護衛団の面々が青ざめた表情をしている。
「どうした? 顔色が悪いぞ? もっと飲んでいいんだぞ。」
「あっ、その、いただきます!」
「いきなりどうした? もっとフランクにいこうぜ? 俺が魔王だからって、さっきまで気にしてなかっただろ? 俺達は同じ冒険者じゃないか。」
「あ、そ、そうですよね! い、いただきます!」
リーダーが豹変した。こいつ今朝の初対面の時は結構横柄だと思ったが。分かりやすいと言うか素直と言うか。まあ、悪い奴ではないんだろうな。
「あ、あの! 魔王さん! 剣鬼をご存知なんですか!?」
他のメンバーが質問してきた。
「剣鬼様って言え! もしくは先生だ! 呼び捨てにするんじゃない!」
「はっ、はひ! 剣鬼先生をご存知なんですか!」
剣鬼先生と来たか。面白いから許してやろう。
「ああ、フェルナンド先生は俺に色々と稽古をつけてくださったものだ。今頃どこにいらっしゃるのか。」
本当はエルフの村でイグドラシルに登ってるんだけどね。
「じゃっ、じゃあ魔王さんは剣鬼先生のお弟子さんなんですか!?」
ちっ……
「いや、残念ながら……俺は先生から弟子だと名乗っていいと言われていない……理由はたぶん、俺に剣のセンスがないからだ……」
くっ、悔しいぜ……
「で、でも魔王さんの魔力ときたら! 別に剣なんか使えなくても!」
「そ、そうっすよ! 魔法でどかーんとやっちまえば!」
「そうだな……でも、もし……魔法が使えなくなったらどうする? その瞬間俺はそこらにいるただの十五歳のガキだ……」
「いやっ、でも、そんなこと、さすがになぁ?」
「ああ、あり得んよなぁ? 魔法が使えなくなるなんて首輪でもかまされた時ぐらいじゃ……」
「ちなみに俺には拘束隷属の首輪も効かない。王族用の特注でさえな。それでもな……魔力を失ったことだってあるんだよ……」
あの時は辛かったなぁ……本当に無力だった。
「え? じゃあ一時期流れた噂は本当だった、んすか?」
「魔王、さんがただの人になったって……」
「王都の噂か? そんな時期もあったのさ。王国一武闘会の後で色々あってな……」
今日は珍しく昔話が多いな。酒のせいかな?
「そ、それよりも! 剣鬼先生の弟子と言えば変わり種がいるんですよね?」
「そうっすよね? 若い女で名前は確か……」
「キャロル・バルローじゃなかったですか?」
「そう言われてもな……先生が弟子と認めた者は何人もいないらしいが……その名前に覚えはないな……」
女の子で先生の弟子……あれ? 兄上争奪戦の時にいたような……どうでもいいや。
「バルロー家っつーたら色々あったんすよ?」
「前のクタナツ代官を務めた程の家柄ですっけ?」
「それなのに孫は平民ですからね。可哀想にねー」
クタナツの前代官か。それは興味深いな。当時の私はまだ学校にすら通ってないほどの子供だったよな。確か魔物の大襲撃もあったし。
「せっかくだ。聞かせろよ。何があったんだ?」
クタナツで代官を務めた男の孫か。さあ、なぜ平民に落ちたんだ?
「ありゃあ確か引退して二年後ぐらいだったと思うんすよ。どうも前代官のフレデリックはハメられたって噂ですぜ?」
「ハメられた? 誰に?」
「ヤコビニ派って噂っすよ。クタナツ利権が欲しいヤコビニはフレデリックを手駒にしたかったらしいんす。引退したとは言ってもクタナツで代官を務めたほどの男っすから。」
「ここでもヤコビニかよ。手広くやってんのな。」
やりすぎだろ……
「でもそれほどの男がヤコビニ派なんぞに素直に従うわけないじゃないっすか。そこで標的にされたのが家督を継いだ息子らしいんすよ。」
「ほうほう。」
「どうも女で失敗したらしいんす。寝物語で機密情報を喋っちまったとか、重要な書類を掠め盗られたとか。」
「あるあるだな……」
「そんで弱みを握られて好き放題されたとか。フレデリックの耳に入った時にはもう手遅れっすわ。そんで一家まるごと平民落ちっすね。フレデリックの功績があったから奴隷落ちじゃないだけマシなんすかね?」
なんとまあ……私が知らないだけで、その手の話は貴族間では珍しくないんだろうな……
サンドラちゃんの両親だって似たようなもんだし……それにしてもヤコビニが死んで随分経つのに、まだ奴の爪痕が残ってるとは。
虎は死して皮を残すと言うけど、ヤコビニは死してロクなもんを残さねぇ……
「あ、そんで当のフレデリックですけど、去年死んだらしいっすよ。」
この世は無常だな……当たり前か……
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