風呂から上がった私は昼食を食べてから出かけた。特に用はないのだが、領都を散策している。ちなみにコーちゃんはいない。家でのんびりしたいそうだ。
今週は楽園にも行かずこのまま領都に滞在することにしようかと思っているところだ。あっちはあっちでやることがたくさんあるのだが。
適当に歩いていたら貴族学校に到着したではないか。魔法学校、騎士学校、貴族学校、中等学校。領都には色んな学校があるが、ここには入ったことがない。ちょっと行ってみようかなー。図書室とかあるはずだし、たまには本を読むのもいいだろう。
では、レッツ受付。
国王直属の身分証を見せたら一発オッケーだった。最高。しかも図書室までの案内付き。これって身分証のおかげなのか魔王の名前のせいなのか、どっちだ?
「こちらです。貸し出しはできませんので、ご注意下さい」
「ありがとうございます。帰りに一声かけますね。」
おおー、さすがに本だらけだ。何から読むか迷うな。勇者関連は何かないか?
『ローランド王国史』
うーん、確かに勇者関連だな。せっかくだ、読んでみるか。
ほうほう、年表とエピソードがセットになっているのね。
『魔王を討伐し大陸を統一した勇者ムラサキ・イチローは大陸南西部に領地を持つチューダー王家のメアリベル姫と結婚。国号をローランド王国と定め、その年を王国暦元年と制定した。なお、旧チューダー王国領はそのまま現在の王家直轄領となっている。また、勇者を育てた老夫婦オジーボーン・ローランドとオーバリア・ローランドが暮らしていた寒村は現在に至るまで聖地として語り継がれている。
王国暦三年、待望の第一王子ロドリック誕生。勇者王ムラサキに似て黒髪黒目の凛々しい男の子であった。
王国暦五年、第一王女ユリア誕生。王妃メアリベルに似て金髪赤目の見目麗しい女の子であった。
王国暦十年、オジーボーン・ローランド没。
王国暦十一年、オーバリア・ローランド没。夫の後を追うように亡くなった。
王国暦十二年、第二王子誕生。勇者王ムラサキはこの王子に養父オジーボーンの名を付けた。
王国暦十六年、第二王女誕生。勇者王ムラサキはこの王女に養母オーバリアの名を付けた。
王国暦二十年、第一王子ロドリックが王太子として擁立された。また同年、旧ヘンドリック王家の忘れ形見ノエルと結婚。
王国暦二十二年、王太子ロドリックに第一王子サイファル誕生。
王国暦三十二年、勇者王ムラサキは王位交代を発表。ダイヤモンドクリーク帝国時代から戦乱の時代に至るまで、国王が存命の間に退位することは非常に稀であった。臣下にも臣民にも愛された勇者王ムラサキであったため惜しむ声は非常に多かった。
王国暦三十三年、二代目国王ロドリック・ムラサキ・ローランドが即位。勇者を父に持ちその重圧は並みではなかったことだろう。それでも堅実な政策で国をまとめた。なお、同年サイファルは王太子となった。
王国暦四十二年、王太后メアリベル没。亡骸は旧チューダー王家の墓所ではなく、ローランド夫妻が眠る寒村への埋葬を希望した。生涯側室を持たなかった勇者王ムラサキの唯一の伴侶であった。
また、国葬には勇者王ムラサキの仲間達も参列した。勇者王とはオーバリア・ローランドの葬儀以来の再会となった。
王国暦四十四年、王太子サイファルが七色の魔法使いイタヤ・バーバレイの孫娘タスクレアと結婚。出会いは王太后メアリベルの国葬だったと言われている。
王国暦四十六年、勇者王ムラサキ・イチロー・ローランド没。死の間際まで女性のような黒く艶やかな長い髪は健在だった。また、最期まで国王ではなく勇者王と呼ばれ、諡名は統一勇王であった。
王国暦四十七年、勇者王の仲間である七色の魔法使いイタヤ・バーバレイ、絶声の魔導士ロッド・ナスティ没。
王国暦四十八年、勇者王の仲間である赤髪の天女セプト・リブレ、獄炎士キョウバ・クライスラが相次いで没した。これによって魔王を討伐し大陸に平和を齎した英雄は一人もいなくなった。
しかし、今日に至るまでローランド王国は続いている。勇者がいなくても、強大な魔力を持った仲間がいなくても、我々は戦うことができるのだ。勇者王の御恩を忘れず、奉公の精神を持ち続けることこそが我々の繁栄を約束してくれる道であろう。』
意外と面白かったな。さすがに全部は読んでられないけど。それにしても今の国王は十五代目だったとは。一代あたりが長いのか短いのか、どうなんだろう。
あと聖地が気になったな。勇者ムラサキが育った寒村か。たぶんここから近いよな。そのうち行ってみようかな。
それにしても、久々に本を読むと疲れるな。まだ放課後にもならない時間だけど、そろそろ帰ろうかな。本を棚に戻そうと移動すると、隅っこからヒソヒソと声が聞こえてきた。
「こんなとこ誰も来ないさ」
「で、でも、授業中なのに……」
「授業中だから誰も来ないのさ」
「は、恥ずかしい……」
「そんな顔もきれいだよ。シャロン」
はて、シャロン? どこかで聞いたような気もするが、まあどうでもいいか。かーえろ。
「誰だ!」
おっと、本棚に戻す際に音を立ててしまったか。わざとではない。敢えて静かにしようとも思わなかったが。
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