「ガウガウガウガウ!」
う……うぅん……カムイ、どうした?
「ガウガウ!」
コーちゃんが呼んでる?
すぐ近く?
「カース……?」
「アレクは寝てて。ちょっと出てくるね。」
一瞬で服を着替えて窓から飛び出す。カムイ、案内を頼む。
「ガウガウ」
着いた。我が家と行政府の中間辺りに……ダミアンとリゼットが……倒れていた……
辺りには一面の血が……
「ダミアン! リゼット! しっかりしろ!」
「ピュイピュイ!」
コーちゃん! 大丈夫!?
いや、それよりもポーションだ!
二人にぶっかける!
「ピュイピュイ!」
え? コーちゃんもやる?
そう言ってコーちゃんは市販のポーションを飲み込んだ。そして次にダミアンの口に頭を突っ込んでいる。リゼットにも同じことをしている。胃袋に直接飲ませているのか。
よし、次だ。
二人をミスリルボードに乗せて治療院まで運ばねば。確かギルドの近くにあるはずだ。
「カース!」
アレクも来てくれた。カムイ、わざわざ引き返してアレクを案内してくれたのか。
「アレク! 僕はこいつらを治療院に連れて行くからここをお願い! カムイも!」
「分かったわ!」
「ガウガウ」
くっそ、なんでこんな夜中に出歩いてんだよ! 護衛は何やってんだ!
よし、着いた!
「おい! 急患だ! 診てくれ!」
くそ、閉まってんのか!? そんなわけないだろ!
激しくドアを叩くも反応がない!
『風球』
ドアをブチ壊しても中身はもぬけの殻だ。くっそ、どうなってんだよ!
行くしかないのか……
二人の命には変えられない……
コーちゃん、二人の命を頼むよ。私は全力で飛ぶから!
「ピュイッ!」
行くぜ帰るぜクタナツ! 全力で飛んでやる!
体感で四十分、クタナツの実家……に帰りかけて止まった。引っ越してんだったよな。
無尽流の道場に着陸。両親はどこで寝てるんだ?
とりあえずアッカーマン先生夫妻が暮らしていた母屋を叩いてみる。
「誰かいませんか! 緊急です!」
くそ、物音一つしない! ハルさんもいないのか!?
なら治療院だ!
「すいません! お願いします!」
よし、ここなら治癒魔法使いがいるだろ!
「カース!?」
「母上!? 何やってんの!?」
「今それどころじゃないの! 後にしなさい!」
母上が鬼気迫る表情で治療をしている相手は……
「父上! は、母上、父上がどうして! 何が!?」
「黙ってなさい!」
母上に余裕がない……見たところ父上は血塗れだ……どこを怪我しているのかすら分からない……
「坊ちゃん! ポーションの類はお持ちですね? 全部出してください。」
「マリー……いいよ。全部出す。これ、姉上から預かってたゼマティス家のポーションも。」
「カース! それを寄越しなさい!」
「も、もちろん……」
母上がまともじゃない……私からポーションを乱暴に奪いとるだなんて……
当然か……一体何が……
「マリー、この二人を診てくれない!? この臭いポーションも使って!」
「ええ、診てみましょう……」
ひとまずマリーが診てくれるんなら大丈夫だろう…….
落ち着いて周囲を見渡してみると、怪我をしているのは父上だけではない。十数人が倒れ伏し、治癒魔法使い達が必死で治療にあたっていた。
「ピュイピュイ!」
コーちゃんも父上に直接ポーションを飲ませている。くっそ、一体どうなってんだ!?
「カース! 来なさい!」
母上のお呼びだ。
「押忍!」
「手を出して!」
「押忍!」
血塗れの手で私の手を握る母上。もしかしてこれは……
「そのままよ! 錬魔循環してなさい!」
「押忍!」
これはあれだ。王都の治癒魔法使いナーサリーさんもやっていた魔力を吸い取るやつだ。さすがに母上が吸い取る魔力量はナーサリーさんとは桁が違う……たぶん二桁ぐらいは。
思えば母上は私が小さい頃、魔力放出を教える前段階として何度か私から魔力を抜いていたな。ナーサリーさんは母上から教わったのか。
でも、来てよかった……まさか父上の危機だなんて……
それから母上は幾度となく私から魔力を吸い取っていった。
「ふぅ、これでアランはもう大丈夫……カース、待たせたわね。マリー、状況は?」
「ギリギリです。傷はあらかた塞がっておりますが、血を流しすぎているようです。」
「分かったわ。交代するわよ。あら、確か辺境伯家の?」
「そうなんだよ。母上お願いだよ! ダミアンを、リゼットも助けてやってよ!」
「ええ、分かっているわ。マリーはそっちを頼むわね。」
「はい奥様!」
くそ……ダミアンの野郎……弱っちいくせに夜道なんか歩きやがって……
不幸中の幸いだったのはコーちゃんが付いていてくれたことか……もしコーちゃんがいなかったら朝には冷たくなっていただろうな……
いや、それどころかきっちりトドメを刺されていたはずだ。コーちゃんがいたからこそ、何らかの理由でトドメを刺せぬまま犯人は逃走したんだろうな。
まあいい……犯人についてはアレクが何とかしてくれるはずだ。カムイだっているんだから。頼むぞ……
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