依然として散歩は継続中。そろそろ一周したぐらいではないだろうか。
前から歩いてくるのは、庭師のおじさん達かな。こんな時に?
彼らは私とすれ違う瞬間、その手に持った剪定鋏で襲いかかってきた。ちっ、『散弾』
「効かねーな。よぉ魔王、会いたかったぜ?」
私が散弾を撃った瞬間、奴らは全員紫の鎧を纏っていた。『換装』か……こいつらも魔力庫の設定を変えているな。それより今の声……
「テメー、偽勇者かよ……」
「いーや、勇者ムラサキだ。言ったよな? 七回生まれ変わってお前を殺すってよぉ?」
そんなはずがない。あの時私は確かに偽勇者の首を刎ねた。その首と胴体は騎士団に渡した。だが、その時見た素顔と先ほどチラッと見えた顔は全くの別人。しかし声だけは……
『火球』
「あちっ、そんなもんか?」
『狙撃』
「痛って、効かねーな。」
ゾロゾロと私を取り囲む紫の奴ら。二十人弱か……まさか全員偽勇者なのか? 剣まで紫だ。
「さーて覚悟はいいな? 魔王は勇者の手にかかるのが常識ってもんだぜ?」
全員偽勇者なのか、それともこいつだけなのか……『魔弾』
「痛ってぇーー! クソが! やっちまえ!」
『風操』囲まれてんのにじっとしてるわけないだろ。少し上空へ逃げる。ちっ、ナイフを投げてきやがる……なっ、自動防御も効かない! 避けるか虎徹で弾くしかない。
しかし魔法は飛んでこないし、奴らも飛び上がってこない。もしかして、あの鎧を纏っている間は魔法が使えないのか? 欠陥品じゃん。
「それで逃げたつもりかよ!?」
奴らの半数が前腕部の鎧を外し、魔法を撃ってくる。なるほどね、一部でも外せば魔法も使えるわけね。それでも体全体に作用する浮身などは使えないってことだな。バカが!
『水鋸』
鎧がなけりゃお前らなんか雑魚なんだよ! その腕ぶち切ってやるよ!
ちっ、しぶとい……水鋸で前腕を切断できたのはわずか三人、他はギリギリで鎧を装着しやがった……私もそうだが、あの魔力庫の設定は便利すぎるな。岩をも切断する水鋸が紫の鎧の前には、ただのスプリンクラーだ。
その三人も素早く腕をつなぎ合わせてポーションを飲んでやがる……復活される前に『魔弾』『魔弾』『魔弾』……
心臓と頭部を狙い撃ちだ。衝撃で死ぬまで撃ってやるよ!
よし、死んだかどうかは分からないが気を失ったことは間違いないな。しかし、人数が減った気がしない……
まずい……ミスリルの弾丸が残り少ない。普段なら回収しながら使うんだが、あんな鎧を撃ったせいかぐちゃりと潰れてしまって使い物にならない。やばいな……
くそ、今度は剣まで投げてきやがった! 水壁や氷壁で防御しようにもゼリーのように斬り裂かれてしまう……虎徹で弾く分には何とか大丈夫だが……
こんな時は……『燎原の火』魔力特盛だ!
「おいおい、ちっとは熱いけどよぉ、効かねぇのが分かんねーのか?」
ちっ、そこらの庭石が溶けてんだぞ? ちっとは熱いって何だよ! しかし、目的はそんなことではない。
「何事だ!?」
「紫の鎧だ!」
「包囲しろ!」
よし。近衛騎士が来てくれた。これだけの大きな火だ。気付かないはずがないからな。しかも、目的はこれだけではない。
「皆さん! 奴らを炎の範囲から出さないようにしてください!」
「心得た!」
「おう!」
「任せておけ!」
素直に聞いてくれてありがたい!
「バカが! こんな雑魚どもに何ができる! おい、お前ら五人! こんな火なんか無視して殺してこいや!」
やはり偽勇者はリーダーなのか? 近衛騎士に襲いかかる紫が五人。対する近衛騎士は三人、大丈夫か?
