異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

44、ダミネイト一家

公開日時: 2021年8月5日(木) 01:00
文字数:2,361

道場からの帰り。ここはどこら辺なんだろう?


「帰り道って分かる?」


「分からないわ。いいじゃない、道なんて。どこまでも歩きましょうよ。」


「そうだね。適当に歩こうか。夕暮れの中、知らない道を歩くのも楽しいよね。」


パイロの日……

前世だと日曜日の夕方……

座布団の番組が終わったら翌日の学校が憂鬱な時間帯だ。それは教師とて例外ではない。この歳でもう学校に行かなくなった私は……少し罪悪感が出てきた。


それにしてもいい雰囲気だ。

夕日が眩しい。

アレクは私の腕にしがみついている。


「アレク、友達はいないって聞いてたけどアイリーンちゃんとは仲がいいの?」


「少し前まで嫌いだったの。向こうは私のことを何とも思ってなかったみたいだけど。でもあの子がすごく努力してることを知って……ね。」


ぶつかり合って友情が芽生えたみたいな? アレクは三位だと聞いていたが、いきなり首席か。


「じゃあ昔二位だった子ってどんな感じ?」


「そいつは今でも嫌いよ。何と言うか……気持ち悪い奴なの。うまく説明できないけどね。」


気持ち悪い? どんな感じなんだろう?

デュフフフ……拙者……アレクサンドリーネ殿推しでござるコポォみたいな?


噂をすれば影と言うが、さすがにこんな所で出会うこともあるまい。気にせず歩こう。ここはどこだ?




いかん、日が沈んだ。仕方ない、飛んで帰るか……



「おーいお前ら見てみろよ! こんな所に貴族がいやがるぜ!」

「ここいらはダミネイト一家の縄張りだぜ?」

「暗くなる前にさっさと帰んな! それとも道案内でもして欲しいのかよ!」




なんと、道案内をしてもらった。私達は無事に自宅に帰り着いた。


「親切な人達だったね。見た目で判断するもんじゃないね。」


「そうよね。いかにもスラムの住人なのに。歩きながら案内してくれるから、危ない場所にでも誘導されてるのかと思ったわ。」


そうなんだ。あいつらは私が道を聞くと、「付いて来いや」なんて言いながらも私達が知ってる道まで案内してくれたんだ。

お礼に銀貨三枚差し出したら、「俺たちゃ任侠ダミネイト一家だぜ? 困ってるモンがいたら助けるのは当然よぉ! 危ない所に来るんじゃねーぜ!」と言って受け取らなかった。任侠って何だ?


夕食はアレクと二人きり。この日のマーリンは用意をしたらさっさと帰るからな。


「カース、今日はごめんなさい。私が勝手にあれこれ決めてしまって……」


「いやいや、そんなことないよ。楽しかったよ! お陰でスティード君にも会えたし!」


「私はあの子、アイリーンがね。嫌いだったの。成績も実技も優秀なのにいつも小汚い格好をしてるものだから。時々臭いし……さすがに普段は今朝ほどひどくはないけど。」


「あの子は貴族だよね? それがまたどうして?」


「それを知ったのは最近、たまたま訓練場で見かけて……分かったの。ああこの子は全ての時間を強くなることに費やしてるんだなぁって。」


なるほど。女の子なのに身嗜みに時間をかけないから小汚い格好になるのか。服装も簡素だったもんな。しかしそれに勝ったアレクもすごいな。


「今朝だってきっと夜通し稽古か何かしてたのよ。それから道場に向かってたのね。」


そうか、朝からあんなに汚い格好の理由は徹夜で訓練か。私もスティード君と心眼の稽古をしたもんだ。


「この前私が首席になって、ようやく私のことを見てくれたみたいなの。」


「それはよかったね。アレクに友達ができて嬉しいよ。」


三年生になってようやく友達ができたのか。えらい! よく頑張った!


「そ、そうよね、と、友達よね……」


ふふ。なぜか照れてる。かわいいなぁ。




そういえば、バラデュール君は騎士学校生なのかな? 昔、クタナツで会った時はソルダーヌちゃん以外にもう一人女の子がいたはずだ。あの子はどこに進学したのだろう。


次にアレクに会えるのはまた二週間後か……






ある週末。とある貴族の邸宅ではお茶会が開催されていた。


「やっぱり来ないのか……君達みたいな素敵な女の子が誘っても来ないなんて、やっぱりあいつは高慢女だね」


「え、ええそうね。貴方達みたいなイカした男の子が待ってるとも知らず……バカな女よね」


「あの女はきっと、君の前では自分が霞んでしまうことを恐れているのさ」


「いいえ違うわ、きっと貴方のような魅力的な男の子に惹かれてしまうことを恐れているんだわ」


アレクサンドリーネとカースを呼んで酷い目にあわせる目的で開催されたお茶会だが、あの二人が全然来ないので苛立つ者が多かった。しかし中にはこのようなカップルも出来つつあった。

魔法学校三年生の女の子、ボニー・ド・ホプキンスと貴族学校三年生の男の子、クライド・ド・ドドリアーニだった。


「ボニーはどうしちゃったのかしらね。あんな低脳と仲良くしちゃって」


「クライドもだぜ。あんなアーパー女なんかと見つめ合ったりしてよ!」


「あら、アンタとは気が合いそうね。そこいらの盆暗貴族とは違いそうね?」


「お前こそ、あんな頭の中がお花畑貴族とは違うな。ふふっ」


彼らの陰謀は果たしてどうなる?




その場に呼ばれた冒険者達は……


「生意気なガキを懲らしめるって話だったがよぉ、どうなってんだ?」

「知るかよ。楽でいいじゃねーか」

「俺ぁ退屈だぜ。来ねえんならこっちから行けよって話だよな!」


「どいつもこいつも頭が悪そうな顔してるしよぉ、これで貴族とはよ?」

「笑えてくるぜ。バカが多いから楽が出来るじゃねーか」

「オメーら相手しろよ。ちっとは体動かそうぜ!」


「こんな狭ぇーとこで無茶言うな、素振りもできねーな?」

「なんなら坊ちゃん達を鍛えてやれや。俺は嫌だがな」

「ふん! こんな貧弱な奴らを鍛えるなんて無理に決まってんだろ!」


大きい口を叩いているが、彼らは七等星。キャリアは十年もあるのに……

こんな下らない依頼を受ける六等星、五等星はいないのだ。暇な彼らが気まぐれで受けたに過ぎない。

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