サンドラちゃんは孤児院から学校に通っている。二人の弟達も同様だ。双子で現在二年生。
服装がずいぶん小ざっぱりしてしまった。元々派手だったわけではないが、貴族らしく上品ではあったのだ。それが今や孤児院から通う他の子供達と同じ様な飾り気のない麻の服だ。それを自分のセンスと裁縫の腕で『小ざっぱり』仕上げている。
そして王都の中等学校への進学だが、変更ないらしい。肩身が狭い思いはするだろうが、あちらも能力が高い生徒は欲しいし評定にもマイナスではないそうだ。
マイナスと言えば先日の鍛錬遠足で倒れた件はマイナスになってないらしい。確かに倒れた軟弱さと仲間の手を煩わせたことはマイナスだが、あの状況でも助けてもらえるような人間関係を作っていたことでプラマイゼロらしい。
そんなサンドラちゃんだが、いつもと変わりないように見える。少なくとも表面上は。
「サンドラちゃーん、お弁当のバランスが悪いねー。これも食べなよ。」
孤児院から持たされる弁当なのでいつもの分け合いに支障が出ている。明日から夏休みだからあまり問題はないのだが。
「やっと明日から夏休みだね。サンドラちゃんはどうなりそう?」
「よく分からないわ。父上があまり帰ってこないと思ったらいきなりあれだもの。孤児院は集中して勉強できる環境じゃないし教会にでも日参して勉強しようかしら。」
「それはよさそうだね。僕も行こうかなー。」
おっ、燃えてるな。セルジュ君も領都の貴族学校志望だもんね。勉強を頑張らないとね。
聞くところによると教会は涼しいらしい。私は二歳以来行ってないからよく知らないのだ。
私は魔石も取りに行きたいしマギトレントも狩りたいしベルトやブーツ、帽子も仕立てたい。何よりスティード君とのお泊り稽古が待っている。そして秋にはコペン・アッカーマン先生がクタナツにやって来る。ドキドキだ。
おもむろにアレクが口を開く。
「私は……領都の魔法学校へ行くことに決めたわ。ずっと考えていたの。カースにどこまでも付いて行くにはどうすればいいかって。カースに足りない部分を私が補えれば……とかね。カースは細かい、チマチマとした魔法なんか覚える必要はないわ。そんなの全部私が使えるようになってあげる。だからカースにしか使えない魔法を使って欲しいの。上手く言えないけど、だから私は領都に行くわ!」
おお、昼飯時にする話じゃないが嬉しいぞ。
サンドラちゃんは『二人の時にやればいいのにこのバカップル』と言いたそうに見ている。
セルジュ君とスティード君は『さすがアレックスちゃん!』と言わんばかりだ。
なぜかエルネスト君が羨ましそうに見ている。君にはイボンヌちゃんがいるだろう。
「だから夏休みはイザベル様に魔法を教わることになっているわ。キアラちゃんのついでに教えて下さるそうよ。」
「それはよかったね。母上にしては珍しい。僕も何だか嬉しいよ。ありがとうアレク。」
明日からハードな夏休みになりそうだ。いい感じに学問、魔法、剣術と分かれたものだ。この仲間で秋の大会を荒らしたら面白いかも知れない。今年の開催はクタナツなので私も見物が楽しみだ。
夏休み。
特筆することはないが、みんなそれぞれ頑張っているようだ。パイロの日だけはみんなで集まって遊んだりお茶を飲んだりした。サンドラちゃんがお金を持ってないので、お茶は誰かの家だ。
そのサンドラちゃんの愚痴がすごかった。
「何なのよあいつら! そりゃ親がいなくて大変なのも寂しいのも分かるわ! だからって盗んでいいわけないでしょ! 全然会話にならないのよ!?」
サンドラちゃんによると孤児院の仲間達は……
・すぐに嘘をつく。意味があるものから無いものまで。
・すぐに盗む。使い古しのノートから下着まで。盗んだ物は絶対返さない。自分のだと癇癪を起こしてこちらが根負けするまで駄々をこねる。
・マウンティングしてくる。マウンティングという言葉はないが、やたら新入り扱いしてきて雑務を押し付けてくる。
・有る事無い事を院長に告げ口する。院長も承知はしており聞くだけで何も応対はしない。
・弟達は毎日泣いている。
・誰も勉強しない。
聞いてるだけでうんざりしてくる。
ファンタジーあるあるとしては孤児院では強欲な院長が補助金を私的に流用していたり、食事にも事欠く有様だったりする。それらはクタナツでは有り得ないためにその分子供が増長してたりするのだろうか? 私には分からない……
サンドラちゃん達姉弟は三人で一部屋を与えられたことも嫉妬を買っているらしい。通常は四人で一部屋だからだろうか? ほとんど変わらない気がするが。
二組には何人か孤児院在住の子がいるらしいが付き合いはないので、考えが分からない。彼らは何がしたいのだろうか。
当然サンドラちゃんは魔力庫が使えるので盗難の被害はない。しかしその分弟達が目を付けられているらしい。子供の世界も過酷だな。
通常ならば貴族が孤児となった場合、祖父母または親戚に引き取られる。しかし今回のような場合は誰も引き取りたがらない。そのため孤児院行きとなった次第なのだ。サンドラパパは一生奴隷だろうし、ママも五年は奴隷だろう。両親が奴隷である間は誰も引き取ってくれないだろうな。当然かも知れないが世知辛い。
ちなみにセルジュ君はサンドラちゃん用にお姉さんのお下がりの服をいくつか用意していた。私は弟君用に私のお下がりを持ってきてある。
このメンバーならこれからも中古がたくさん出そうなので、きっと役に立てることだろう。
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