押されてる……技量では上回っていても、やはりあの鎧は反則すぎるか……
それにあの紫の剣、近衛騎士の剣や鎧が見る見る欠けていくじゃないか……
悪いが援護する余裕なんかないからな。むしろこっちを助けて欲しい。剣を打ち落としてもまた拾って投げてきやがる。地味に危ない……
ちっ、偽勇者が紫の大剣を投げてきた!
他のナイフのせいで空中なのに躱すスペースがない! 受け止めるしか……なぁっ! こ、虎徹が真っ二つに……咄嗟に籠手で受け止めたがサウザンドミヅチのウエストコートにも傷が付いてしまった…….
「今だ! あれを投げろ!」
なっ! 全員が短剣を投げてきやがった! やばい!『金操』効かない! それなら籠手で弾いて……
だめだ、手が足りない! 刺さる……
きぃん
快音を立てて私の喉元に迫っていた短剣が弾かれた。これは流星錐!?
「待たせたな。」
おお! アステロイドさん! 助かった!
「アステロイドさんの読み通りでしたね。」
オディ兄も! 読み通りって何だ?
「アステロイドさん! オディ兄! 今落ちた短剣は絶対触らないで!」
「おおよ。分かってるぜ。」
「もう大丈夫だよ。」
二人だけじゃない! 他の近衛騎士も! 国王も姿を現した! そして国王の号令がかかる。
「囲め!」
そろそろだな。再び『燎原の火』
「ちっ! どんだけ人数が増えようが燃えようが俺らに効くかよ!」
ふふ、気付いてないな。ほーら周りをよく見てみやがれ。お前以外はどうなってる?
「お、おい! お前らどうした! 立て! こんな火なんかちょっと熱いだけだろうが!」
やはりな。所詮はただの人間。熱さが効かなくても酸素は必要だろうよ。あれだけの火の中にいるんだからよ。酸素なんかすぐ無くなるさ。でも何でこいつは倒れないんだよ。
『断頭台』
脳天にミスリルギロチン、それもノコギリ部分を落としてやった。もちろん衝撃貫通も付いてる。
「クソが! 痛ぇじゃねぇか! 降りてこいや!」
だから! なんで痛いで済むんだよ!
「俺が相手をしてやるよダメ勇者ぁ!」
おっ、アステロイドさんがやるのか! 炎の中にいても流星錐なら関係ないもんな!
「そんなショボい武器が効くかぁ! チマチマやってんじゃねぇぞ!」
偽勇者はそう言って炎から出てこようとするが、近衛騎士団の槍や刺又に阻まれ動きがとれない。ナイスアシスト! ならば私も『断頭台』
首元めがけてギロチン、今度は刃の部分をぶつける。刃こぼれ上等だ。その首もう一回ぶち切ってやるよ!
「くそがああぁぁ! 降りてこいや魔王おおぉぉぉ!」
ハマったな。自慢の大剣も手放しているし、他の奴らは倒れている。おまけに魔法は使えないときた。とどめだ!
『徹甲魔弾』
真上から脳天直撃。奴は膝まで地面、いや溶岩にはまり込んだ。しかし今の一撃で徹甲魔弾も使えなくなってしまった。何と恐ろしい鎧なんだ……だが、収穫あり!
奴の兜が脱げた!
「今だ! やれ!」
「「押忍!」」
アステロイドさんの声に私とオディ兄が同時に反応した。私はミスリルギロチンを横滑りさせ奴の鼻から上を切断し、オディ兄は鼻から下、首あたりをグチュっと潰した。舞い上がった頭部はアステロイドさんが流星錐で貫いている。回収するためか。
これで終わったか……
「総員退避! 直ちに鎧を脱ぎ治療せよ!」
近衛騎士は全員炎から距離をとり、鎧を脱ぎ捨てる。
ほぼ全員がひどい火傷を負っている……近衛騎士団の鎧はかなり高性能なはずだ。それでも燃え盛る炎、煮えたぎる溶岩の前には無茶だったか。槍一本分、刺又一本分の距離まで近づいて、身を焼く熱気の中で奴を抑え続けていたのだ。国王からの退避命令がかかるまで微動だにせず。さすがに近衛騎士はハンパじゃないな……
これで残りは幹部だけか……
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