同日夕方、スパラッシュさんが訪ねてきた。
「坊ちゃん、先日はありがとうごぜぇやした。お陰様で命拾いしやしたぜ。」
おお、さすがに気付いてたのか。スパラッシュさんやるな。
「いやいや、スパラッシュさんなら問題ないだろうとは思ったんだけどね。数が多かったから念のためね。」
「助かりやした。あいつらを見捨てて逃げようと考えていた矢先だったんでさぁ。」
「意外だね。スパラッシュさんでもそんなことがあるんだね。」
「いやー、あいつらと来たらひでぇんでさぁ。強くなることしか考えてやがらねぇんで。冒険者のマナーを守りゃしねぇ。一人だけまだマシな奴もいやしたが。」
「あの人達って何等星? どんなマナー違反をしてるの?」
「あれで八等星でさぁ。獲物は獲りっぱなし、埋めやしねぇんで。魔石の取り出しも汚いんでさぁ。下手くそな解体しやがるもんで余計な魔物が寄って来るってわけで。少し土を被せておけば違うものをそれすらしやがらねぇ。全く最近の若ぇもんは。
そこいくと坊ちゃんはあれだけの魔物をきっちりと処理なすって! ご立派ですぜ!」
「あはは、面倒だったよ。やっぱ放っておいたらアンデッドになっちゃうかな?」
「それもですが、他の魔物が食っちまって成長されるのが厄介なんでさぁ。例えばゴブリンが他のゴブリンを百匹食うと上級ゴブリンになるって話がありまさぁ。」
「へぇー。じゃあもしゴブリンがオークやオーガなんか食べたらすごいことになるのかな?」
「そんなの聞いたことはねぇですが、あり得る話ですぜ。」
やはりスパラッシュさんは物知りだな。とても参考になる。しかもお礼を言うためにわざわざ来てくれるなんていい人だ。とてもいい人だ。
「さあさあ夕食の時間ですよ。スパラッシュさんも食べて行ってくださいな。」
「こりゃ奥様、一言お礼申し上げたら帰るつもりが長居しちまいやして。」
「うふふ、今夜はすごいわよ。よかったわね。」
先日に引き続き魚料理だ。しかもウンタン、サカエニナ、ホウアワビもある。
醤油とワサビが欲しくてたまらない。
ちなみにキアラは魚は食べるがウニなどは嫌がって食べない。
「こいつぁすげぇ。一体どうしたこってすか!?」
「カースがね、海まで行って買ってきてくれたのよ。私も久しぶりに魚を食べられてご機嫌なの。」
「海ですかい!? 坊ちゃんはどうやっ、いや聞いても仕方ないでさぁね。ありがたくいただきまさぁ。」
マリーの料理はやはり絶品だった。
私も母上もスパラッシュさんも大満足だった。
ちなみにスパラッシュさんからはお土産にオウエスト山の果実を貰った。話に花が咲いていたので出し忘れていたらしい。
スパラッシュさんはそれを絞ってジュースにもしてくれた。
そこまで甘くはないがどこか郷愁を感じる味わいだった。たぶんアケビに近い味のせいなのだろうか。
さて、汚銀だが困ったことが起こった。
満タンにするまで四日ほどかかったのだが、それはよい。
問題は……
魔力庫に収納できないのだ……
私の魔力四人分が込められているからなのか……
そりゃ魔力ポーション要らずとはいかないわな。そうなると銀ボードにはあまり魔力を込め過ぎないようにしておかねば。
となると銀湯船の方はしばらく庭に置きっぱなしだな。それでも空中露天風呂に使う分には問題ないはずだ。
明日で春休みも終わり、明後日からまた学校か。充実した休みだったな。
明日はみんなで遊ぶ予定だが、何をしよう。
そして春休み最後の日、私達は南の城門付近に集合していた。セルジュ君の発案で城門外で狼ごっこをすることになった。少し危険はあるが広く悠々と遊ぶのが今日のコンセプトだ。
全員にタッチするのではなく、最初にタッチされた者が狼役を交代する現代日本の鬼ごっこと同じルールとなった。
クタナツの城門外、南西部なのでゴブリンやコボルトが現れることもなく、城門を出入りする冒険者や商人もこちらを気にすることもなかった。
時々冒険者が近くを通ることもあったが……
「子供だけで大丈夫か?」
「俺らは仕事してんのにいい気なもんだぜ」
「楽しそうだなぁ」
などと言いたそうな顔をしていた気がする。
そろそろお昼だ。
弁当はいつも通り持ち寄っている。セルジュ君は机と椅子を用意してくれていた。さすが気が利くね。
私も負けじと『闇雲』を使い日差しを防ぐ。
春なのでそこまで暑くはないのだが、眩しかったりするからだ。
お腹いっぱいな上にポカポカ陽気。
眠くなってきた。みんなも眠そうだ。
「お昼寝しようよ。ここならゴブリンも来ないだろうし。」
「そうね。はしたないけど今日ぐらいいいわよね。」
サンドラちゃんも眠そうだもんな。
一応『自動防御』を広めに張っておく。
外で雑魚寝なんて平民ですらやらない暴挙だが、これもある種の贅沢に違いない。
みんなコロンと寝てしまった。貴族らしくないなぁ。むにゃむにゃ……
最初に目が覚めたのは私か……
一時間ほど眠るつもりが、おそらく三時は過ぎている。寝すぎたな。春の陽気って恐ろしい。
みんなを起こすのも悪い気がしたのでこのまま待ちだ。
おっ、次に起きたのはサンドラちゃんか。
「思いの外よく寝たわね。カース君はいつ起きたの?」
「ほんの五分前かな。よく寝てしまったよね。国語の授業でやった『春暁』みたいなもんだよね。昼だけど。」
「うふふ、そうね。南側だけど子供だけで、しかも魔境で眠りこけるなんてね。」
案外ゴブリンぐらい来たのかも知れないが、寝てても自動で防御してくれるのはありがたい。
私とサンドラちゃんの話し声でみんな起きたようだ。
ちなみにアレクは私の腹を枕にしていた。油断ならない。
こうなってはみんな今から動く気にもなれなかったようで、いつも通りタエ・アンティへお茶をしに行くことになった。
寝起きで喉が渇いていたことも関係しているだろう。
今日で春休みも終わりか、私達もついに五年生か。五人で遊べるのも後一年、どんな一年になるのだろうか……
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