父上は退役する予定を撤回した。キアラが卒業するまではクタナツに住むことにしたようだ。
オディ兄とマリーは二人でクタナツの南西部、つまり三区に新居を構えている。でも実家に月に一度は顔を出してくれる。子供はまだできてないようだ。
マリーがいなくなったので、代わりをどうするか考えていたらしいが、いないならいないでいいってことになったようでメイドはいない。代わりなのか分からないが、なぜかベレンガリアさんがうちによく顔を出すようになった。勝手知ったるとばかりに料理を作っていたりする。
さてキアラだが、実は困ったことになっている。
放校ギリギリの問題児になってしまっているのだ。どうしたことかと言うと……
・授業中の私語が止まらない。先生による頭水球もしっかり防御してしまい無意味。
・そもそも魔力で教師を超えているため言うことを聞こうとしない。
・魔法の授業でも教師が見本を見せたものは全て習得してしまい、その上威力も三倍ぐらいあるため授業にならない。
・体育の授業でも魔法でカバーしようとするのでやはり授業にならない。
・教師の言うことに従わないのなら学校に来る意味がないので来なくていい。
どうしてこうなった……
「キアラー、学校はどうだい?」
「面白いよー。でもみんな何で勉強しないのー?」
「勉強しない? どういうこと?」
「だってみんな先生の言うことを聞くだけなんだよー。分かってるってことを先生に言わないんだよー。」
「なるほど。じゃあキアラは先生の言うことは分かってるんだな? えらいぞ。じゃあ先生からダメって言われたらしないな?」
「……ううん……よく分からない……走るのも魔法で移動するのも同じだと思うのにー、先生は走れって言うのー。」
もしかしてこの子は天才なのか? それとも前世でのクソガキと同じなのか? いや、きっと天才なんだ。
「なるほど。キアラの魔法はすごいもんな。ところでキアラは母上やマリーみたいに綺麗に美しくなりたくない?」
「なりたいー! 早く大きくなりたいよー!」
「だよな。キアラはきっと美人なお姫様になれるよ。そのためには何をしたらいいか分かるかな?」
「……分からなーい……」
「簡単だよ。学校の先生や母上の言うことを聞いてればいいんだよ。なぜなら母上もそうやって綺麗になったんだから。」
「そうなのー?」
「キアラが美人になる方法を知らないなら、それがオススメだよ。そうやって母上の真似をしてたらキアラも綺麗になれるさ。」
「うん! なりたーい!」
「じゃあ母上や先生の言うことをよく聞くといいよ。キアラは天才お姫様だからきっと美人になるよ。お兄ちゃんは楽しみだよ!」
さて、こんなもんで上手くいくのだろうか。もしかしたらキアラの天才の芽を摘んでしまっただけだったりするのだろうか。
母上によるとキアラの魔力は二年生だった時の私以上らしい。
やばいな……私はあれだけ頑張ってきたってのに……
本物の天才は別格なのか……
いや、負けてたまるか!
「母上ー! 循環阻止の首輪よりすごいのはないの?」
「まったくカースは……あるにはあるけど……『拘束隷属の首輪』しかないわ。魔力の高い犯罪者ぐらいにしか使わない超強力な魔道具ね。」
「手に入る? キアラに負けるわけにはいかないからさ。」
「仕方ないわね。何とかしてあげるわ。でもね、カース? 魔力を上げるのもいいけど、魔法の腕を上げるには他の方法もあるんじゃないかしら?」
はっ!
確かに!
私は困ったらいつも魔力のごり押しで解決していたのかも知れない……
もっと合理的な、スマートな方法があったりするのでは?
「そうかも知れないね。考えてみるよ。で、その首輪はいくらかかりそう?」
「うーん、金貨百枚ぐらいかしら。また言うわ。作る時にカースも来なさい。いい勉強になると思うわよ。」
「分かった。いつもありがとうね!」
絶対キアラに負けてなるものか! 魔力のごり押しだろうと構うものか!
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