メイドさんに連れられて王宮内を歩く。フランツの自室からさほど離れていないようだ。十分とかからず到着した。ここは国王の執務室かな?
「失礼いたします。カース・マーティン様をお連れいたしました」
内側からドアが開き、私は中へと立ち入った。そこには当然のように国王と、見覚えのある側近さんがいた。
「カース、よく来てくれた。元気そうだな。まあ座れ。」
「はい、失礼します。」
気のせいか……少し見ないうちに国王の奴、老けたんじゃないか? 前回会った時は五十代後半って見た目だったが、今は六十代前半に見える。微妙な差だが何となくそう思ってしまった。
「別段用があったわけではないのだがな。せっかくお前が王都に来てくれたのだ。余に顔ぐらい見せてくれてもよかろう?」
「ええ。陛下に拝謁できた喜びに打ち震えております。」
「ふあっはっは! 心にもないことを言うではないか! お前も成長したものよのぉ!」
このオッさんは嫌いじゃないからな。これぐらいのリップサービスはするさ。
「そうそう、こちらスペチアーレ男爵からです。ぜひ陛下にお飲みいただきたいそうです。」
本当は私が貰った物だが、半分ぐらい分けてやってもいいだろう。
「ほう? ダンと好を得たか。抜け目のない奴よ。どれ……」
国王の奴、いきなり飲みやがった。毒見もなしに。仕事はいいのか?
「うむ。絶品だ。さすがはダンよの。センクウの酒も旨いがこれは別格だ。」
「ピュイピュイ!」
コーちゃんが自分にも飲ませろと言っている。
「そなたも飲むのか? ならば近う寄れ。」
「ピュイピュイ」
私だって飲みたいぞ。コーちゃんは国王の首に巻きついて、国王のグラスから酒を飲んでいる。無礼者って言われそうだが側近はスルーか。あ、そうだ。せっかく王都に来たんだしグラスを買おう。アレクとペアグラスだ。
「ふむ、つまみが欲しいな。アレを持て。」
アレとは? 国王の指示により側近さんが動く。私やコーちゃんが酒を飲む時っていつも焼いた肉ばっかりなんだよな。国王のつまみとはどのようなものだろうか。気になるな。
二分後、側近さんが戻ってきた。
「カース殿もどうぞ」
「いただきます。」
「ピュイピュイ!」
おお、チーズだ。それも酒場でたまに出てくる安っぽいやつではない。スモーキーで味が濃い! これは旨い!
「うむ、旨い。ダンの酒によく合う。カースよ、どうだ?」
「美味しいです。初めて食べる味です。普通のチーズと何が違うんですか?」
「これはゾルゲニアチーズと言ってな、聖地バラモロードにて放牧されているゾルゲンバーバリシープの乳から作っている。それを数年熟成させた後、燻して完成というわけだ。名人の業なくしては生まれぬ珠玉の味よ。」
それはすごい。いいものを食べてしまった。コーちゃんも大満足だ。それにしてもやっぱ国王は良い物食べてんだなあ。聖地バラモロードか……たしか勇者ムラサキが育った寒村だったかな。ますます行ってみたくなった。
「そういえばカースよ。お前に授けた数々の許可証、それから身分証だがな。余の退位に伴い効力を失ってしまう。三月以降にクレナウッドが再発行する故、取りに来るがいい。」
「お気遣いありがとうございます。喜んで参ります。」
すっかり忘れてた。国王が死ぬまで有効とは聞いていたが、退位した場合のことは知らなかったもんな。
酒もなくなり、コーちゃんも国王から離れた。そろそろお暇しようかね。こちらから言い出すわけにはいかないが。
「カースよ。本日は大儀であった。また見えん日を楽しみにしているぞ。次はアレクサンドリーネも連れて参るがいい。」
「はい、陛下もどうかご壮健で。それでは失礼いたします。」
さすが国王。空気の読めるレベルが半端じゃないな。さてと、魔法学院に戻ろうかな。さっきの続きを楽しむとしよう。
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