ甘いぜ? イザベルが優勝したのは魔法あり部門、十五歳以下の部と一般の部、両方でだ。しかも圧勝!」
「うっそ! マジで!? 母上すごい! マジ!?」
「とんでもないよなー。俺がイザベルを知ったのもそれが最初だったんだからよ…………」
そうか……子供だって一般の部にエントリーしてもよかったのか。私も出ればよかったな。それにしても母上はすごいな。それも気になったが二女って言ってたな。つまりお姉さんがいるのか。また今度聞かせてもらおうかな。父上は寝てしまったし。
「おねーさーん。帰るわ。また後で来るから計算しておいて。現時点以降は飲んだ奴の自腹ね。」
「はいよー。毎度ー」
父上を連れて帰ろう。たまには親子で飲むのも楽しいものだ。ならば次はオディ兄と飲むのもいいな。楽しみだ。
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