姉上は治療室に運ばれて、兄上も同行した。観客達は兄上がいなくなったらたちまち帰ってしまった。今からが面白いのに、兄上以外興味ないのか……
『音に聞こえし魔槍ベルベッタ殿とお手合わせできるとは何たる僥倖。王国一武闘会よりよほど滾るわえ。』
『こちらもだ。徒手空拳で魔物を屠る双拳ゴモリエール。まさか王都で巡り会えるとはな。解説の仕事を受けて本当によかった。』
『さあゼマティス卿は治療室に行ってしまいましたが、武舞台に施された集音と拡声の魔法は問題なく動いております。観客もほとんどいませんが、私一人でも実況を続けたいと思います!』
すごいなご意見番さん。プロだな。
『双方構え!』
『始め!』
三十分にも渡る壮絶な勝負だった。勝ったのはベルベッタさん。しかし重傷なのもベルベッタさんだ。
ベルベッタさんの代名詞とも言えるミニスカート。何歳なのかは分からないが綺麗な足を剥き出しで戦っていた。華麗なステップ、鋭い槍撃、激しい魔法。三拍子揃ったハイレベルな戦士だということが分かった。
対するゴモリエールさんはもっと速く、攻撃は重く、防御も固かった。体捌きもすごいが籠手にも秘密がありそうだ。ちなみに籠手以外はほぼ無防備、ビキニアーマーのような服装なのだ。
二人の戦いは接戦だった。
最終局面、ベルベッタさんの渾身の突きをゴモリエールさんは腹で受けた。当然腹に突き刺さり貫かれる。しかし、ゴモリエールさんはそれでも前進して正拳突き。ベルベッタさんは胸部にモロにくらい倒れ込む。しかし! 倒れ込む一瞬で風球の魔法を使いゴモリエールさんを場外に吹き飛ばした。同時ノックアウトかと思われたが、ベルベッタさんは意地で立ち上がり再び倒れた。
よってご意見番さんはベルベッタさんの勝ちを宣言したのだ。
その後、ゴモリエールさんはふらふらと起き上がり自分で槍を抜き治療室へと歩いて行った。
ベルベッタさんはそのまま起きず、ご意見番さんが慌てて運んでいた。野試合だったらゴモリエールさんの勝ちだったことだろう。おじいちゃんはこんな人と対戦するのか……少し心配になってきたな……
「治療室に行ってくるよ。ソルダーヌちゃんが来たら伝えておいてくれる?」
「いいわよ。ソルが来たら連れて行くわね。」
ゴモリエールさんに挨拶しておかないとな。腹に槍が刺さったのも心配だし。
当たり前だが治療室はバタバタしていた。そこに勝手知ったるとばかりに入り込む私。ナーサリーさんも奮闘していた。さっきまでいなかったのに。この人も大変だよな。
やがてゴモリエールさんの治療が終わったようだ。鮮やかなお手並みだな。
「お久しぶりですゴモリエールさん。具合はいかがですか?」
「おおカースか。珍しい所で会うの。治癒魔法使い殿が凄腕ゆえな、もう大丈夫だわえ。」
「それはよかったです! 今回はお一人なんですか? エロイーズさんは……」
「王都には一緒に来たがの、今は別行動よ。あやつは王都の若い貴族を食い散らかすとか言っておったの。」
何てこった……羨ましい……
そんな幸運な奴がいるのか!
「カース……ソルが来たわよ。」
びっくりした! アレクか、いつの間に!
「八等星アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。いつもカースがお世話になっております。」
「ゴモリエール・バーグマンじゃ。そなたのことはゴレライアス殿からもよく聞いておる。今時誰もやらないような依頼をコツコツと受ける感心な女じゃとの。」
「ゴモリエールさんほどの方にそう言っていただけるとは、光栄でございます。」
「妾も王都生まれクタナツ育ちゆえな。それよりもじゃ。カースがこのように旨そうに育った原因はそなたじゃな。エロイーズが今のカースを見たら大喜びで襲いかかってくるじゃろうて。気をつけることよ。」
「ご忠告ありがとうございます。エロイーズさんであればカースのお裾分けぐらい構いませんわ。」
「ほっほっほ。お裾分けときたか。カースの全てはそなたのものだと言いたいのじゃな? その意気や良し。もっともエロイーズの奴なればそなたを見ても目の色を変えるじゃろうて。」
新情報! エロイーズさんは女の子もイケるタイプだったのか。ぜひ見学したい! あわよくば参加したい! アレクと二人まとめて可愛がってもらいたい!
その後ろでソルダーヌちゃんは複雑な顔をして立っていた。
また別の場所では姉上が兄上と二人だけの世界に入っている。全くあの二人は……
ゴモリエール・バーグマン
ベルベッタ・ド・アイシャブレ
©︎オムライスオオモリ氏
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