ピクニックが決まってから一週間後。
今日、私達マーティン家一行はクタナツの外へとお出掛けをする。
途中でギルドに寄り、手配していた御者と合流し、馬車に乗って出掛けるのだ。
さすがに歩きだと危険が大きいらしい。
「本日はあっしをご指名いただきありがとうごぜえます。坊っちゃん方は初めまして、六等星スパラッシュでごぜえます。」
「このスパラッシュに御者をさせたらカースでも酔わないかも知れないぞ? 中々のやり手さ。」
「安全第一で務めさせていただきやす。へい。」
まもなく北の城門に差し掛かる。今のところ酔ってない。ありがたい。
「よう、お勤めご苦労。通らせてもらうぜ。」
「あ、マーティンさんお疲れ様です。まだ二年生のお子さん連れてグリードグラス草原近くまで行くんでしょ? さすがですね」
「まあ優秀な御者がいるからな。俺達だけじゃ無理ってもんさ。」
「何にしても無事に帰ってきてくださいよ」
そして馬車は城門を抜ける。ついにクタナツから外に出たのだ。
一体どんな景色が……
ひ、広い……
周りに何もなくただただ広い。
はるか西には薄っすらと山も見えるが、北と東にはひたすら平原が広がるのみだ。
所々に木や草など植物が生えてはいるが……地面のほとんどは乾いた土が延々と広がっているのみだ。
距離感が全く分からない。迷ったら帰って来れないのではないか?
「どうだカース、広いだろう。グリードグラス草原に着くまでずっとこんな感じなんだぞ。」
「すごいね! ちゃんと帰って来れるの? 迷子にならない?」
「ふふふ、大丈夫さ。スパラッシュがいるからな。何年か前にフェルナンド兄貴とウリエンと三人で行った時はウリエンに判断させたんだぞ。
それと言うのもな、星や太陽を見れば分かるのさ。そのうち学校でも習うからしっかり覚えておくんだぞ。」
「旦那! 出ましたぜ! コボルトですぜ!」
おっ、魔物か。
コボルトの外見はゴブリンに似ている。人間の子供ぐらいの体躯に大きく裂けた口、そこからは歯並びの悪い牙が見え隠れしている。
ゴブリンの耳がピンと立っているのに対してコボルトの耳は犬のように垂れ下がっているのが見分けるポイントだ。
「さてカース、五匹のコボルトがこちらに襲ってくる。一番左の一匹だけを退治してみろ。他は傷つけるなよ。」
「押忍! やってみるよ!」
融合魔法を使えるようになったものだからできることがかなり増えた。
今回は鉄塊と風操でやってみる。
『狙撃』
鉄塊でライフル弾のような物を作り、風操で飛ばす。それに弾道を安定させるためにジャイロ回転させてある。
ここから百メイルまで近づいたコボルトの頭を撃ち抜いた。
「よーしいいぞ。次オディロン、一番右の奴だけやれ。」
「押忍。」
オディ兄の返事が聞こえたと思ったら三秒後には右のコボルトが倒れていた。
「オディ兄すごーい! どうやったの? すごい!」
「それは後だ。残りの奴らが逃げようとしてるぞ。カース、三匹同時にやれ。」
「押忍!」
今度は鉄塊で散弾を多めに作り範囲を広めに撃ち出す。
もちろん命中、汚い死体の出来上がりだ。
「よーし二人ともよくやった。
まずカース、初めて魔物を目の前にしてよく冷静に対処できたな。バッチリだ。
オディロン、無駄のない精密な操作に磨きがかかってきたな。これまたバッチリだ。カースに説明してやるといい。」
「うん、あれは前に少し話した乾燥の魔法なんだ。普段は服を傷めないよう丁寧にやるけど、傷みを気にしなければあんな風に使えるんだよ。ただし相手が雑魚であることが条件だけどね。」
「へーオディ兄はやっぱりすごいんだね! で、どうやって乾燥させてるの?」
「基本はカースと同じ風操なんだよ。これに水球を作るつもりで、相手の体から水を集めるんだよ。そこに火の魔法を混ぜておくとさらに効果的だよ。
じっくり時間をかければオーガだってスライムだって倒せるけど、実際にはそうもいかないから雑魚用なんだよね。素材に傷がつかないのは便利かな。あと干物を作る時も便利なんだよ。」
「すごいすごい! おもしろそう! 僕も使いたい!」
「服に使うのでないならすぐできると思うよ。帰ったら教えような。
カースこそあの距離なのに狙いが正確だよね。後の三匹だって同時って言われなかったら一発で済んだよね?」
「いやー坊っちゃん方、さすがでさぁ。これでまだ学生ってんだから恐れイリアスホメーロスってもんですぜ。」
ふふ、なんだそれ。恐れ入谷の鬼子母神じゃないのか。
和やかに馬車は進んで行く。
「そろそろお昼にしましょうよ。スパラッシュさん、どこか木陰に停めてもらえるかしら。」
「へい奥様。ではあの先にいたしやしょう。」
母上はおいしそうな弁当を用意してくれていた。
「もう少しで目的地に着くわ。その前に腹ごしらえしておきましょうね。スパラッシュさんも一緒に食べましょうよ。」
「こいつはありがてえ、奥様ありがとうごぜえやす。」
「そういえば母上、外はこんなに暑いのにお弁当は腐ったりしないの?」
「あらカースはまだ知らなかったわね。学校で習うのは四年生だし、これは魔力庫と言って個人個人が持つことができる保管庫なの。場所を取らないから冒険者には必須よね。
容量や性能は本人の魔力次第だし色々と制限もあるけど、私のは物がほぼ傷まないようになってるから安心するといいわ。」
おお、これは俗に言うアイテムボックスか!
フェルナンド先生がペイチの実をたくさん持ってたのも、お土産を持って帰ってくれたのもこれか!
「すごーい! たくさん入るの?」
「そうでもないわよ? この馬車に詰める程度かしら。私のは傷みにくくする方に魔力を使ってるもの。」
「それでもすごい! 僕にもできるの?」
「できるわよ。カースの魔力なら今覚えても問題ないとは思うわ、でも四年生になるまで待ってなさい。魔力をしっかり増やしてから覚える方が効率がいいのよ。」
後二年か、楽しみにしておこう。
こうして私達は場違いに贅沢な弁当を堪能したのだった。
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