ああー、春である。
起きたくない。いつまでも寝ていたい。
しかし我が家では朝食は全員揃って食べるという不文律があるようで、必ず起こされる。
オディロン兄も眠そうだ。
そんな春の日の朝、父上からお知らせが。
「お前達、しばらくイザベルの修行はお休みだからな。
カースもオディロンも気になることがあったらマリーに聞くといい。
イザベルには及ばないが、魔法学校の非常勤講師はできるレベルだからな。」
「えっ!いいの!
いっぱい聞きたい!」
やはりオディロン兄はこうだよな。
私も次に行きたいし、あれこれ聞こう。
「じゃあ水滴の次は何をやるのー?
もう水滴はバッチリだと思うんだー。」
「さすがカースちゃん!
次は風よ。『微風』ね。暑い時に便利なのよ。
初めての魔法を使う時は必ず私かマリーと一緒でないとだめよ。
オディロンは下級魔法は全部できるわよね?
マリーに習ったら中級もできちゃうんじゃないかしら。」
「ぜ、絶対できるよ! 中級だって使ってみせるよ!」
オディロン兄は学校だとどれぐらいのレベルなのだろうか。
まあ来年になれば分かるだろう。
「僕も頑張るよ。涼しいのすきー。」
ところで母上はどうかしたのかな?
体調が悪いわけでもないようだし。
母上によると呪文を唱えて魔法を使うのは五年生までらしい。
いち早く無詠唱で使えるようになっておかないと魔境や実戦では役に立たないとか。もっとも、どかんとぶちかます時は別らしいが。
それでも初めての魔法を使う時は、正しい呪文を唱えて発動させないと、変な癖がついてしまうらしい。
だから初めての魔法指導は上級者に直接習うことが望ましい。
ここでも家庭の差が出るのか……
異世界も中々に世知辛い。
マリーによる魔法の授業が始まった。
「さあカース坊ちゃん。今日は風の初級魔法を覚えますよ。『微風』ですね。
私の後に続いて唱えてください。」
『ナーモーフ・カーシーギ・イーコール
風よ、その姿を表せ 微風』
マリーの手の平から生温い風が吹いてくる。
やってみよう。
『ナーモーフ・カーシーギ・イーコール
風よ、その姿を表せ 微風』
吹いた!
吹いたけど……
そよ風ですらない……
手の平で扇いだ方がマシな風だ。
「さすが坊ちゃん。初めてでも容易く発動させましたね。ではもう教えることはありません。地道に頑張ってください。
風の強い日のような勢いで発動できたら次にいきましょう。」
「押忍!」
あっさりできてしまった。
やはり最初はこれでいいのか……
風の魔法を組み合わせたら水圧の強い魔法も使えるかな?
我ながら無茶なことを言ってしまった。
微風の魔法で風の強い日並みって……
奥様からは無茶なぐらいで丁度いいとお聞きしているが……
魔力量は多いので修行の能率はよさそうだ。
全く、カース坊ちゃんは恐ろしい子だ……
一ヶ月経った。
微風だが、扇風機の強ぐらいの風は出せるようになった。
勢いを考えなければ、大量の風を送ることもできる。
水の魔法もそうだがいまいち勢いに欠けるんだよな。
そこで、はたと気付いた。
循環阻害の首輪をしてるせいか?
これがある為に鋭さ、勢いに欠けていたのか?
早速外して確かめてみる。
よし、指先から『水滴』を……
おおっ! すごい!
水鉄砲だったのが高圧ホースによる洗浄のようだ!
では『微風』をこれまた指先から…
おおっ!
これまたコンプレッサーから吹き出す圧縮空気のようだ!
やっぱりパワーリスト的な効果があったのか。
ちなみに四歳の誕生日では何も貰っていない。
父上から新しい知恵の輪を貰ったのみである。
何でも五歳の誕生日にちょっと良い物をくれるらしい。
よし、循環阻害の首輪をつけて先程の勢いで魔法を使えるよう特訓だ!
でも月に一回ぐらいは外して成長を確認しよう。
あぁー個人魔法も試したい!
だからって今度遊ぶ約束とかに使いたくないし、人間以外で実験できないものか。
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