家への帰り道、私は御者をするマリーの横に座り今日の出来事を話した。
貴族が御者席に座ることは、はしたないとされているが構わない。今日ぐらいいいだろう。
マリーに聞いて欲しかったのだ。
「お見事でした。よく我慢されましたし、校長先生を呼ばれたことも良い判断だったと思います。また情けをかけなかったことも良かったと思います。
それにしてもバルテレモン様ですか……何か空恐ろしいものを感じます。単なる魅了魔法では済まないような何かを。」
「魅了魔法? それはどんなの?」
「簡単です。他人を魅了して操り人形にしてしまう魔法です。奥様ほどの魔力・制御・美貌が揃って初めて使える魔法です。少なくとも対象の五倍は魔力がないと効きませんが。
ちなみに私程度でも対象と三十倍ぐらい差があれば効きますね。」
「なるほど、バルテレモンちゃんにそれは無理だろうね。じゃあもしかして個人魔法とか?」
「あり得ますね。仮に個人魔法だとしても坊ちゃんに効いてないところを見ると、色々と条件があるのかも知れませんね。」
「へえー言われてみれば当たってるかも。一組は大半がバルテレモン派だからね。でも子供が派閥なんて作って意味あるのかな?」
「あるのかも知れませんね。将来への布石と考えれば悪くないですよ。ただそれなら有象無象より坊ちゃん達を派閥に組み込みたいと考えても不思議ではありませんね。」
そうなのか? それなら素直に遊びに誘えばいいものを。
仲間になるのではなく、支配したいのか? 子供の発想じゃないだろ。
あ、でもアレックスちゃんもそんな所があるよな、やはり上級貴族は違うのか。
あーあ、嫌だ嫌だ。オディ兄のことと言い上級貴族が絡むとロクなことがないんだよな。
ちなみに泣きながら弁当を食べたことは内緒にしている。
少ーし、明日から学校に行きにくいなぁ……
「というわけで決闘でシタッパーノ君を殺ってしまったんだ。父上のことをバカにされて怒らないのはおかしいんだけど、相手は子供だし父上もきっと笑って許すだろうと思ったからやる気はなかったんだけど。」
「ああ、分かっているさ。お前は勝った。それだけだ。胸を張っておけ。それが貴族ってもんだ。子供だろうと決闘したんだから生きるか死ぬかしかない。よく生き残ってくれたな。嬉しいぞ。」
「うん……ただの喧嘩にしようとも言ったけど聞いてくれなくて……」
「そうかそうか、お前は本当に優しい子だな。世の中にはそんな優しさが通じないことがいくらでもある、覚えておくといい。」
「うん、ありがと。寝るね。おやすみ。」
くそ、夕飯を食べてから気が重くなってきた。
当たり前か、殺人をしてしまったんだ……
それにしても周りの大人達の反応たるや、やはりみんなクタナツ男ってことか。
こうなったら殺しまくって慣れるか……
それとも何かぱーっと忘れることができる薬とか……
あるわけないか。
普通に過ごそう……
カースが眠れぬ夜を過ごしている頃、アラン達は真面目に話していた。
「まさかカースが決闘とはな。校長立ち会いってのはよかったな。」
「そうね。あの校長先生が立ち会ったのなら誰も文句の言いようがないわね。」
「それでなくとも決闘ですからね。決闘にもかかわらず後から文句を言う生徒が多かったらしいですね。校長も悲しそうだったとか。」
「私達も、最近の若い者は……って言う年になったのね。」
「それよりバルテレモンが気になりますね。坊ちゃんの話によると明らかにシタッパーノはおかしかったそうです。妙な個人魔法の可能性もあります。」
「あの年で同級生を死に追いやるほどの個人魔法か……あそこの家は親戚が多いからな、面倒なことになりそうだ……一体いつ退役できるのやら。」
「ふふふ、貴方ったら。私の実家を使えばいいのに無理しなくても。でもそんな貴方も最高よ。」
「私もそう思います。自力で騎士になられ奥様ほどの女性を娶る。これこそ男子の本懐かと。」
「はははっ、そうか? 照れるじゃないか。
まあクタナツにいる限り安全だよな。ここでは『勝てば国軍』だもんな。」
今夜は珍しくそのまま寝るらしい。
女性二人がたまたま同じタイミングで……だったようだ。
マリーからは何やら懇願があったようだがアランは「すまんな。また明日にしよう」とだけ言い眠りについた。
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