武器屋を出た私達は街の中心部から離れ、人気のない場所へと移動する。
「情報はあらかた揃った。だいたい読み通りってとこだ。投槍がよく分からんが無視していいだろう。日没まで一休みするぞ。」
「はい。お茶でも飲みますか。」
お茶を飲んだり少し寝たりしているうちに日は沈み、夜の帳が下りてきた。普段の服装ではないので、結構寒い。早く終わらせて帰らねば。
「最終確認だ。ボウズは俺を屋根に降ろした後、正門で騒ぎを起こす。騒ぎが起こってから十分後、俺が合図をした場所に来て、俺を拾う。それで終わりだ。もし二十分経って合図が無ければ一人で帰れ。」
「分かりました。」
スパラッシュさんが失敗するなんて考えられないが……もし本当に合図がなかったら私はどうしよう……
現在の時刻は六時過ぎぐらい。すっかり真っ暗だ。私は隠形を使いつつ空からスパラッシュさんを奴の別荘の屋根に降ろした。
さて、派手に行くぜ!
『水球』
領都で城門を破壊したのと同じ方法だ。あの時と違うのはこれ一発で正門があっさり壊れたことだ。この勢いで塀もどんどん壊してしまおう。わらわら集まって来た人間には『麻痺』や『落雷』で気絶しておいてもらう。気絶した者は一ヶ所に集めておく。さあ出てこい偽勇者!
塀を壊しているうちに奇妙な庭を発見した。まるで弓道場のような作りだ。問題はその的だ。いくつか十字架が立っており、どす黒く染まっているし、嫌な匂いがする。まさか標的は……投槍の使い道は……
予定変更、塀だけでなく別荘もぶち壊そう。いや、丸焼きにしてやるよ……
『燎原の火』
敷地内だけをこんがりと焼いてやる!
「お前メチャクチャだな。どこの刺客だ?」
ちっ、隠形が効かなくなるほど魔法を使い過ぎたか。『散弾』
「痛っ! いきなり何すんだよ!」
散弾が効いてない。そして紫の鎧、こいつか!
「会いたかったぜ。勇者様。」
『榴弾』
「ぎゃあー! 痛いっつってんだろ! どんな魔法を使ってんだよ!」
さすがに少しは効いたようだが、鎧はほぼ無傷。剥き出しの手足の先にダメージありってとこか。さすがに顔はガードされている。
「今度はこっちの番だな。」
奴は大きな剣を取り出し構える。そんなの待つ訳ないだろ。
『火球』
鎧ごと溶かしてやる。
「熱ぃー!! 『水球』ふぅ熱っつー! なんだそれ! ただの火球じゃねーな!」
それにしてもこいつお喋りだな。何か狙ってんのか?
『落雷』
やっと静かになりやがった。金属鎧じゃあ落雷は防げないよな。さて、こいつは生け捕りだな。目隠しして、鉄板でぐるぐる巻きにしておこう。ついでに循環阻止の首輪も付けてやる。生意気に高そうな鎧を着やがって。
合図だ! 別荘の一角から火柱が上がった! すぐさま私は偽勇者を抱えて急行する。するとスパラッシュさんが窓から人間を放り出した。そこに護衛らしき人間も殺到してきた。
「先輩も早く乗って!」
私は偽勇者や放り出された奴らをミスリルボードに乗せながら叫んだ。狭い!
魔法もかなり飛んでくる! 私には効かないがスパラッシュさんが危ない。
あっ、足に怪我を負ってる! なら無理矢理『風操』こっちに引っ張り込む! くそ、魔法だけじゃなく投槍やら矢まで飛んできやがる。その程度ではやはり私の自動防御を突破することなどできないが『散弾』喰らえ!
スパラッシュさんのいる方向以外全てに弾丸をばら撒いてやる! なるべく殺さないつもりだったが……
よし! スパラッシュさんを乗せた! 脱出だ!『水球』『落雷』
周囲の人間をきっちり気絶させておく。それにしても、この狭い畳サイズに何人乗ってんだ? だがどうにか伯爵領の騎士団が現れる前に終わらせることができてひと安心だ。
「先輩、足は大丈夫ですか?」
「坊ちゃんのお陰でこんなもんで済みやした。それに無礼な口をきいて失礼しやした。何もかも坊ちゃんのお陰ですぜ。本当にありがとうごぜぇやす。」
「いやいや、スパラッシュさんのお膳立てがよかったからだよ。そこら辺に一旦降りて、こいつらを縛り上げておこうよ。それからこれ。」
私はスパラッシュさんにポーションを渡す。
「こいつぁかっちけねぇ。重ね重ねありがとうごぜぇやす。」
それから私達はラフォートから北に十キロルぐらいの草原に着地した。
「さあ、ガッチリ縛っておきやしょう。ちなみに全員生きてやすぜ。ジジイと二男と四男でさぁ。」
「こっちも度々クタナツを悩ませた偽勇者野郎を捕まえたよ。本当にこいつかどうかは怪しいけどね。」
「さすが坊ちゃんでさぁ。よし、これでいいでしょう。帰りやしょうぜ、クタナツに。」
こいつらはこれからどうなるか。尋問魔法で何もかも白状させられていつも通り鉱山行きか、それとも他に……
暴れても落とす訳にはいかないからな。全員に目隠しをしてギチギチに縛ってはいるが、油断せずに帰ろう。
それにしても胸糞悪い屋敷だった。あの弓道場らしき場所、あれは人間を的にしていたようだ。そのための投槍か……一体何人の人間を……
それに魔法の的にしていた可能性だってある。
使用人達には悪いことをしたが、仕方あるまい。嫌々かも知れないが、あんな屋敷で働いていたのが悪いのだ。全て燃えてしまえ。
結局、奴らはクタナツに到着するまで一度も目を覚ますことはなかった。そして私達は南の城門前に降り立った。長い戦いが終わったのだ。
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