今日は休みなので、朝からキアラに本を読んでいる。その本はもちろん『勇者ムラサキ・イチローの冒険』である。
「こうして勇者ムラサキは悪いドラゴン、キュウビキマイラを倒しました。
勇者ムラサキの冒険はこれからだ。」
うーん、いつ読んでも面白いなぁ。
「どうだー面白いかー?」
キャッキャキャッキャ言ってるので面白かったのだろう。
女の子だからお姫様系のお話にしようかとも思ったが、私が読んでいて苦痛なのでやめた。
さて、続きを読んであげよう。
「勇者ムラサキが悪いドラゴンを倒したら、なんとそのドラゴンの体から剣が出てきました。
それは失われた聖剣デランサイファではありませんか。持ち主に祝福を与え、あらゆる魔を打ち砕く、魔物にとって厄災とも言える剣なのです。
それがなぜキュウビキマイラの体から出てきたのでしょうか。それには長い長い理由があるのです。」
あららキアラめ、寝やがったな。
ふふ、かわいい奴め。
勇者ムラサキは実在したらしい。ならば聖剣デランサイファも実在したのだろうか?
それにしてもドラゴンなのにキュウビ? キマイラ? 妙な魔物もいるものだ。
ローランド王国中央部よりやや南部には巨大なムリーマ山脈が横たわりフランティアとそれ以南の土地を分断している。その山中にはいくつか盆地も点在しており、そのうちの一つがキュウビキマイラの縄張りだったらしい。
北には魔境があり、南には巨大山脈か。やはりこの世界は厳しい環境なんだろうな。
しかしその山脈から大河が流れていることを考えると、やはり無くてはならないものなのだろう。
魔境は恐ろしくて行きたくないが、ムリーマ山脈には登ってみたいと考えている。
空を飛べる魔法が使えるようになったら挑戦してみたいものだ。
午後からは自分の修行をする。
あれから新たに覚えた魔法は……
『水壁』
手の平ほどの厚さに子供の胴ほどの面積の壁を作ることができる。もちろん大きさや密度は込める魔力次第。
発生させる場所は任意だが、自分から離れるほど魔力を消費する。
『土壁』
水壁と同じだが、自分と接触していないと水壁以上に魔力を消費してしまう。
『火球』
火の球を飛ばすことができる。
速度、大きさ、温度は魔力次第だ。
操作はできないが風操と併用すれば何とかなる。
最近はようやく二つ以上の魔法の同時使用が上達してきた。そのため色々と応用が効くようになってきた。
例えば水球を風操で操作し対象の頭部に固定してしまえば溺れさせることができる。
また水弾に土芥で砂粒を混ぜて単発ではなく連続してレーザーのように打ち出せばウォーターカッターとなる。
こういった魔法が魔物に通用するかは分からないが、工夫しておいて損はないだろう。
話に聞くゴブリン程度ならわざわざそんな魔法、融合魔法を使うこともないだろう。
水弾でもいいし、水球でも十分だろう。
魔力はどっさりあるし、発動速度もだいぶ早くなってきた。制御に関してはまだまだだろうから特訓が必要かな。
今の課題は火の魔法だ。
今までは自分が熱いため小型のやつを一瞬しか発動させてこなかった。だが、融合魔法を使えるようになった今、水壁などで防御しながら火を使えるのだ。
マッチ程度の火から開始し、火事に気をつけながら段々と火力を上げていく。コンロになり、焚火を経てどんど焼きになる。
魔力は余裕があるのでまだまだ大きくできるが、これ以上は危険だろう。
次は温度だ。
ガスバーナー程度の大きさにして、風操で空気を送り込む。火が大きくならないよう注意しながら温度を上げる。
良質なガスに大量の酸素があれば温度は上がるはずだが、魔力で代用できるのが魔法の利点だろう。
自分の指先がガスバーナーになったつもりで魔力を使い火を起こす、同時に風操で火の内部にも空気を送り込む。
目標はガスバーナーではなく、本物の青い火だ。魔力に任せて火を大きくするのは誰でもできるだろう。
しかし温度を上げて青い火を作るのは難しいはずだ。だから私だけのオリジナルになるだろう。
そして白い火、いずれは見えないぐらい高温の火も制御してみたいものだ。
それにしても熱い、水壁を厚くしなければ。
まだまだ魔力は尽きないが、三つも同時に制御するのは疲れる。
少し休憩して火の温度について母上に聞いてみよう。
「ねーねー母上、点火や火球とか火の魔法って温度はどれぐらいなの?」
「うーんそうね、初心者の点火だと枯れた藁に火がつくぐらい、私の点火だと生木にでも火がつくわね。
初心者の火球だと枯れ木に火がつくし、私の火球だとお風呂の水が蒸発するぐらいかしら。」
「うーん、聞きたいのはそうじゃないんだよね。例えば水が沸騰するよね、その温度を百として鉄がチーズみたいに溶ける温度を千五百とすると、母上の火球ってどれぐらいか分かる?」
「うーん難しい質問ね。感覚なんだけど私の火球で鉄を溶かすことはできないわ。真っ赤にすることまではできるけど。」
「じゃあ鉄を溶かせる火の魔法を使えたらかなりすごい?」
「すごいわよ。その気になればできるのかも知れないけど誰もやらないと思うわ。私が見たことがあるのは一瞬で剣を柔らかくして曲げたぐらいね。」
「分かった! ありがとう!」
分かってきた。凄腕の魔法使いは温度にはあまり拘らず、熱量に拘っているのだろう。
人間や魔物を相手にするには温度に拘ってもあまり意味はないしな。
だからこそ面白い。火球か点火で鉄を溶かす。やってみよう。
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