おっ、あの先輩だ。
「おお、オメーまた上手くやったらしいな。」
「あっゴレライアスさん、お疲れ様です! これ、先日のお裾分けです。美味しかったんで食べてやってください。」
「んん? コカトリスの軟骨か? ありがたく貰っとくわ。しかしオメーよぉ、俺に気を遣っても何にもならんぞ?」
「いやいやゴレライアスさんは偉大な先輩じゃないですか! それにこれはただの感謝です。いつもありがとうございます!」
クタナツギルドの先輩に無能はいない。
ゴレライアスさんを含めほぼ全員が凄腕だ。
だからこのような付け届けは必須だ。
先程のような模擬戦でも相手が雑魚だから勝てたのであって勘違いしてはいけない。
この世界にはフェルナンド先生のような化け物がたくさんいるはずなのだ。
先生ですら四等星ってことは三等星もいるはずだから、恐ろしい。
だから私はここの先輩には従順だ。
ちなみにさっきのクサオは治療院に運ばれていった。金はあるのか?
治療院は高い。
怪我の程度にもよるが、骨折の治療なら銀貨五枚ぐらい。クサオは関節がグシャグシャになってるので安くても金貨四枚はかかるだろう。
まあいいや。これも実験だ。奴の末路を観察するとしよう。
しかしあれで七等星……経験十年とは……
石を用意した時点で投げてくるのもバレバレだったし、そもそもファーストコンタクトで自動防御されていたことにすら気付いてない。
いや、油断は禁物だ。低レベルを基準にしてはいけない。
私にはゴレライアスさんがどれほど強いのかすら分からないのだから。
そして私は今度こそ家路についた。
現在のカード残高は金貨三十二枚
手持ちの現金は金貨と銀貨が一枚ずつ。
貨幣価値は……
銅貨百枚で銀貨一枚。
銀貨十枚で金貨一枚。
大金貨とか白金貨とかもあるらしいが私は見たことがない。
銅貨一枚は百イェン。
銀貨一枚は一万イェンだが、あまり使われてない。銀貨何枚、金貨何枚という言い方が一般的だ。
利子計算をするにはイェンで計算をした方が便利なのだが、どうしたものか。
さて、エルネスト君だがなんと冒険者になってしまった。つまり私の同期になる。
本人からは、
「カース君のお陰で決心がついたよ。これからも相談すると思うけどよろしくね!」
なんて言われてしまった。
もちろんイボンヌちゃんは登録していない。それだけにアレクも登録していることを伝えたら驚かれてしまった。
上級貴族といえども貴族らしい生き方ができるとは限らない、厳しい世の中だ。
エルネスト君は確か四男だったかな。
冒険者なんて食い詰めて他にできることがない底辺がやる仕事だぞ?
十等星の死亡率を知らないのか?
当のイボンヌちゃんは一つ年上の上級貴族に接近しているらしい……アレク情報だ。
こんなことを聞いてしまったらエルネスト君達二人の昼食が空々しく感じてしまう。
知らぬは本人ばかりなり……か?
さて、今日は学年末テストの日だ。
さすがに年一回のこれを休んでしまうのはまずい。真面目に受けるのだ。
一時間目、国語。
神代文字の読み書きと、詩・短歌の読解だ。
難しい!
二時間目、算数。
かけ算・わり算だ。超簡単。
三時間目、魔法。
理論と実技が半々。楽勝。
そして昼休み。
セルジュ君が、
「国語難しくなかった?」
私もそう思う。
「難しかったよね。問三の答え何にした?」
サンドラちゃんが、
「あれは引っかけよ。正解は五、騙されないでよ。」
「え? そうなの? 私、三を選んでしまったわ!」
アレクは引っかかってしまったようだ。私もだ。意外なことにスティード君は引っかかってないらしい。
四時間目、社会。
王国法と天測。難しい!
五時間目、体育。
槍術の理論と実技が半々。
理論がよく分からなかった……
結果発表は明日。
教科ごと、そして合計点の順位が発表される。
少しドキドキする。
家に帰ってみれば、なんとウリエン兄上とエリザベス姉上が帰ってきていた。
何年振りだろう。
ウリエン兄上とエリザベス姉上が帰ってきた。姉上は四月から五年生、最後の学年なので相談がてら帰ってきたらしい。
「よく帰ってきたな。元気そうで何よりだ。」
「ただいま。みんな元気そうでよかったよ。何かすごいことになってるみたいだね。」
「内緒だが、カースがやらかしてな。それがキッカケで時代が動き出したようだ。」
「あんた何やったのよ? 白状しなさいよ。」
姉上は相変わらず強引だな。
「まあ待てエリ。その話は後だ。それよりお前だ、魔法学院には行けそうなのか?」
「ふふっバッチリよ! ダントツよ! トップなのよ! これで胸を張って魔法学院に行けるわ!」
「やるわね。さすがエリだわ。お母さんは嬉しいわよ。」
「母上のお陰よ。ありがとう。」
それから父上はここ数年の出来事を二人に説明していった。
・オディ兄の右腕切断
・私の活躍?
・魔女の噂
・グリードグラス草原の開拓
・私とアレクの関係
「色々なことがあったんだね。カースも頑張ってるんだね。えらいぞ。」
兄上に褒められた。えへへ。
「そんなことより兄上の話を聞かせてよ。王都ってどうなの?」
「うーん、話すほどのことはないかな。あ、でもお祖父様とお祖母様には会ったよ。母上のご両親だね。」
「二人とも元気にしてた? ちゃんと行ってくれたのね。ありがとうウリエン。」
「元気そうだったよ。初めて会う従兄弟もいたしね。ここに住めって言われちゃったよ。寮があるから断ったけど。」
「ふふっ、好きにしていいわよ。兄上と子供達も元気そうなのね。」
そうか、母上の実家は王都にあるのか。そして家督を継いだのは母上の兄なんだな。
とうぜん従兄弟もいるってことか。いつか会うことになるのかな。楽しみだ。
「あいつら従姉妹なのに兄上に色目を使ってくるのよ! 私にも近寄って来るし!」
姉上は本当に相変わらずだな。従兄弟同士仲良くしようぜ。それよりも、姉上ったら領都からはるばる王都に行ったのか? 兄上禁断症状でも出たのか?
「その辺りはお前達のやりたいようにやればいいさ。付き合うなり、叩きのめすなりな。」
父上も過激だな。
母上に実家があるなら父上にも実家があるはずだ、どちらも興味深いな。
「さあエリ。お風呂に入りましょうか。母子水入らずよ。」
その間私達は兄上から王都の話をあれこれ聞いた。しかも、またお土産にベストを貰ってしまった。そろそろ補修も限界だったから嬉しい!
なぜか明日のテスト結果発表が楽しみになってきたぞ! わくわくだな。
一方、風呂にて。
「なかなか上達したようね。これなら魔法学院に行っても安心ね。カースにも言ったことだけど毒には気をつけなさい。貴女にも効かないとは思うけど。」
「うん。頑張ってるから。毒ってやっぱり兄上関係で?」
「そう。私はアラン関係だったわ。後で対策を教えてあげるわ。でもまあ結局は全員殺せばいいだけよ。相手が如何に上級貴族であろうとも引いてはだめよ? 王都では引いたら負け、毒を盛られても死んだ方が負けなのよ。」
「やっぱり王都は怖いのね。私負けないわ。」
こうして母子は和やかに入浴をしていた。
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