散歩デートも後半戦、現在クタナツ城壁の北東部だ。
ここで妙な奴を発見した。
あいつは……
見るからに落ちぶれた風貌のスコットが、同様に落ちぶれた風貌の人間数人を連れて私達の後ろから現れた。
北の城門で私を見咎めて後をつけて来たのだろう。こんな見通しのいい場所で尾行もないものだ。
誰か来てると思ったらこいつか。
「おーガキぃ! いい身分じゃねぇかよ。こっちはお前のせいでこの様だぜ! どうしてくれんだ?あ?」
「いい所で会いましたね。お知らせがありますよ。貴方の借金ですが減ってます。今なら金貨五枚でお釣りが出ますよ。」
ちなみにファロスさんは私達とスコットの間に立っている。もちろんファロスさんはすでに剣を抜いている。
「ガキぃ! 護衛がいるからって調子に乗んなよ! 助けて欲しけりゃ金出せや!」
こいつは何を言ってんだ?
高々六人で勝ったつもりなのか?
「ファロスさん、お聞きしたいのですが、この場合って殺しても罪に問われませんよね?」
「あ、あぁもちろんだ。こいつら剣は抜いてないが恐喝しやがったからな。」
「うるせーんだよ! さっさと金出せや!」
使う魔法はもちろん『乾燥』
スコット以外を殺しておこう。
「アレックスちゃん、あれは何だろう?」
一応、余所見をしておいてもらって……
「余裕かましてんじゃねーぞ! おうテメーら、やっちまうぞ!」
そう言って剣を抜くスコット、しかし誰も動かない。そりゃそうだ。
「ファロスさん、こいつって奴隷で売れますよね。いくらぐらいしそうですか?」
「お、おお金貨十枚ぐらいかな。」
「なるほど。お前はもう客じゃない。身売りして金を払ってもらうぜ。取り敢えず寝てろ。」
そう言って私は木刀を取り出してスコットと相対する。しかしこいつ前回自分の足を刺しておいて気付いてないのか?
「舐めんなガキぃ!」
そう言って私に向かって来るが……
ファロスさんに腕を斬り飛ばされた。
バカな奴。
倒れて何らうんうん唸ってやがる。
「ありがとうございます。助かりました。この場合って買取値は下がりますかね?」
「すまんな、たぶん金貨一枚かな……」
マジかよ。安っ!
母上に頼めば治してくれそうだが、こんな奴を母上の前に連れて行きたくない。
もういいや。
「よかったなスコット。もう借金の心配しなくていいからな。そのまま死ね。」
「まっ、待ってっ……」
面倒になったので乾燥魔法で殺しておいた。
もう何人殺したか忘れてしまったな。うーん自分が怖い。
「ありがとうございました。この死体はどうするべきですか?」
「放っておいていいよ。後で通報しておくから。」
「ありがとうございます。よろしかったらファロスさん、戦利品を取られては? 少し先に行ってますので。」
全員が全員とも魔力庫の中身をぶちまけているが、どうせゴミばっかだろ。
「そうか。いただこう。でも見える範囲にいてくれよ。」
「ええ。じゃあアレックスちゃん行こうか。」
「なによ! やっぱりカースは強いじゃない! 何で大会に出ないのよ!」
「あーそれはね。興味がないってこともあるけど、馬車で遠くに行きたくないからだよ。」
「バカ! 何なのよ! もう! こんなに強いのに!」
「ねえアレックスちゃん。秋の大会に剣鬼様が出てきたらどう思う?」
「何よそれ? 誰も勝てるわけないじゃない! そんなの誰も参加しないわよ!」
「僕もそう思うよ。自分で言うのも変だけど僕と他の子達にはそのぐらい差があると思うよ? まあ剣鬼様がどれぐらい強いかすら僕には分からないけど。」
実際フェルナンド先生の強さなんて私に分かるレベルではないもんな。でもアレックスちゃんの気持ちは嬉しいんだよな……
「カース……」
「この際だから言うけど、アレックスちゃん。僕のことが好きなんだよね。僕も君が好きだよ。」
「カース!」
「あーあ、言っちゃったよ。上級貴族と関わりたくなかったのに。君があまりにも可愛いから。どうしてくれるの?」
「カ、カース……//」
「君の父上には、アレックスとの将来は認められないって言われてるよ。理由はさっきのあれ。僕は金貸しをやるんだ。名門アレクサンドル家の令嬢を金貸し風情に渡せないってことと、どうせ短命ってことの二つの理由だと思うよ。」
「カース!?」
「さあどうする?」
とうとう言ってしまった。
中身はオッさんなのに、まるで精神年齢が逆行しているかのようだ。
まさかこんな小さい子供に重めの愛の告白をするなんて。
しばらく沈黙が続いた……
アレックスちゃんは真剣な表情だ。
「カースは上級貴族が嫌いなの?」
そしてゆっくりと口を開いた……
「嫌いではないけど、できるなら関わりたくないね。」
「今のところ……私に縁談はないらしいわ。父上も母上も閨閥形成に興味はなさそうだし。」
「建国以来の名門らしいね。お父さんから聞いたよ。」
「でもそれは私の耳に入ってないだけで実際にはかなりの縁談が来てるはずよ。もうすぐ卒業だし。」
「そうだろうね。」
「でもそんなのどうでもいい! 私、カースのためなら全て捨ててもいい! どうしたらカースと一緒にいられるの!? 教えて!!」
九歳の言うことじゃないだろう。
そして同じ九歳に答えられる問題でもない。
ならば……
「そんなに難しい話じゃないと思うよ。だって僕らは所詮ただの子供だよ。したいようにすればいいんじゃないかな?」
「じゃあ私はカースの側にいていいの!?」
「そりゃいいさ。そもそも身分差を考えてみなよ。下級貴族の三男と超名門貴族の長女だよ? どうにもならないから、やりたいようにやろうよ。」
「カース……そうね。難しいことを考えても仕方ないわね。したいようにするわ。」
アレックスちゃんはおもむろに私の頬に唇を寄せた。
今できる精一杯の行動なのだろう。可愛いすぎる……
そっと頭を撫でてあげた。
「あー、私の存在を忘れないで欲しいんだが。」
もちろん忘れてない。
「戦利品はバッチリですか? このことは内緒にしなくてもいいですよ。お任せします。」
「言えるわけないだろう。まあ私が言わなくてもお嬢様が言いそうだが。」
アレックスちゃんは自分のしたことで放心状態に陥っている。
なんてかわいい生き物なんだ。
さて、騎士長は子供の恋愛ごっこなどに関わる暇はないと思うが、どうなるだろうか。
私達の明日はどっちだ?
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