フェアウェル村では『木の日』と呼ばれるトールの日。カースはまだ目覚めていないがエリザベスは少しずつ元気を取り戻している。今朝はついに普段と同じ食事をすることができたほどに。
「マリー、本当にありがとう。もう助からないって覚悟してたのに。」
「いえ、全てはカース坊ちゃんの魔力です。また奥様の髪と血、そして法衣に含まれた豊潤な魔力がお嬢様の命を繋ぎとめたのです。」
「ピュイピュイ」
「それにコーちゃんも祝福を与えてくれたようです。お嬢様は本当に幸運でした。」
「ええ……本当に……虐殺エリザベスなんて呼ばれて調子に乗ってるからこうなるのよね。次からはもっと上手くやるわ。たかが三人相手に負けたなんて恥ずかしいもの。」
「そうですね。魔女の娘ともあろうお方が負けるなんて。坊ちゃんが目覚めるまで少し鍛えてあげますわ。」
「望むところよ!」
「でも今日はダメです。昼、夜としっかり食べられたなら、明日からやりましょう。」
「そうね。何から何までありがとう。それにしてもカースの奴……いつまで寝てんのよ!」
「全くですね。こんなに心配かけて……」
カースの周りには空になったポーションの瓶が転がっている。マリーはあえて片付けていなかったのだ。
その数二十八本。一本目はギリギリ一割ほど回復したのだが、飲むごとに回復率は悪くなる。十本を過ぎた頃には三分も回復せず、二十本辺りだと五厘も回復しなくなった。それでもカースは飲み続けたのだ。
一本金貨二十三枚。恐ろしく無駄使いをしてしまった。しかし後先考えないカースの行動がエリザベスを救ったのだ。
それをエリザベスに伝えるために。
「本当に、バカな弟……」
市販では最も効き目の高いポーション。それでもカースの魔力を全回復させることなど出来ないのだ。巷で魔力が高いと言われる魔法使いでさえ一口飲めば全回復する高価なポーションなのに。
「ピュイピュイ」
「そうね。せっかく助かったんだからこれからは殺される前に殺すことにするわ。バカな弟を心配させないようにね。」
「それがよろしいかと。古来より『先んずれば敵を制す』と言います。この機会にエルフの魔法を覚えるとよいでしょう。」
「ええ、ぜひお願い。それってカースも使えるの?」
「はい。便利な魔法ですよ。明日のお楽しみですね。」
「くっ、私は新しい魔法を開発する度に教えてあげてるのに! やっぱりカースはバカ弟ね!」
それでもまだカースは目覚めない……
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