『さあーーーぁ! 決勝戦の実施が絶望的な今! 三位決定戦に期待が集まっております! スティード・ターブレ組の頭脳プレーに敗れた魔王カース選手! アレクサンドリーネ・アイリーン組の捨て身の魔法、いわゆる『重ねがけ』に敗れた氷獄の魔導士キアラ選手! 歳の差たるや五歳! どのような勝負になるのでしょうか!』
『アタシぁもう帰りたいんだがねぇ……』
『まあカースがいるんだ。俺らに、観客に被害を出すようなことぁねえさ。さあ! カース選手にキアラ選手! 準備はいいな!?』
だめだって言っても止めないくせに。
『三位決定戦を始めます! 双方構え!』
『始め!』
『白弾』
私の切り札の一つ、教団から奪った白い鎧を加工して作った弾丸だ。悪いが自動防御だろうが突き抜ける。キアラの大腿部を貫通した。終わりだ。
「痛ったーい! もぉー! カー兄酷ーい! 痛いよー! バカー!」
は……!? 傷が……塞がってる……そんなバカな!?
『白弾』
先ほどキアラを貫通した白い弾丸を戻して後ろから今度は右の大腿部を貫く。
「いっったぁーい! カー兄酷い! 痛いよー! もうカー兄のバカぁ!」『すないぷ』
そんなの私に効くかよ……次こそ終わらせる!
『特大氷塊弾』
自動防御ごと場外に落としてやる。痛みに気を取られている隙に、叩き落とす!
『風斬ー』
ぬあっ!?
魔力特盛の氷塊弾が真っ二つに斬り裂かれた!? い、いや、それでも容赦せんぞ!
『徹甲弾』
くっそ! 逸らされた!? 今度は魔力感誘か……
いや、まだだ!
『白弾』『散弾』『狙撃』
白弾はキアラの肩を貫いたが、他は逸らされた……キアラの奴、落ち着いて対処してやがる……『風球』落ちろ!
だめか……白弾以外は全て防いでやがる……手強いな。
だが!
『白弾』『徹甲弾』
ふう……これなら……
『勝負あり! キアラ選手! 客席まで吹っ飛んでしまいましたぁーー!』
よかった。勝った……
白弾で自動防御に穴を開け、徹甲弾を腹にぶち当てた。さすがのキアラも魔力感誘を使う余裕がなかったようだ。よかった兄の威厳は示したぞ。
それよりキアラは!? 大丈夫だよな!?
吹っ飛んだんだから……
「もー! カー兄のバカー! 痛いよぉー! 母上に言いつけてやるからー!」
バカな……無傷……
肩を貫通した傷すら塞がっている……
「キアラ、大丈夫なのか? どこか痛くないか?」
「もー! ふとももと肩が痛いんだからー! カー兄すごーい!」
「キアラが無事でよかったよ。じゃあ何か食べに行こうか? カファクライゼラとかさ……」
「行くー! シビルちゃんが行きたがってたよー!」
「よーし! 行こうな。シビルちゃんも呼んでおいで。」
「うーん! 待っててねー!」
キアラは元気に駆け出した……
私が切り札を使ってまで、両足の大腿部と肩を貫いたのに無傷……内臓にだってかなりのダメージがあったろうに……
つまりキアラは私が使えない治癒魔法すら使えるってことだな……くそ、こんな所でも才能の差を実感してしまうのか。勝ったのに少しも喜べない……これが母上の言うセンスってことなのか……
『なんとぉー! あっさりと終わってしまいました! さすがは魔王の貫禄ぅー! キアラ選手に一切の反撃を許さず! 一歩も動かず! これが魔王の本気かぁー!』
『いつもの魔法とは一味違う威力だったな。カースほどの男だ。切り札の一つや二つは持っているだろう。あれほどの魔力を誇るキアラ選手が文字通り子供扱いだったな。』
『アタシが気になるのはさぁ……あれだけのボスの魔法を食らってピンピンしてる妹さんなんだがねぇ……』
正直なところ……私は、キアラが恐ろしい。
私が九歳だった頃を鑑みても桁が違う。しかも治癒魔法すら使いこなしている。未だに魔力感誘も治癒魔法も使えない私と、才能が違い過ぎるのは明白か……
それとも、私が知らないだけでキアラは私の数倍もの努力をしているのだろうか……
確かに私は人並み以上の努力をした自負はある。しかし、人の十倍や二十倍もの努力をしたかと言われると、分からない。もしかしたらキアラの実力は努力の結晶なのかも知れない……
「カースくーん。容赦なかったわね? 可愛い妹に向かってさ。」
「ベレンガリアさんは知ってたの? キアラが治癒魔法も使えるってこと。」
「もちろん知らないわよ。だってあの子が怪我したのを見たのって今日が初めてだもの。まあ学校で使うことぐらいはあったのかも知れないけどさ。」
そりゃそうだ。キアラの自動防御もかなりの鉄壁だもんな。私の白弾やその他の切り札は魔法防御を容易く破るものばかりだもんな。これでキアラも油断しなくなってくれればいいが。私が言うのも変だが、どうもあいつは危なっかしいんだよな……
さて、決勝はスティード君達の不戦勝か。明日はどんなルールでやるんだろうか……
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