午後からの対戦はあんまり儲からなかった。参加者はたった十人。領都やサヌミチアニ、ホユミチカの子供達が中心だった。いくら私でも初等学校の子供達が相手なら手加減ぐらいする。怪我をしないように風球で吹き飛ばし、地面に叩きつけられないように水壁で受け止めた。
そして今、最後の一人である領都の魔法部門代表シュレット君との対戦が終わった。
「ありがとうございました! いい経験になりました!」
「うん。それはよかった。君もがんばってね。」
彼は貴族で私は平民。しかしここはクタナツなので気にしない。
「あの……それから……」
「何かな?」
「王都で……ソルダーヌお嬢様をお助けいただきありがとうございます! そして、父の仇も……」
泣き出してしまった……
「ど、どうしんだい? ソルダーヌちゃん? お父さんがどうかしたのかい!?」
「うぐっ、ぐすっ、父上、父は辺境伯家の王都留守居役だったのです……それが狂信者どもの手によって……」
思い出した……
ナタなんとか・ド・シュレット。ひょろ長いおじさんだったな。確かあの時、夜中に教団幹部が空中から大岩をいくつも落として上屋敷を潰したんだった。その時に……
ソルダーヌちゃんもあれで死にかけたよな。あの時は大変だったなぁ……
「そうだったんだね。そんな君も今や領都代表に選ばれるほどにまで成長したんだ。特に魔法受撃の時の根性はすごかった。きっとお父さんも喜ばれているさ。」
「はい……ありがとうございます……魔王様の暖かいお言葉、生涯忘れません!」
そこまでのことは言ってないぞ……それにしても魔王様って言われるとますます本物っぽいな……
よし、用事も終わったことだし私も催し物を楽しんでみるかな。どの先生にしようか……よし、決めた。
「デル先生、お久しぶりです。」
体育教師のヴァレリー・デルボネル先生だ。短く刈り込んだ赤い髪が軍人にも見える好青年、だったのが少し歳をとったかな。
「やあマーティン君。元気そうだね。君の頭に水球を落とした日が懐かしいよ。何か習いたいのかい? それとも対戦かな?」
「ええ、ちょいと棍術を教えてもらえませんか?」
イグドラシル製の棍を発注しているからな。少しは使えるようになっておかないと。
「棍術だって? 変わったことを言うね。自分用のは持ってるかい?」
「いえ、まだないんです。」
「そうかい。じゃあこれを使ってくれるかい。では、まず最初は棍を回してみよう。こんなふうに。」
棍を体の前でクルクルと回す。手の持ち替えが意外と難しいな。
「そうそう。いいよいいよー。ではそのまま体の上で回してね。」
いきなり難しい……デル先生のようにきれいに回らない。
「はい次は右ね。」
体の右側で同じように回すのか。これはそこそこいけるな……
「はい左、そして最後に後ろね。」
くっ……左はどうにかできたが後ろは無理だ。
「どう? なかなか難しいよね。結局剣も棍も一緒なんだよ。自分の体の延長として使いこなすことができるかどうか。それが大事なんだよ。マーティン君が自前の棍を手に入れたら魔力を流しながらやればさらに効果的だろうね。」
「押忍!」
「というわけで今日はここまで。銀貨一枚になりまーす。毎度。」
「押忍! ありがとうございました!」
ちょっと短いけどイベントだもんな。私の後もつかえてるし。
よし、次は……校長のコーナーに行ってみるか。
「校長先生こんにちは。この間は情報をありがとうございました。」
「おおマーティン君こんにちは。ドノバンから聞きました。ついに毒針にトドメを刺したそうですね。あのしぶとい闇ギルドをよくも……素晴らしい功績だと思います。」
「ありがとうございます。それでですね。実は棍を使ってみようと思っておりまして、校長先生からも何か教えていただけないかと。」
「おお、なんと棍ですか。棍は万能の武器ですからね。極めれば面白いことになるでしょう。魔境で通用するかは別ですが。」
「ええ。愛用の木刀を失ったものですから、新しい武器に挑戦してみようと思いまして。
「なるほど。それなら私がよく使う技をお教えしましょう。槍でも棍でも、何なら素手でも使える便利な技です。まずはお手本ですね。マーティン君、そこに氷壁を用意していただけますか?」
「押忍!」
『氷壁』
「もう少し厚く、そして魔力を込めて丈夫にお願いします。」
「押忍!」
二メイルの立方体だ。ノワールフォレストの森やムリーマ山脈でアレクと休憩する時ぐらい魔力を込めてある。つまり、魔境では無敵の氷壁だ。今のところ……
『螺旋貫』
なっ……?
槍ではない。校長は木製の棍で私の氷壁に穴を穿った……だいたい半径二センチに満たないサイズの穴を……
「はい。このようにですね、私の螺旋貫はそこらの棍でも防御を貫通できる便利な技なんですよ。では説明いたします。」
「押忍!」
「簡単に言いますと、全力で突く。ただそれだけです。」
「押忍……」
無茶言うなよ……
「では何をもって全力と言うのか。それはですね。全身の力、そして魔力です。マーティン君も無尽流ですから剣には足腰が大事なことはご存知ですね。足の踏み込みから始まる体重移動、腰の回転、肩の動き、手首の捻り。それに伴う魔力の循環。それらを連動させ、命中の瞬間に全ての力を集約させること。これこそが螺旋貫の要諦です。分かりましたか?」
「お、押忍……」
そ、そりゃ理屈は分かるよ? 分かるけど……
「本来ならばこれは棍に魔力を馴染ませてからの話です。自分の手足同然に武器にも魔力を流せるようにならないことには武器の意味がありませんからね。ですから今日のところは型の稽古といたしましょう。」
「押忍!」
それから三十分。校長にマンツーマンで指導をしてもらい、なんとなくフォームは分かってきた。これ絶対ただの便利技じゃなくて必殺技だよな。
「はい。ではここまでですね。しっかり型の稽古をしておいてくださいね。それでは金貨一枚いただきます。続きが気になる際は学校へどうぞ。」
「押忍! ありがとうございました!」
いつもニコニコ現金払いだ。三十分で金貨一枚、つまり十万イェン。さすが校長、中々の値段設定だよな。まあ一試合で金貨一枚の私が言うことでもないが。
よし、最後は出店巡りだな。
コーちゃん、カムイ。待たせたね。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
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