まだ昼にもなってない時間からゼマティス家を目指す。これがまた遠いんだよな。かと言って馬車に乗る気などない。歩くのが一番だよな。久々の王都だし。
第三城壁内に入るにあたっては貴族用門で国王直属の身分証を出してみる。さすがにスムーズに通れたな。
そして懐かしきゼマティス家に到着。門番さんも快く取り次いでくれた。
そして玄関に現れたのは……
「ボス、ようこそお越しくださいました!」
元ニコニコ商会、傀儡のセグノだった。そういえばこいつ、ここでメイドしてるんだったよな。おじさんのお手付きで……
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。伯母様はおいでか?」
「はい、ご案内いたします!」
今の時間帯だと、伯母さん以外はみんな留守だろうな。
案内されたのは応接室か。
「失礼いたします。カース様をお連れいたしました。」
「入りなさい。」
「こんにちは伯母様。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「ピュイピュイ」
「ようこそカース君、コーちゃん。突然来るのね。あなたらしいわ。で、王都に着いたのは一昨日かしら?」
はは、やっぱバレてるのね……
「ええ、ヴァルの日に着きました。それから無尽流に顔を出したりセンクウ親方のところに寄ったりしてました。」
「そう……あなたも忙しいわね。ここには何日ぐらい滞在できそう?」
「二泊ほどご厄介になれればと思います。明後日の昼にはフランティアに帰ろうと思ってますので。」
「そう。本当に忙しいのね。働きすぎじゃないかしら? 今日ぐらいゆっくりするといいわ。もうすぐお昼だし。」
「ありがとうございます。そう言えばおじいちゃんとおばあちゃんはまだ旅の最中ですか?」
これも気になってたんだよな。いつかフランティアにも来てくれると思っているんだが全然来ないんだから。
「そうみたいね。春ごろ手紙が届いた時にはサヌミチアニに居たみたいよ?」
「ええー! サヌミチアニですか!?」
てことはもうとっくに領都に居てもおかしくない。春にサヌミチアニからの手紙がここに届いたってことは、去年の冬は確実にサヌミチアニに居たってことだ。それが今になっても領都にすら現れてないって……どんだけ寄り道してんだよ。まさか小さい村とか全部回ってるんじゃないだろうな。
「フランティア領都やクタナツを訪ねるのを楽しみにしているみたいだったわよ? 元気で結構なことだわ。」
「元気なら安心ですね! 会える日を楽しみにしておきます!」
それにしても時間かけすぎだよな。ゆっくりのんびり歩きで旅しているのだろうか? それとも行く先々で水戸黄門してたり?
それから昼食をご馳走になり一息ついた。現在は伯母さんとティータイムだ。
「で? なぜディオン侯爵家を皆殺しにしたの?」
昼下がりのティータイムの話題ではないぞ。修学旅行の夜に、好きな人いるの? って聞いてくるトーンだし。
「母上の指示ですよ。ディオン侯爵家はキアラが目障りなようで。それでキアラを狙ったものですから止むを得ず皆殺しにしました。通いの料理人は幸運でしたね。」
「いくつになっても魔女は魔女ね。私は王都育ちでグレゴリーとは幼馴染みだったからイザベルさんのことも昔から知ってるわ。あの人は本当に容赦ないわ。」
なんと。マルグリット伯母さんとグレゴリウス伯父さんは幼馴染み! 初耳だ。この過酷なゼマティス家にあって、どこかほっこりするな。
「小さい頃に王国一武闘会で優勝したそうですね。」
母上の昔のエピソードって詳しくは知らないんだよな。皆殺しの魔女って呼ばれるぐらいだから相当なんだろうけど。
「あの時は驚いたわ。だってその時の大会って宮廷魔導士の中堅レベルも大勢参加していたし、決勝戦の相手なんか今の宮廷魔導士長マナドーラ様よ? それが相手にもならなくて王都中に激震が走ったわ。」
さすが母上。誇らしすぎる。そんな母上によく他の貴族は毒を盛ったりしたもんだよな。いや、むしろ毒を盛る以外対抗手段がなかったとか?
それより母上が参加したってことは……
「それってもし優勝できなかったらおじいちゃんに殺されてたってことですよね?」
「きっとそうね。お義父様は孫には甘々だけど子供達には厳しかったから……グレゴリーの兄と弟はそれで殺されてしまったし。イアレーヌお姉様も……」
小さい体で甘々なおじいちゃんもやっぱり貴族なんだよな。厳しい生き方だ……
「あ、それで思い出しましたけど、イアレーヌさんの息子のコルプスって奴に会いました。フランティア領都のギルドで副組合長をやってました。なかなか凄腕でしたよ。」
「まあ! 子供がいたのね。父親は誰かしら?」
「えーっと家名はガルドリアンでした。」
「なるほど……マーシナルね。セグノ! ポリシナルを呼びなさい。」
「かしこまりました」
セグノめ。いっぱしのメイドらしい動きをしてるじゃないか。
「奥様、お呼びでございましょうか」
「カース君、紹介するわ。我が家の警備隊長ポリシナル・ガルドリアンよ。」
ん? ガルドリアン?
「カース・マーティンです。」
「代々ゼマティス家の警備を担当しておりますポリシナル・ガルドリアンです。いつぞやはカース様に奥様をお救いいただき感謝しております」
あの時か。伯母さん最後は一人で戦ってたもんな。警備隊は全滅してたのかな?
「カース君がマーシナルの行方を教えてくれたわ。フランティアに居たみたいね。そこでイアレーヌお姉様との間に子供をもうけてたみたいよ。あなたの甥ね。」
「そうですか……あの愚弟が……」
普通ボディーガードが警備対象と駆け落ちするって大失態だよな。それなのにこのおじさんの地位が変わってないってことは問題視されてないのか?
「愚弟のしたことは擁護できません……しかし、逃亡したイアレーヌお嬢様を放っておくこともできない……マーシナルの判断は間違ってなかったと、今でも思っています……」
逃亡? 母上に負けたから逃げたってことか。おじいちゃんに殺されるから? この家はどうなってんだよ……
私がディオン侯爵家を皆殺しにしたことなど最早どうでもよくなっている。
「話はそれだけよ。甥が生きててよかったわね。」
「はっ! 奥様のご厚情に感謝いたします!」
あれ? 私、副組合長の両親は死んでるなんて言ってないぞ? 死んでるのを前提に話が進んでる……
まぁいいか。実際死んでるし。
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